
『三体』――人類の可能性を挑戦する、SFの真髄【ネタバレ注意】
中国のエンジニア、劉慈欣(リウ・ツーシン)が紡いだこの物語は、
三体は中国のエンジニアが書いたSF作品である。
アイデアの根っこは数理モデルとシミュレーションによって得られる結果に基づいたものが多い印象。
(あとがきでも述べていた)
見どころ
この作品では、量子力学や光速に関わる古典的力学に基づいた現実的なSFアイデア・仮説を披露され、それらが哲学と結び付けられている。
※なお、哲学的要素は生物が主義思想に基づいて動くという前提を置くことで、それぞれ登場人物(宇宙、地球人、三体人)がどのように行動するか、を論理的に説明が出来るために人物に対する思想の定義付けが必要となる。
そのため、SFアイデア(技術)を使用するキャラの思想が重要となる。
確かに計算上、こういう行動を取るか、という部分を、極力論理的にシミュレーションしてくれているため、そこが本作の面白いところだ。
批判に関する個人的解釈
なお、この作品は度々批判の対象となることも多い。
主に文学作品通の方から、「キャラクターがイタイ」「高文明が攻めてきたっていうストーリーが陳腐」「人物描写が下手」といった批判内容が殆どである。
が、この作品の良さはそこではないので、個人的には問題ない。
この作品は、リアリティあるSFアイデアを沢山披露され、「その手があったか!」と作者の空想を楽しむものであって、文学的にどうたら、よくある話だ云々などの批判はごもっともと思うが、正直どうでもいい。
そこがミソではない。
また、人物描写はさておき、物理現象の描写に関しては割とリアリティのある表現ができていると思う。
→特に「人類が智子を知覚する」という展開は、人類が智子を認識していく過程をうまく段階を踏んで表現している。
4つの「もしも」
第一巻は、以下4つの「もしも」を出発点として、シミュレーションした場合こういう展開になりうるを描いた内容だ。(と個人的に解釈してる)
仮説① もしも、最も近所の恒星系である4光年離れたケンタウルス座アルファ星という3重星系に、生物が居住可能な惑星が存在したら?
仮説② その惑星に非常に高度な文明を持つ生物が存在したら?
仮説③ 太陽が電波を何万倍にも増幅させる巨大スピーカーの性質を持っていたら?
仮説④ もしも、超ひも理論が正しく、量子世界で11次元を有し、多次元状態をコントロールできたら?
第1巻のSF要素の感想
第一巻はまさにSFっぽい。
恒星が3つ存在する恒星系の惑星の住民たちの悩みを、3体問題(※)から導き出し、恒星がどう動くか予測できねえよ、、ってなって、彼らは手頃な星があればお引越ししたいと思っているのも納得。
また、冒頭に中国の文化大革命の悲惨な状況を描いたのも、
後に主人公が人類に失望し、全地球人を裏切る行為である太陽にSOS電波を送ることの布石として必要な描写だった。
※SFアイデアとして、カーボンナノチューブの話も出てくるが、あれは枝葉のSFアイデアに過ぎないので割愛。
後に、宇宙エレベーターの話があるから、そこと繋げたかった意図があるとは思うが、重要ではない。
そして、陽子であれば凡そ光速で送れそうだよね、という発想から、1粒の陽子を9次元展開して情報を詰め込みまくり、3体惑星から、超人工知能陽子(智子)を地球に送るっていうとんでも展開がアツい。
この量子は11次元説に基づいたSFアイデアではあるが、3巻で超重要な根幹の考え方になってつながってくるのがよい。
これによって、量子もつれを利用したリアルタイム恒星間コミュニケーションが可能になり、三体人が地球をリアルタイムで観測することが出来るようになってしまうのも自ずと理解できる。
(ちなみに、量子もつれを利用した遠方のコミュニケーションは、現実に地球上でも実験が成功している)
ホーキング博士のおかげで素粒子物理学もその存在が広く世に知れ渡ったことで、SF作品に取り入れられるようになったんだな、と感じる。
第1巻の人物行動に対する感想
第一巻は、地球人同士が意見の食い違いによりぶつかりあう。
三体人に母なるケンタウルスに帰ってもらおうと考え、3体問題を解いて、恒星の数理モデルを導こうと頑張る者たちがいれば、
一方、地球に来てもらって人類を根絶やしにし、3体人にこの星を救ってもらおうと考える者もいる。(主に極度の環境保護思想の人たち)
→やっぱり、平和的解決を求めたいので、けっこう3体問題の解決派を応援してたりした。
ただ、粒子を9次元展開できて、世界中の加速器の実験データ改ざんされまくる状況だと、素粒子の分野では既に人類が進化することはなくなってしまった。という悲しい現実に。。
これは、マジで勝てなそう、という悲壮感が漂って終わるのが、ちょっと悲しい。
人は虫けらにも手を焼いてるんだから、頑張ろうやって言われてもさすがに無理がある。
もうちょっと人類に勝ち目持たせてほしかったけど、2巻以降を読むと、「ああ、展開として正しいな」と分かってくる。
そして、葉さんの娘さんが自殺した本当の理由が3巻で明らかになるのは、すごい展開。智子がきたから人類が進化できなくなった、てだけじゃないんだ。
(寄り道)スターショット計画
ちなみに、ケンタウルス座アルファ星の中の最も小さい恒星であるプロキシマ・ケンタウリは、地球と同等サイズの惑星を有していることが本が出版された後に、明らかになった。
マジでなんか文明あるかもーということで、ホーキング博士が、カメラで写真撮ってこようぜという計画を構想。
→マイクロカメラ乗せた超軽量の飛行物体をレーザー照射で加速させて、光速の1/10の速度で送り込む。
スターショット計画
(こちらは現実の話です)
作品が出た後に惑星発見されるのムネアツ展開すぎるよな。
今のところ、facebookでおなじみマークザッカーバーグさんらが出資しているらしい。1億ドルくらいは集まったとかなんとか。
注釈
原題はthree-body problemで、「三体問題」という数学の問題を指す。
これは、互いに重力相互作用を及ぼす三質点系の運動がどのようなものか問う問題であり、現在まで、「初期にそれぞれの質点に加えたベクトルの値から運動の数理モデルを求めること」は不可能と考えられている。
https://ja.wikipedia.org/wiki/三体問題#cite_note-Diacu_Holmes1999-4
2巻以降がもっとダイナミックな仮説提起になるのでそっちのが好きです。
長くなるので記事を分けます。