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JUBEE『Liberation』

今年3月にSonic YouthのKim GordonがMatador Recordsから発表した2ndアルバム『The Collective』はTrapやSoundCloud Rapの要素をアヴァンギャルド/ジャンク/ノイズ・ロックといった彼女が歩んできた道筋と並べ、インダストリアル、DUB、トリップホップを微量に混ぜ込んで作り上げた異形の傑作であった。『The Collective』はCharli XCX、Lil Yachty、Yves Tumorのアルバム・プロデュースを手掛けるJustin Raisenがプロダクション/エンジニアリング/ミキシングを担当しているのもあり、ヒップホップとロックがプロダクション面においても素晴らしいバランスでミックスされている。

『The Collective』はロック界隈だけではなく、ヒップホップのリスナーやクリエイターを引き寄せる魅力に溢れており、このアルバムを起点として新たな流れが起きそうである。今作がDälek、Techno Animal、MC Paul Barman、Mr. Len(Company Flow)、Live Human、The Arsonistsなどのオルタナティブ/エクスペリメンタル・ヒップホップの名盤をリリースしているMatador Recordsから発表されているのも歴史を感じさせる。

ヒップホップとロックの融合では、イギリスらしい土着感でパンク~グライム~ヒップホップをミックスするBob Vylanのニューアルバム『Humble As The Sun』、ミクスチャーの先駆け的バンドであるICE T率いるBody Countのニューシングル「Psychopath」も流石の仕上がりであった。メタル~パンク・シーンと強く共鳴しているHo99o9はBoys Noizeとのコラボレーション・シングル「Off The Meter」でヒップホップとパンクにハードコア・テクノまで飲み込み始めている。

少し前にはハードコア・バンドSouthpaw FLHCはVexed、Holy Smoke Recordsといったラッパー達をフィーチャーしたシングルで90年代的なハードコア/ヒップホップの融合を現代に蘇らせ、Judas PriestやKraftwerkを聴いて育ったというラッパー/シンガーソングライターTeezo Touchdownのアルバム『How Do You Sleep at Night?』はLil Uzi Vert『Pink Tape』とは違った形でヒップホップとロックの融合を実現させていた。

日本ではBAD HOPのライブを金子ノブアキ、KenKen、masasucksといったロック・バンドのメンバーがサポートし、CrossfaithはralphとOVER KILL(Fuji Trill & KNUX)とのコラボレーションを行い、RIZEの活動再開も話題となった。
様々な音楽を吸収して目まぐるしいスピードで進化し続けている現代のヒップホップにはロックの要素が大きくあるように見える。

上記のようにヒップホップとロックは以前よりも自然な形でお互いの中に溶け込んでおり、ヒップホップ/ロックのどちらでもないカテゴライズが難しい特殊な作品が続々と生まれており、その中間を狙うミクスチャーというスタイルは一部を除いて消散しているように見える。

だが、ヒップホップとロックを強い情熱を持って結び付けて自身のアートフォームとして双方のシーンに叩きつけているのがJUBEEだ。先月発表されたニューアルバム『Liberation』はJUBEEの情熱的なリリックとタフなラップ・スキルによってヒップホップとロックを彼独自の感性で混合させ、ミクスチャーというスタイルを大きく更新させた傑作である。

JUBEEが心血を注いで産み落としたミクスチャー・スタイルが開花した前作『Explode』は90~00年代のミクスチャー黄金期を体験している30~40代を魅了しただけではなく、肝心な若者の心をガッチリと掴み日本のヒップホップ・シーンで唯一無二のラッパーとしての地位を獲得させた。
『Explode』という高い壁を『Liberation』は飛び越え、我々がまだ体験したことのない領域にJUBEEは大きく踏み込み始めた。

『Liberation』にはTSUBAME、Yohji Igarashi、CYBERHACKSYSTEM、in-d、hiyadam、清水英介(Age Factory/AFJB)、(sic)boyといったお馴染みの面子から日本のロック/ミクスチャー史に欠かせない重要人物である上田剛士(AA=)、JESSE(RIZE/The BONEZ)が参加。彼等コラボレーター達とJUBEEが目指すビジョンをしっかりと共有し、お互いの魅力を引き出しあうことに成功しているのが今作を傑作へと導いている。

JUBEEは『Mass Infection』~『Mass Infection 2』~『Explode』でヒップホップ/ロックにハードコア・テクノ~2ステップ~RAVEをミックスさせているが、『Liberation』ではドラムンベース/ジャングル~レゲエのエッセンスを取り込んでおり、ラガマフィン的なフロウを披露。JUBEEのミクスチャー・スタイルを支えるエレクトロニックなサウンドに厚みが増している。
去年リリースされたYohji IgarashiとのコラボレーションEP『electrohigh』やRave Racers名義での活動、クラブでのライブやDJプレイを通じて得たダンスミュージックの爆発的なエネルギーとクラブ・カルチャーの華やかさが『Liberation』に注がれているのが、他のミクスチャーにはないJUBEE独自のものであると思う。

JUBEEのトラックの多くは上記サブジャンルからの影響を受けたダンスミュージックを土台としているが、「俺の根はB-boy a.k.a. ミクスチャーの申し子」(RED CAP feat. MUD)、「歪むミクスチャーサウンド」(PICK UP THE PIECES (Mass Infection Mix))と歌っているように、自身のスタイルの核心部にはミクスチャーがあることを誇っており、確かな意思を持って固定化したミクチャーの概念を壊そうとしているように見える。

Age Factoryと結成したAFJBでバンド・シーンに参入し、ロック・フェスやバンドとの対バン・ツアーでフィジカル度を上げ、CreativeDrugStoreでは現行ヒップホップのトレンディなビートから00年代的なメロウなビートまで乗りこなし、ラッパーとしての幅の広さを証明し、バンドのフロントマン/ラッパーとして自身の成長させ続けたからこそ『Liberation』という完璧なバランスを持ったアルバムを作れたのだろう。

ヒップホップに比重を置いたミクスチャーの名盤であるCrazy Town『The Gift of Game』、ドラムンベース・コレクティブRoni Size & ReprazentがMethod Man、Rahzel(The Roots)、Zack de la Rocha(Rage Against the Machine)をフィーチャリングした『In the Mode』、ジャングル/ブレイクビーツをバンド・サウンドの中心に配置したAsian Dub Foundation『Rafi's Revenge』、smorgus『Questionary 』、またはTransplants『Transplants』などの傑作に通じる革新的なものが『Liberation』にはある。

Future Retro LondonからのEPリリースやBIM『bussy - EP』へのトラック提供も記憶に新しいSubmerseのプロデュースによるジャングル・トラックのうえでB-boy根性を賛歌する「Impala feat. OMSB」、密っぽい90's R&Bのフィーリングとリリックが心地よい「Droptown feat. 牛丸ありさ」、「BLUE ZONE」「TOKYO NIGHT」に続くクラブ・カルチャーの醍醐味を歌った「SP!N」など名曲揃いの『Liberation』であるが、JUBEEが以前からその影響をリリックに込め、インタビューでも熱く語っていた上田剛士との「Re-create」「PICK UP THE PIECES (Mass Infection Mix)」の2曲は意味深いものがある。

JUBEEと上田剛士はJUN INAGAWA原案のTVアニメ「魔法少女マジカルデストロイヤーズ」のOPソングである愛美「MAGICAL DESTROYER」の制作に関わり、AA=とAFJBが対バンするなどはあったが、この度遂にコラボレーションが実現した。
ロッキンなブレイクビーツと軽快なギターがミクスチャー好きをノックアウトさせる「Re-create」、ジャージークラブをハードコア化させたようなトラックにTHE MAD CAPSULE MARKETS「Gaga Life」を引用したJUBEEのラップが素晴らしい「PICK UP THE PIECES (Mass Infection Mix)」、この2曲は上田剛士ファンも絶対に納得できるだろう。

ミクスチャーというスタイルを更新させながら唯一無二のスタイルを獲得した『Liberation』は2020年代のヒップホップ/ロック両方の歴史に欠かせないアルバムとなるだろうし、ミクスチャー再燃のトリガーにもなるかもしれない。

アルバムのオープニングを飾る「Liberation」で歌われているように、JUBEEはライブで得られる解放感、生の実感を最重視しており、今作は彼のライブパフォーマンスを体験することによって完成する作りとなっている。現在、アルバムのツアー中で各都市でライブをしているので是非ライブに足を運んでみて欲しい。


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