MR.BIG最後の日本公演 <THE BIG FINISH TOUR> 2023.7.25日本武道館 ライブレポート
MR. BIG最後の日本公演
日本を愛し、日本に愛されたロック・バンド、MR.BIGが、34年間に及ぶ活動に幕を閉じる。
<THE BIG FINISH TOUR>と銘打たれた今回のツアーはドラマーだったパット・トーピーが2018年に死去して以来の来日。
東名阪を回るコンサート。当初は7月25日が最終公演の予定だったが、翌26日武道館に追加公演が決定し、それが日本での最後のライブとなった。
7月25日の公演に参戦。
筆者個人としては、2009年横浜アリーナ公演以来のMR. BIGのライブとなった。
18時過ぎに九段下駅に到着し北の丸公園に入ると、すでに物販コーナーには長蛇の列ができ、入場制限が設けられていた。
物販の購入は諦め、19時開演予定の30分ほど前に着席。
二階中段あたりの席に座ると、武道館の内部は冷房が効いており意外なほど涼しい。
すでに客席は八割方埋まっている。
席上に置かれていたスティーヴ・ヴァイやエクストリームのフライヤーを眺めながら開演時刻を待っていると、SEにアルマゲドンが流れてきてひとり興奮する。
MR.BIGのファン層とも重ならず、となりの友人に言っても「あ、そう」と冷たく返された。マニアックすぎて誰とも共有できないのでここに書く。
(Armageddonはキース・レルフを中心に結成された1974年に結成されたバンド。元Captain Beyondのボビー・コールドウェルのテクニカルなドラムが聴きどころ)
二階席最後方には立ち見も出るほどで、平日にも関わらず早くから客が入っていたが、物販に並んでいた方もまだ多くいたはずだ。
ほとんどの客席が埋まり、定刻の19時を少し過ぎたところで暗転し、ライブ開始となった。
セットリスト 7月25日(火) 日本武道館
バックステージの中継がスクリーンに映り、ラモーンズの曲がかかる中でメンバーが入場。
客席から歓声が上がる中、おなじみのライトハンド奏法を交えたリフの「Addicted to That Rush」から始まり、武道館は早くも昂奮に包まれる。
続いて「Take Cover」、2009年ポール復帰後の代表曲「Undertow」と序盤からバンドの看板となる有名曲が目白押しだ。
そして予告されていたとおり「Daddy, Brother, Lover, Little Boy」から始まるアルバム『Lean Into It』(1991)の完全再現があり、「世界ナンバーワンヒット」の「To Be With You」が披露される。
続いてアリーナ中央に設けられたステージにてアコースティック・セットとなった。
MR.BIGは超絶テクニックを有するだけでなく、何よりもバンドとしての安定感が素晴らしい。
ハードな曲だけではなく、アコースティックな響きの曲の中でその真価は発揮される。
ポール・ギルバートのプレイの中では、指弾きで奏でる「Just Take My Heart」のイントロの美しさが際立っていた。
昔何とかコピーしようと必死になっただけに、このフレーズを滑らかに弾くことがいかに難しいかは身をもってわかっている。
当たり前のことながら、ポールの手からこの上ないナチュラルサウンドが放たれるのを見るとあらためて感嘆してしまう。
「To Be With You」がバンドスタイルで披露されたのはやや残念ではあったが、やはりアコースティックで聴かせる「Wild World」の響きは美しく、4人それぞれが歌えるMR.BIGの強みをしっかりと押し出していた。
一万人近くを収容できる日本武道館の良さは、やはりどの席からでも肉眼でアーティストをしっかり見ることのできる客席の近さ。アリーナ中央でのアコースティック・セットのパートでは、バンドは満員の観客との一体感を共有していた。
ステージへと戻ったバンドは、ポール・ギルバートのギターソロに続き、「Colorado Bulldog」、ビリー・シーンのベースソロ、ライブでの定番曲「Shy Boy」とテクニカルかつスリリングな曲でクライマックスを迎えた。
出色の出来だったのは、<四弦達人>ビリー・シーンのベースソロ。
滑らかなレガート奏法、時おりタッピング・ハーモニクスを交えた音域の広いプレイはスケールが大きく、一つの「作品」として完成していた。
その情感たっぷりの演奏からは、日本のファンへの惜別の思いを感じることができた。
ほとんど時間を置かずにスタートしたアンコール演奏の三曲は、いずれもカバー。
終始安定したプレイを見せていたドラムス、ニック・ディヴァージリオは、MR.BIGおなじみのパート・チェンジによる演奏もそつなくこなす。
ラスカルズのカバーでは、ビリーがボーカルをとり、エリックがベース、ポールがドラム、ニックがギターを手に取った。
喉の不調も伝えられていたエリック・マーティンだったが、バンドメンバーのコーラス、観客のサポートも受けながらフロントマンとしての役割を全うしていた。
以前と比べるとキーを下げた楽曲が増えていたものの、テクニカルな側面がフィーチャーされるMR.BIGの中でも、彼のソウルフルな歌声がなければここまでバンドが成功することもなかった。
いつもステージ上で明るく振る舞うエリックの姿をMR.BIGとして見ることがもうないと思うと、ほんとうに残念だ。
ビリー・シーンからのメッセージ
異例のことだが、アンコールの最終曲となったTHE WHOのカバー「ババ・オライリィ」のあとに、ビリー・シーンからファンに向けてのメッセージがあった。
日本のファンへの感謝、このツアーが2018年に亡くなったパット・トーピーの功績を讃えるものであること、そしてあらためて、MR.BIGというバンドにとって日本という地はかけがえのない特別な場所であることが語られた。
バンドが無くなっても、生涯このことは忘れない、最後の時までファンのことを思い続ける、という言葉からは、日本に愛されたMR.BIGのメンバーの熱い思いが伝わってきた。
名残を惜しむファンからは再度アンコールを求める手拍子が鳴ったが、バンドメンバーが舞台裏へ下がったところで、客電が点灯。公演終了となった。
追加公演の翌26日が最終公演となったが、セットリスト等に大きな異同はなかったようだ。
最終日のビリー・シーンのメッセージの動画があったので、動画作成者への感謝と共に、ここに載せておく。
全米No. 1ヒット獲得から解散、再結成。再度の解散からポール・ギルバートが復帰しての再結成と、MR.BIGの足跡には様々な困難があったが、こうして最高のエンディングを迎えることができた。
もうライブでその姿を見ることはできないかもしれないが、彼らが残した輝かしいトラックの数々は、これからも繰り返し聴き続けていくことになるだろう。