『ハードコア・テクノ・ガイドブック オールドスクール編』発売によせて
『ブレイクコア・ガイドブック』に続いて、パブリブから『ハードコア・テクノ・ガイドブック オールドスクール編』という書籍を今月発売させて頂いた。
この本は『オールドスクール編』とあるように90年代初頭にドイツやアメリカを中心にヨーロッパで爆発的に盛り上がっていたハードコア・テクノの最初期について纏めている。
ハードコア・テクノの生みの親である「Marc Acardipane」や、80年代から数多くのハウス/テクノ・クラシックを残している「Lenny Dee」、Greater Than One/GTO/Tricky Disco/John + Julieといった名義で様々なジャンルに影響を与えた「Michael Wells(Technohead)」といった30年以上のキャリアを誇るアーティストや、日本のハードコア・シーンの土台を作り上げた「Shigetomo Yamamoto(OUT OF KEY)」と「Hammer Bros」、アシッド・テクノを軸に病的なアシッド・チューンの傑作を多く発表したDrop Bass Networkのオーナーである「Kurt Eckes」、ブレイクコアの発展にも大きく関わった「Deadly Buda」など、本当に凄まじいアーティストが貴重な話を沢山聞かせてくれた。
『ハードコア・テクノ・ガイドブック オールドスクール編』の発売によせて、ここでは冒頭部分のコラムで紹介した当時のテクノの流れを曲も交えて少し紹介したい。
1990年-1992年
『オールドスクール編』の冒頭にある90's Hardcoreのチャプターで触れているが、90年前半のテクノ・シーンには多種多様なスタイルがあり、その中でもハードで過激な作風が人気であったようで、Marc Acardipaneと彼のレーベルであるPlanet Core Productions(以降PCP)、Lenny Deeと彼のレーベルIndustrial Strength Recordsがリリースしたハードコア・テクノのレコードは非常に大きな影響力があった。彼等のレコードはSven VäthやCarl CoxもDJで積極的にプレイしており、BBCのJohn Peelも自身の番組でプレイし、MAYDAYなどの大規模RAVEにもハードコア・テクノのアクトは常に出演していた。
世界で最初のハードコア・テクノのレコードとされるMescalinum Unitedの「We Have Arrived」を収録した12"レコード『Reflections Of 2017』が発表されたのが1990年。このレコードの影響は凄まじい勢いで世界中に飛び火していき、「We Have Arrived」に触発された作品が続々と生まれ、それを上回るハードなトラックも作れていき、それによってオランダのガバを筆頭に様々なサブジャンルが確立されていった。
Marc AcardipaneとLenny Deeだけが特別に目立った存在という訳ではなく、他にも彼等の様にハードで実験的なテクノを90年代初頭からクリエイトしていたアーティストはいる。その一例として、ライブパフォーマンスや作品の展開などでMarc Acardipane/PCPと似た方向性を突き進んでいたアメリカのUnderground Resistanceは『Punisher』(1991年)やX-101名義の『X-101』(1991年)で攻撃的なサウンドを展開。Jeff MillsはAnthony SrockとのユニットFinal Cutとして発表したアルバム『Deep In 2 The Cut』(1989年)でMescalinum Unitedと同じく、インダストリアルやEBMをテクノと混合させたダークなトラックを生み出していた。
だが、Underground Resistance/Final CutよりもMescalinum Unitedは「We Have Arrived」でストレートに歪みと厚みを強調し、現代に通じるハードコア・テクノを作り上げており、テクノとハードコア・テクノの明確な違いが当初から表れている。「We Have Arrived」の制作秘話に関しては『ハードコア・テクノ・ガイドブック オールドスクール編』にてMarc Acardipane本人によって解説されているので気になった方はご覧頂きたい。
1992年になるとPCPとそのサブレーベルDance Ecstasy 2001からリリースされた数々のシングルがヒットし、PCPの面々は雑誌の表紙を飾るなどテクノ・シーンで話題の存在となっていた。そしてPCPの勢いに同調するかのように、ハードコア・テクノのレコードが各国から登場。MAYDAYにはオランダのガバ勢が出演し、WestBam『The Mayday Anthem』にはDJ Paul Elstakのリミックスが収録。Circuit Breaker(Richard Hawtin)『Trac-X』、Caustic Window(Aphex Twin)『Joyrex J5 EP』、Loopzone(Mijk Van Dijk)『Home Is Where The Hartcore Is』といったアーティスト達もハードコア・テクノにフォーカスした作品を残している。
そして、1993年にMAYDAYである事件が起きる。それが全てではないが、これをキッカケにハードコア・テクノは一つの分岐点を迎え、ハードコア・テクノはテクノ・シーンから離れていき、今に通じる道を辿り始める。
『ハードコア・テクノ・ガイドブック オールドスクール編』は90年代の話がメインではあるが、当事者達によって語られるRAVE黄金期の話や当時のハードコア・テクノに対する人々の反応など、驚くほどに近年のハードコア・テクノ、そしてRAVEシーンを取り囲む状況と似ている。この本では最後にPost Raveというチャプターを設けており、そこで近年のハードコア・テクノのリバイバルとPost Raveというカテゴリーに関して推測しているのだが、何故このチャプターがあるのかというと、『ハードコア・テクノ・ガイドブック オールドスクール編』を過去の話だけにせず、全てが繋がっているのを証明する為でもある。ただの懐古主義な内容ではなく、ハードコア・テクノが持っている多様性と実験精神に基づき、出来るだけ多角的な視点でこの本を作り上げた。現行のハードコア・テクノやインダストリアル・ハードコアなどのサブジャンルのファンの方々やハード・テクノ、そしてRAVEミュージック・ファンにこそ是非読んで頂きたい。お近くの書店で見かけた際には一度手に取ってみてみて貰えたら光栄である。