fukunomo愛好家 林さんの今月の酒語り|2022年3月号【浪江町/鈴木酒造店】 実食レビュー!
福島の酒と食・地域を愛するライター、林智裕さんに、今月のfukunomoを一足先に実食していただきました!
3月号の締め切りは3月15日(火)23:59まで!林さんのレビューを読んで食べたくなった方は、お見逃しなく!
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寒さが続く毎日ですが、福島でも少しずつ陽射しが暖かく感じるようになりました。間もなく春ですね。(窓の外に残る雪を眺めながら)
さて、今月のお酒は双葉郡浪江町の鈴木酒造店さんから「磐城壽 純米吟醸 大漁祝 紺碧 生酒」。鈴木酒造店さんは原発事故後に山形県に避難していましたが、震災から10年経った昨年2021年、再び地元での醸造・販売を再開したばかりです。
先月の「又兵衛 原酒」に続き、今月も福島県浜通りのお酒。「磐城壽」には豊富なラインナップがあり、たとえば「磐城壽 純米 あかがねラベル」(大好きなので、特に夏場を中心にプライベートでも愛飲してます)のように生鰹や鯖にも負けない芳醇な味わいから、スズキやヒラメなどの白身魚と好相性の穏やかな飲み口のお酒まで、幅広い味わいが楽しめます。しかも、そのいずれもが先月の「又兵衛」同様、魚介類の「ニオイ」を切り捨てるというより「旨味」に変えてしまう懐の広さが身上。この地域の旨い海の幸、「常磐もの」にバッチリ合うお酒ばかりです!
そうした豊富なラインナップの中から、今回は地元浪江町産のコシヒカリ100%を使用した、福島の復興を象徴するかのようなお酒です。早速、楽しんでいきましょう!
【今月の美酒】
磐城壽 純米吟醸 大漁祝 紺碧 生酒 <福島県双葉郡浪江町/鈴木酒造店>
味わった瞬間に目の前に広がるのは、どこか懐かしい、温かく幸せな記憶のイメージ。素朴な温もりを感じる、圧倒的な安らぎと多幸感。
一口、二口と盃を近づけるたび、炊き立ての新米を思わせる香気が立って食欲がそそられる。口に含むと、じんわり滲み出る柔らかな甘味と透明感ある旨味が広がっていく。
しみじみと、旨い。あまりにも心地良い。
決して派手さは無いけれど、穏やかで優しく、とても寛げる風味。
いかにも「酒」を強調するキツさや重さは無くて、飲みやすい。
かといって華やか過ぎず、気取りすぎない。
しかし決して軽過ぎる訳でもなく、あくまでも優しく自然体な、沁み入るような味わいがある。
…これはきっと、「団欒の味」。余所行きでは無く、それぞれの家庭で育まれてきた和食のような魅力。「ただいま!」と玄関を開けた先で待っていた味。
心の琴線を震わせてくれるのみならず、「ごはんに合うおかず」全般に最高のペアリングを約束してくれる酒です。懐かしさすら感じるのに、全く古臭くはない。「ありそうでなかった」、この味わい。まさに理想の食中酒と言える1本です。
それに合わせる今月の肴は、赤魚の焼き魚に秋刀魚、そして漬物(「チーズたまり漬」と「ゆず大根」)…と、さすがfukunomoさん。判ってらっしゃる!この酒が持つ、圧倒的な安らぎと多幸感を最大限に引き出す、王道と言える和の肴ばかりです。早速、おかずと合わせていきましょう♪
【今月の肴】
・赤魚開き<福島県いわき市/海神>
1品目は、日本の食卓に欠かせない焼き魚。いわき市の「海神」さん自慢の大振りの赤魚は脂がのっていて、食べ応えもたっぷりです!
焼きたての、まだ脂がジュワジュワと音を立てている身をほぐして、湯気が立つ身をハフハフしながら食べる。そこに、少し冷えた酒をグイっと口に含む。
…あ、やっぱりこの感覚は、完全に炊き立てご飯のソレだ。焼き魚の旨味と塩気が絡んだ酒は、魚と共に口の中で温められたことで、さらにジューシーに、ふくよかになっていく。
しかも「新米」らしい軽やかな口当たりにもかかわらず、赤魚のニオイさえも包み込んで「旨味」に変えてしまう。ああ、これもまた福島の浜の酒。この懐の広さよ。
冷酒を飲んでいるのに、不思議と身体も心もどんどん温められていく。日常の世知辛いアレコレがほぐされて、癒されるかのよう。まだ寒さが残る夜に、この味わいは特に沁みる。
・さんまのポーポー焼き<福島県いわき市/上野臺豊商店>
続いては、同じくいわき市の上野臺豊商店さんからお馴染みの「さんまのポーポー焼き」。生姜などの薬味と秋刀魚のすり身をハンバーグ状にした、いわきに伝わる郷土料理です。
じっくりと蒸らしながら焼いて、最後に表面を少しカリカリにさせたポーポー焼き。
実りの秋が旬である秋刀魚が、炊き立て新米のような酒と合わないはずがありません!カリカリの香ばしさと秋刀魚の旨味、薬味の風味とのハーモニー。これらを味わいながら、再び酒をグイっと一杯。
酒に秋刀魚の旨味がジュワっと溶け出して、これまたジューシーな口当たりに。それにしても、一度の食卓で2種の魚を味わえる贅沢は幸せですね。
・ゆず大根<福島県伊達市/八島食品>
次は、箸休めに「ゆず大根」を。
秋刀魚には大根おろしが定番ですが、実は「ゆず大根」も中々のものなのです。ハリハリとした食感が心地良いのみならず、優しく香る柚子風味がアクセントになって、秋刀魚のみならずペアリング全体の魅力をより引き出してくれます。もちろん、「炊き立てご飯」風味への相性の良さも知っての通り。実に絶妙なチョイスです。
・チーズたまり漬<福島県郡山市/小田原屋>
同じ漬物でも、こちらは少しコッテリ風味の「たまり漬」。甘じょっぱい和の風味に、チーズの穏やかな燻製香と後引く旨味が魅力です。チーズは和洋双方に合わせやすいおつまみですが、たまり漬にすることで、より「和」との相性が強化されます。しかも、このたまり漬の味付けは少し肉ジャガに似た風味もある。まるで「煮物」に近い感覚で食べられますね。「焼き物」に続き「煮物」(に似た味わい)。まさに団欒の、和の食卓に花が添えられるかのよう。
・木桶醤油と本みりん発酵糖のおかき<福島県双葉郡浪江町/鈴木酒造店販売>
最後は、今回のお酒の醸造元である鈴木酒造店さんが手がけた「本桶醤油と本みりん発酵糖のおかき」。サクサク、ふわっとした口当たりなのに、味わいは極めてしっとりジューシー。木桶熟成醤油がとても香ばしく、しかも味が良く染みてとても深いコク。なのに、決してしょっぱい訳でもない、不思議なバランス感です。
さらに特筆すべきは、最後に残る上品な甘さ。鈴木酒造店さんは自家醸造の「本みりん」にも定評がありますが、その製造過程で僅かにとれる「本みりん発酵糖」という稀少糖を使っているのだとか。贅沢素材をふんだんに使い、それぞれの素材の風味が最大限に生かされた一品。つい、手がとまらなくなります。
なお、これをお酒と合わせると、おかきがお酒を含んで少ししっとりし、最後の〆に美味しい焼きおにぎりを食べているような感覚になるのでおすすめ。
今月は双葉郡浪江町から、「和の団欒」を感じさせるペアリングセットを楽しませて頂きました。この地域は11年前の震災で大きな被害を受けた場所。しかし、今では週末ごとに道の駅が大いににぎわい、美味しい水産品や農作物も戻ってきました。
震災から11年目となる3月号に、浪江町のお酒が楽しめるのは本当に幸せです。この幸せを、みなさんにもおすそ分けしたい!
なにより今月のペアリングの組み合わせは、心身共に疲れた方にとってかなりの「癒し」になること請け合いです。ぜひ、今月のfukunomoを楽しんでくださいね!
今月も、ご馳走様でした!(*´▽`*)
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