Ministryが日本のV系に与えた影響
2024年3月1日に16枚目となるアルバム『Hopium for the Masses』の発売を控えているアメリカのインダストリアル・メタル・バンドMinistry。
バンドの中心人物であるAl Jourgensenは現在65歳であるが、未だ精力的にライブを行っており各国のメタル系フェスティバルに出演。去年はGary Numan、Front Line Assemblyとのツアーを成功させ、来月から再び怒涛のツアーが始まる。
2018年に発表された『AmeriKKKant』以降、ドイツの老舗メタル・レーベルNuclear Blastを拠点にアルバムを出しており、Ministryのエクストリームなインダストリアル・メタル・スタイルは止まらず更新され、Al Jourgensenの創作意欲は尽きることなく形となって届けられている。近い将来、1stアルバム『With Sympathy』を再録するという往年のファンは気絶するくらいに嬉しいニュースもあり、既にアルバム収録曲「Revenge」のリメイクをライブでプレイしていた。まだまだ現役としてメタル・シーンを突き進んでくれそうで安心する。
Ministryはインダストリアル・メタルというジャンルにおいて絶対的存在であり、彼等に影響を受けたと公言するバンドは世界中にいる。Ministryの曲は様々なバンドにカバーされ、トリビュート・アルバムも作られた。2012年に発売されたドキュメンタリーDVD『Fix: The Ministry Movie』にはTrent Reznor、Maynard James Keenan(TOOL)、Jonathan Davis(KORN)、Buzz Osborne(Melvins)、Dave Navarro(Jane's Addiction)などが出演し、Ministry/Al Jourgensenに対してそれぞれの想いを話しているのを見ると、その偉大さと狂気性に改めて気付かされる。ちなみに、このドキュメンタリーのAl Jourgensenはバキバキの超ドラッグユーザー時代で、全編を通して衝撃シーンの連続。音楽とドラッグの歪な関係が隠されずに映し出されたすごい作品だ。(ラストシーンはホラー映画の領域)
さらに、インダストリアル・ダンス/EBMの流れから見てもMinistryは重要な役割を果たしている為、初期テクノにも彼等の影響は行き渡っている。Jeff MillsはインタビューにてMinistryからの影響を語り、石野卓球も書籍『テクノボン』でMinistryを取り上げるなど、広範囲に渡ってその影響は浸透している。
インダストリアルな質感とメタル的なメンタリティを持つハードコア・テクノ、ドラムンベース、ブレイクコアの中にはMinistryをサンプリングした曲が沢山ある。
Ministryの影響は日本のバンドにも広がっており、特に90年代のV系(ビジュアル系)には深く深く影響を与えているのではないだろうか。Ministryがいなければ日本のV系は今とは違ったものになっていたと個人的には思う。
また、V系に限らずメタルやハードコア・バンドがサンプラーを導入するキッカケの一つとして、Ministryの存在は大きかった。90年代前半の『FOOL'S MATE』『SHOXX』『GIGS』『ロッキンf』を読むと、色々なバンドのインタビューでMinistryの名前を見かけることができるし、オリジナル・アルバムは殆ど日本盤が出ていることから、その人気が窺える。
Ministryが発明した手法
1988年に発売された『The Land of Rape and Honey』にて、2ndアルバム『Twitch』で生み出したインダストリアルとEBMを下地とした工場機器が奏でたようなビートをギターにも応用し、メタルやパンクよりもマッシブなギターをサンプラーを駆使して無慈悲なほどに正確に弾き鳴らすマシーンメタルなスタイルを発明。ロボットがメタルを演奏したらこんな感じなんだろうなと思わせるバックトラックに、荒々しくも気怠さがあるAl Jourgensenの歪んだボーカルが合わさったアルバムのオープニングを飾る「Stigmata」はMinistryの方向性を決定づけ、インダストリアル・メタルというジャンルの青写真となった。
『The Land of Rape and Honey』の発売から少し後、Buck-Tickが1989年1月に発表した『TABOO』収録「ICONOCLASM」で「Stigmata」と同じような手法を使い、Buck-Tickならではのインダストリアル・ロックを披露。『TABOO』以降、インダストリアル・メタルからの影響を独自解釈していき、それらの要素は耽美で官能的なBuck-Tickのロックに肉付けされていった。
1989年発売の『The Mind Is a Terrible Thing to Taste』でMinistryはさらにスラッシュ・メタルに近付き速度と攻撃性を高め、メタル・バンドにまったく引けを取らない強靭なサウンドとスピードを手に入れる。
メタリックなマッチョイズムを強める一方、PILやPOP Groupが切開いたポスト・パンクの流れを継承した「So What」では、至高のベースラインと四つ打ちによるトリップからメタルの爆発的な解放感が組み合わさるというディスコ・パンク的な曲もあり、Ministryのユニークな経歴が上手く活かされていた。
V系からは離れるが近しい場所で活動していたTHE MAD CAPSULE MARKETSもMinistryに強く共鳴し、1992年11月に発売された『SPEAK!!!!』や次作『MIX-ISM』でMinistryのインダストリアル・メタルを消化し、機械的でありながらハードコア・パンクのルーツが反映された生々しい人間味を感じさせるTMCMオリジナルのスタイルを確率。
ハードコア・パンクを通過してMinistryのスタイルに共鳴した点では、ハイテクノロジー・スーサイドも近いかもしれない。
1992年に発表されたアルバム『Psalm 69』にてMinistryのインダストリアル・メタル・スタイルが完成。『Psalm 69』はオルタナティブやグランジ層、ハードコアやミクスチャーのシーンからも絶賛され、日本のV系バンドは『Psalm 69』からの影響が特に大きく、アルバムに収録されている「Jesus Built My Hotrod」にインスパイアされたと思える曲が幾つかある。
1991年にアルバムの先行シングルとしてリリースされた「Jesus Built My Hotrod」は名曲揃いのMinistryの中でも上位の人気があるが、この曲が同業者に与えた衝撃は相当に大きかったと予想される。ロックンロールが持つドライブ感のある跳ねたグルーブを最大活用しつつ機械的なインダストリアル・メタルに仕上げた「Jesus Built My Hotrod」は革命的であったはずだ。
1994年2月に発表されたX JAPANのhideによる1stアルバム『HIDE YOUR FACE』収録「SCANNER」、同年に発表されたLUNA SEAの『MOTHER』収録「CIVILIZE」には、「Jesus Built My Hotrod」を模範として(ドラムの構成以外にも)作られた部分があるように感じる。
LUNA SEAは「SLAVE」でインダストリアルなサウンドを取り入れ、MVにもそれらの要素が反映されていた。
hideはMinistryからの影響が色濃く、「DOUBT」「DAMAGE」「BACTERIA」といった曲や、X JAPAN「DRAIN」などにその影響を見出せる。
1990年から1993年にかけてOPTIC NERVE、DEF.MASTER、SCREAMING MAD GEORGE & PSYCHOSISといったバンドがMinistryを筆頭としたインダストリアル・メタルに共鳴した作品を展開し、インダストリアル・メタルが新しい波としてバンド・シーンに広がっていたと思われる。1992年にはコンピレーション・シリーズ『DANCE 2 NOISE』が始動したのも後押しとなったろう。
これには、時代の空気感も少なからず影響しており、インダストリアル・メタルの近未来的(当時は)で退廃的な世界観は、ヘビーメタルとデガダンスな背景が融合したV系バンドにとって自分達の音楽をアップデートさせるのに必要なものだったのかもしれない。
Ministryが発明したサンプラーを駆使したギターのループやカットアップ、EBMとスラッシュ・メタルを合体させたマシーンビート、ディストーションをたっぷり塗したアジテーション風ボーカルなどがV系バンドに響き受け入れられ、ゴシック・ロック〜ポジティブ・パンク〜ヘビーメタルを音楽的な基盤としたV系に新たな柱が付け足された。
SOFT BALLET
Ministryからの影響が顕著に出ているのが、V系バンドやファンからも絶大な支持を受けていたSOFT BALLET。メンバーの藤井麻輝氏はニューウェーブ/インダストリアル・ミュージックに精通しており、Ministryをデビュー当時からチェックされていたそうだ。
SOFT BALLETは初期からインダストリアル/EBMテイストがあったが、アルバム『愛と平和』辺りからMinistryのインダストリアル・メタルを模範とした曲が作られていき、「VIRTUAL WAR」は構成が「Stigmata」から引用されていると思われ、1995年発表のベストアルバム『SOFT BALLET』収録「NEEDLE」(再録ver)は「Burning Inside」を引用しているのではないだろうか。もしかしたら、日本で一番Ministryの影響を受けたバンドの一つかもしれない。
Ministry以外からの影響も随所に感じられ、アルバム『INCUBATE』収録「PILED HIGHER DEEPER」(TMCMの上田剛士氏が参加)はNine Inch Nails「Happiness in Slavery」の構成(ベースラインなど)にインスパイアされているように聴こえる。
こういった露骨にも聴こえる引用方法であるが、SOFT BALLETは天才的な作曲能力とボーカル遠藤遼一氏の詩世界によって唯一無二の作品を作り上げて差別化できていた。
V系バンドの優れた点として、複雑な演奏と世界観をキャッチーに纏め上げる技量がある。彼等はMinistryの際どい表現方法やエクストリームな音のアプローチをトリートメントし、自分達の音楽に手法として引っ張ってきた結果、キャッチーになりインダストリアル・メタルの敷居を一般層にまで下げて広めるキッカケを作ったと思う。
2016年に出版された『ヘドバン Vol.11』での「SCHAFT後夜祭! 上田剛士(AA=) × 今井寿(SCHAFT/BUCK-TICK)× 藤井麻輝(SCHAFT/minus(-))」にて技術的な側面も含めてインダストリアル・メタルについて三人が話しているのだが、これが非常に良い内容なので機会があれば読んでみて欲しい。
Buck-Tick、hide、SOFT BALLETの影響下にいるV系バンドは自動的にMinistryのインダストリアル・メタルを無意識にも受け継いでいるといっていいはずだ。
Ministryも活動初期はDepeche ModeやMark Stewartを模範したような曲があったが、実験を重ねていき自分達の音楽を固めていった。誰もが誰かの影響を受けている。受けた影響に自分の経験や想いを乗せることにより、その人にしか作れないものを生み出し、それに誰かが影響され、新しいものが作られていく。この壮大なサイクルはとても美しく感じるし、ルーツを辿るのも楽しい。
MinistryとV系の関係を掘り下げれば、まだ面白い繋がりを見つけることができるだろう。