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B'z稲葉浩志YouTube対談ベスト3を選ぶ
B'z稲葉浩志の意外な対談集
ファンのあいだでは寡黙かつ口下手なことで知られる稲葉浩志だが、十年ほど前から続いている〈稲葉浩志 Official Website 「en-zine」〉では、ゲストを招いた対談企画を充実させており、YouTube上には他サイトの企画を含めてこれまで10本の対談がアップロードされている。
以下がその一覧である。
福山雅治 × 稲葉浩志「UFC対談」2014.05.29
二井原実 × 稲葉浩志「Vocalist対談」2014.06.23
木村信也 × 稲葉浩志「カスタムバイク対談 in LA」2014.10.01
立川談春 × 稲葉浩志「落語対談」2016.01.15
錦織圭 × 稲葉浩志「テニス対談」ディレクターズカット版2017.01.01
稲葉浩志 × 福山雅治 UFC・スペシャル対談2020 (福山雅治 Official YouTube channel)2020.11.13/20
桜井和寿 × 稲葉浩志「Vocalist対談」2021.05.14
稲葉浩志(B’z) x TERU(GLAY) 特別対談(GLAY official YouTube channel)2021.10.26
蔦谷好位置 x 稲葉浩志 音楽対談(MUSIC FUN!)2023.03.25/26/27
中田英寿 × 稲葉浩志「en-zine対談」2024. 6.28 ←New !
下線のないものはB'zのYouTubeチャンネル。リンクは下記サイトよりどうぞ
これに加えて、『龍が如く』の名越稔洋監督との対談が2016.1.13リリースの5th Single「羽」〈龍が如く盤〉の特典映像として収録されており、YouTubeにはそのダイジェスト版がある。
対談相手のラインナップには福山雅治、錦織圭、中田英寿など各界の著名人が並び、もちろんどれもB'zファン・稲葉浩志ファンにとってはたまらないものなのだが、今回はその中から敢えてベスト3を選び紹介していこう。
3位 ×桜井和寿(Mr.Children)
桜井和寿は、説明不要のMr.Childrenのヴォーカリストかつコンポーザー。
1992年にメジャーデビューして以来、日本の音楽界を引っ張ってきた。
桜井は1970年3月生まれで、稲葉の5学年年下ということになる。
桜井「交流……ないですよねえ」
稲葉「ないんですよ(笑)」
というやりとりから始まるこの対談。確かにあまり交わりそうにない顔合わせだが、物腰の柔らかい二人のこと、歓談はスムーズに進んでゆく。
「日本のヴォーカリストのトーナメントがあるとしたら、それぞれ反対側の山にいる二人の組み合わせ」という桜井の説明が、本人たちも納得という形で出て来るのがたいへん面白い。
二人の交流はこれまで、年末のミュージックステーションのスーパーライブで言葉を交わしたくらい。
だがいっときの稲葉との会話は、Mr.Childrenのツアースケジュールを変えることになった。
B'zは活動初期から、小さな地方のホールや時には離島にまで遠征してライブを開催している。
それに刺激を受けて、桜井もMr.Childrenで地方をくまなく回るホールツアーを充実させるようになったという。
そんなライブツアーの話から、連続する過酷な日程のライブでの声のコンディションの話へと繋がっていく。
歳を重ね、どんどん新しいアーティストが登場してくる中で、自分の歌に対してどう向き合うか。
「今の若い人はすごく歌が上手くて、テクニックもいろいろと知っている人が多い」
そう話す桜井に、稲葉も同意する。
ONE OK ROCKのTaka、Official髭男dismの藤原聡。若くパワフルかつテクニックを持つヴォーカリストとして、そんな名前が挙がる。
日本のミュージックシーンを牽引し、今なおトップに君臨し続ける二人が切磋琢磨して音楽と向き合い続ける日々が、二人の会話から明らかになっていく。
桜井が自宅のお風呂場で発声の研究をしている話、サッカー好きが昂じて昔はツアー中でもリハ前にもかかわらずフットサルをしていた話。そんなところが聴き所だ。
コロナ禍にあって実現したこの対談。
半年後の2021年9月には、〈B'z presents UNITE #1〉として、B'zとMr.Childrenの対バンという奇跡のようなライブが開催されることになった。
稲葉と桜井の二人はこの対談をきっかけに親交を深め、ステージでの共演へと繋げ、コロナ禍から立ち直ろうとする音楽シーンを大いに勇気づけたのである。
2位 ×二井原実(LOUDNESS)
3位の桜井和寿に続いて、2位も日本を代表するヴォーカリスト二井原実との対談。
二井原実は、ギターの高崎晃らとともにLOUDNESSのフロントマンとしてジャパニーズメタルのシーンを牽引してきた唯一無二の存在である。
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10代のころからロック・フリークだった稲葉浩志にとって、二井原は憧れの存在。
2013年EXシアター六本木のこけら落とし公演となったB'zのLIVEでは、LOUDNESSの「Crazy Night」をカヴァーしている。
地元・津山でテニスに明け暮れていた高校時代にLOUDNESSの結成を知り、一時期はLOUDNESSの「追っかけ」だったと自ら語るほど。
当時友人に誘われて加入したLOUDNESSのコピーバンドで歌っている稲葉の姿が、どこから流出したのか今ではYouTubeで見ることができる。
そんな笑い話から、和気藹々とした雰囲気で対談は進んでゆく。
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関係ないけどこのソファ滅茶苦茶カッコいい
そしてこの対談のナビゲーターを務めるのは「Masa-Ito」こと伊藤政則。ディスクジョッキーとして、そして日本のロックジャーナリストの第一人者として知られる。
MCの伊藤がいることもあり、この対談では稲葉は基本的に聞き役に回り、笑顔で二井原の話に耳を傾ける場面が多い。
大阪出身の二井原実が軽妙な関西弁トークを炸裂させ、そこに伊藤政則がツッコミを入れるというパターンで続いていく。
二井原「そのころ、生活を改めようと思うて。喉に悪いのは、暴飲、暴食、お姉ちゃん! お姉ちゃんはね、粘膜が炎症するから!」
伊藤「粘膜って!それ喉のじゃねえだろぉー!(笑)」
稲葉苦笑。
二井原も稲葉も、ヴォーカリストとして深刻な喉の不調と向き合った経験を持っている。
心身の不調はヴォーカリストに最も顕著に表れる。
ステージ上では、常に孤独な存在。
激しく喉を消耗するロックシンガーにしか分からない苦悩を、二人は共有しているのである。
二井原がヴォーカリストにとって何よりも重要だと語るのは、ステージでいかに力むことなく、リラックスした状態で歌えるかということ。
若くしてデビューした二井原だったが、30歳を迎える頃、LOUDNESSのハードな活動で喉に不調をきたし、歌うことができなくなるという危機に直面する。
二十歳から歌しかやってなくて、社会に放り出されるかもしれない、という不安を抱えるなかでの人生の岐路だったが、二井原はあらゆる手を尽くして歌声を取り戻してLOUDNESSにも復帰。現在でも変わらぬハイトーンと声量を誇っている。
話題に上がるのは、発声トレーニングのひとつであるリップロールというウォーミングアップの方法。機材面では、ロック・ヴォーカリストにとっての必需品となったイヤーモニターに至るまで、二井原と稲葉の会話は多岐にわたる。
そして、二人にとっての憧れのヴォーカリストの話題になる。
ソウル・ミュージックがバックボーンにある二井原はオーティス・レディング、ジェームス・ブラウン。ロック界ではやはりロニー・ジェイムス・ディオ。
稲葉はロバート・プラント、デイヴィッド・カヴァーデール、そしてもちろん日本人では二井原実である。
「スティーブン・タイラーと稲葉くんの声は似てる」
ロック・ヴォーカリストでありながら広汎な人気を得る稲葉浩志の声質の良さを、二井原はそんな言葉で表現する。
たぶん稲葉のヴォーカルについてこんな言い方をした人間は、後にも先にもいないはずだ。
この二井原実✕稲葉浩志対談は、上記の10のラインナップの中でも出色の面白さで、今回この記事を書くために電車の中で聴き返していて、思わず何度も笑ってしまった。
ぜひラジオ番組でも聴くようなつもりで、耳を傾けてみてほしい。
1位 ×木村信也(CHABOTT ENGINEERING)
1位は木村信也との対談。
木村信也は、カスタムバイクビルダーである。既存のバイクをベースにアレンジを加えてこの世に二つとないマシンを創り上げ、世界の好事家から高い評価を得ている。
愛知県岡崎市で活動したあと、カリフォルニア州アズサに拠点を移し自らの工房〈CHABOTT ENGINEERING〉を開業。世界各地のバイカーからの依頼を受ける傍ら、自身もバイクに跨りレースに出場するなど旺盛な活動を続けている。
ただ、日本では木村の知名度はそれほど高くはないだろう。
木村信也には、まだ日本版Wikipediaのページすらないのである。かくいう私もこの対談を見るまでは彼のことを全く知らなかった。
だが、そういった一般にはあまり名の知られていない相手だからこそ、よりリラックスした「素の稲葉」が垣間見えるように思える。
稲葉と木村の出会いは1998年ころのこと。それから築いてきた二人の暖かな関係性が、この動画を心地よくしているのである。
↓ 木村が稲葉に制作した3台目のバイクにあたる1975年製MVアグスタのカスタムは、ソロ作「Stay Free」…『Singing Bird』(2014)のミュージックビデオで使用されている。
かつて世界を席巻した伝説的なバイクであるMVアグスタを稲葉に薦めたのは、他ならぬ木村だという。
木村は顧客からの注文をそのまま受入れるのではなく、依頼主の人間性や個性を知ったうえで、イメージを膨らませてもっともフィットするバイクを生み出していく。
「車はドア閉めちゃえばその人の姿は見えないですけど、バイクは乗り手が一番大事な部品みたいなものなので」そう木村は語る。
だから最初に稲葉が制作を依頼してから、バイクの完成までには2年もの月日がかかったという。
その間に木村と稲葉は何度もバイクでツーリングに繰り出して親交を深めていった。
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木村はエンジニアという職人であるが、孤高のアーティストでもあり、やはりどこか浮き世離れしている。
朴訥としているようで、その裏に芯の強さを感じさせる木村の人柄が、稲葉とのトークによって引き出される。
「B'zっていうのをボクは知らなくて」
「紹介されたとき、ビーズ細工をやってる人だと思ったんですよ稲葉さんを」
「ビーズ細工でハーレーを買おうってんだから、相当な腕だろうな、と」
おそらくこれまでの対談の中で、稲葉浩志のいちばんの気の置けない「友人」と言えるのが木村信也であろう。そうした親しい相手の前で稲葉はどう振舞うのかが、映像から伝わってくる。
だから稲葉浩志の対談シリーズの中では比較的再生数の少ないこの動画であるが、私はこの対談を1位に推す。
尊敬できる同年代の友人として、そして同じアーティストとして、稲葉が引き出した木村の言葉から、次の一節を引いて結びとしよう。
「よく一番好きなことは職業にしないほうがいいって言う人が多くて、好きなことは趣味でとっときなって。でも僕は本当にバイクを自分の商売にして良かったと思ってます。やっぱり趣味だとここまで突き詰めてやることもなかっただろうし」
番外編
稲葉浩志単体ではなく、B'z2人での出演となると、デビュー25周年を記念した〈B'z 25th Anniversary YouTube Special Program〉がある(2013.6.19公開)。
やはり伊藤政則をMCに迎え、松本・稲葉の音楽的ルーツに迫るこのプログラム。
2人のフェイバリットアルバムは時期や文献によって異同があるが、ここでは松本がディープ・パープル、稲葉がアイアン・メイデンなどを挙げ、比較的オーソドックスなチョイスになっている。
「なぜ一時期のマイケル・シェンカーはライブ中にウエストポーチをしながらギターを弾いていたのか」というくだりは必見である。
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