【後編】フロアをひとつにする、ビートの絵筆。nerd music clubのライフワークを紐解く。
「いつかPEAK ACTIONに出たい」っていうのがあって
——じゃあ、郡山とか福島とかでやるようになったのは、それからさらにあと?
そうですね。C-moonでやらせてもらって、県外でやらせてもらって。僕、元々PEAK ACTIONがすごい好きで、お客さんとして結構ライブとかも観に行かせてもらってて。「いつかPEAK ACTIONに出たい」っていうのがあって。いろいろ県外とかでもやらせてもらったあとに、やっぱピーク出たいなと思って、自分から連絡して出させてもらって……っていうのが、ここ2〜3年くらいですかね。
——そのときのライブってどうでしたか? ちょっとやっぱりそれまでと心持ちというか、違うものが。
全然違いました。ジョン(PEAK ACTIONオーナー渡邊)さんも、俺はお客さんとしての一方的な認識はあったんですけど、そのとき初めてちゃんと演者として喋って、「本物だ」って思いました(笑)。
——(笑)。じゃあライブをやっていく中でもまた新しいご縁とかも増えていった?
そうですね。ライブをやって外に出るようになってから、めちゃくちゃご縁が増えましたね。
——それによって受けた影響とかもあったりしますか?
あるんですけど、言葉にするの難しいですね……。ただ自分の中だけで完結していたものが、他のビートメイカーさんと現場で出会う機会がすごく増えて、そこでの刺激みたいなのはやっぱ受けました。
——やり方ってやっぱ人によって違うものですか?
結構違うと思います。
こだまさんの音源もライブでサンプリングさせてもらったんですよ。
——面白いですね。地元アーティストとかの。
そうなんですよ。zanpanも実は僕、サンプリングしてて。
——えー! 嬉しい……聞きたいです。
ちょっとあとで(笑)。
——ぜひぜひ。
——ラジオでも触れましたけど、本当に何でもというか、いろんなものが素材になり得る。
本当にそうですね。
——ついそういうのって、往年の名曲とか、みんなが知っているテーマソングとか、そういうのがイメージ浮かびがちですけど、こういうローカルの人たちの曲とかも使われ得るんだと思うと、急にワクワクしますね。
それすごい面白いなって思ってて。ビートメイカーと似たような感じで、DJの方とかって、すごい好きな曲でも、自分のDJのルーティンのテイストに合わなかったら、なかなか流せなかったりするんですよね。だけどビートメイカーだと、めちゃくちゃ好きな原曲を、自分のテイストに落とし込んで、それをライブできるっていうのがあるんで。
例えばそれこそ、こだまさんをサンプリングした曲を、県外のライブとかでやったりして、それを聞いて東京のラッパーさんたちが盛り上がってるところとかを見たりすると、すごいグッとくるんですよね。
——確かに。言い方があれか分からないですけど、その方たちがこだまさんの曲と普通に出会えるかっていったら、可能性としては分かんないですもんね。
結構ヒップホップの人たちって、ビートを聞いて、元ネタを探したりするんで。そういうところから全然、本来であればなかなか届かなさそうな人たちが、元ネタを探して、例えばこだまさんとかzanpanとかにたどり着いたら、めちゃくちゃ面白いなと思って。
——直接的に「これいいよ」って勧められるだけじゃなく、そういう届け方もありますね。
面白いなと思う。ヒップホップならではというか。
——なるほど。そういう可能性があるんですね。基本的にライブは、関東か福島・東北って感じで?
そうですね。今まで一番遠いところでも、東京ですかね。
——いつもここに、割とお世話になるな、みたいな場所ってあったりするんですか?
東京でいうと、吉祥寺のNEPOっていうところ。あとは渋谷のR LOUNGE。郡山だとPEAK ACTIONが多いですね。
——NEPOの映像を見たんですけど……あれはプロジェクションマッピングみたいなことですよね。すごい、めちゃくちゃ綺麗でびっくりしました。ああいう視覚表現ともクロスすると、また違いますよね。
そうですよね。めちゃくちゃいいハコです。
その絵を一番最初に具現化するのがビートメイカー
——ディスコグラフィーを拝見した中で、ご自身としての曲作りもありつつ、結構いろんな方とのコラボレーション作品も多いなと。バンド界隈だと、コラボとかフィーチャリングみたいな文化自体そんなに馴染みがなかったりもするので、どんなふうにやられてるものなんだろうっていうのも、お聞きしてみたかったんです。
そうですね。ヒップホップは元々やっぱり、フィーチャリングとか、ゲストを呼んでみたいなのがすごく盛んっていうのがある、とは思うんですけど。
例えば僕、スペインに住んでる日本人のラッパーのSINOさんっていう方と一緒にミニアルバムを作ったんですけど、そのときはSINOさんのほうから「アルバム作りたいからビート作ってください」「ダブルネームのフィーチャリングで」みたいな感じのお話だったんで、SINOさんのアルバムに自分が参加させてもらうっていうイメージ。そのラッパーさんがメインで、フィーチャリング自分、みたいな感じ。
逆に自分がラッパーさんに「このビートあるんだけど」って乗せてもらうときは、ラッパーさんがフィーチャリング、みたいなイメージ。
——なるほど。……え、スペインってことは、全部オンラインでやりとり?
そうですね。結構、ラッパーさんとかだと日本全国にいるんで、基本オンラインでのやりとりの方が多いかもしれないですね。
——まさにさっき(ラジオ収録時)、「現場というよりは、それぞれが自分の作業場にいて」っていうお話でしたけど、それをオンラインで繋いでるっていう感じ?
そうですね。それで完結できちゃうのも結構、ヒップホップの良さではあると思います。
——nerdさん自身もそういう環境でやられてた時間の方が、時間でいえばきっと長いと思うんですけど、ライブを始めてからは、それまでと比べてどうですか? でもオンラインでしか繋がれない人もいますもんね。
でもそれはあります。めちゃくちゃあります。SNS経由で連絡が来るというよりは、現場で出会って、そのライブ感のノリのまま、「一緒に曲やりましょうよ」みたいな話になることはめちゃくちゃあります。今はほぼそれです。
——その場の空気というか、グルーヴで進む話ってありますもんね。
ありますあります。でも、ビートメイカー的にはそれが一番嬉しいですね。自分のライブ観てもらって、そのビートを格好いいって言ってくれて、「ああいうやつ(ビート)欲しいんですけど」みたいに言ってもらえるのが一番嬉しいですね。ビートメイカー冥利につきますね。
——最近、というか、ここ数年でやられた制作の中で、特に「これ、いい仕事したな」みたいな、気に入ってるものってあったりしますか?
それこそさっき言った吉祥寺のNEPOで、仲間4人で共催の「Torch of Unity」っていう主催ライブをやったんですけど。そこでその主催4人、ビートメイカーの僕とラッパーさん3人(藤KILLA、クライスタマン・キー、18WAKAME+15)で、イベントのテーマソングみたいなものを作ろうよって話になって。そのときに「じゃあ自分ビート作りますよ」って言ったんですけど、どんな感じがいいか訊いたら、それこそさっき(ラジオで)話にあった「一体感が出るやつ」。で、一体感っていってもやっぱり、人それぞれイメージするものって全然違うじゃないですか。
——そうですね、難しいですね。
で、難しいなあって思いながらビート作ったんですけど、まさにみんなが求めてる音、「こういう音だよ!」っていう反応をいただけて、めちゃくちゃ嬉しかったですね。
依頼受けて、ドンピシャのビートが作れるときってやっぱ、みんなが同じ絵を描いてるんですよね。ヒップホップってビートありきで、そこにラップを乗せていくんで、その絵を一番最初に具現化するのがビートメイカーなので。
——いわば下地ですよね。
そうなんです。その絵を、ここ最近で一番うまく表現できたなっていうのはそのビートですかね。
——一体感っていう意味でもじゃあ、成功した。
そうですね。ライブ自体も、イベント自体もめちゃくちゃ楽しかったです。楽曲もめちゃくちゃいい楽曲なんですよ。ぜひ、聴いていただきたいです。
——ぜひぜひ。リンク貼っておきます。
自分の色と、新しい部分と、どこで折り合いをつけるか
——今までのお話とちょっと重なるかもしれないですけど、誰かからの依頼にしても、ご自身の表現にしても、自分なりのコアというか、大事にしたい部分って多分、アーティストさんそれぞれに持っていると思うんですが、その辺りってどうですか? きっかけとか、作るものによっても違ってくるかもしれないですが。
そうですね、なんだろうな……難しいな。ちょっと尖った言い方になっちゃうかもしれないんですけど……迎合するっていうか、置きにはいかないようにはしてます。マインド的な話になっちゃうんですけど。
音に関しては、結構ありがたいことに、どんな雰囲気のビートを作っても「nerd music clubの音になる」って言っていただけることがすごく多いんで、音に関しては自分が作りたいと思ったものを素直に作るようにしてて、っていう感じですかね。
——それが欲しくて声をかけてきてくれてるっていうのもあるでしょうしね。
そうですね。
——どこからが迎合かっていうのもなかなか……。
そうなんです(笑)そこめちゃくちゃ難しいんですよね。多分これはビートメイカーに限らず、ミュージシャンの方とかも結構同じように感じる人多いと思うんですけど、やっぱ自分の色と、新しい部分と、どこで折り合いをつけるかっていう。ギリギリのところを攻めていきたいっていうのは、ありますね。
——わかります。
同じことをやってるだけでもやっぱ……って思うし、それもそれでそれなりの良さもあったりするとは思うんですけど。常にチャレンジしつつ、自分の音を残しつつ、っていうのをやっていきたいですよね。めちゃくちゃ難しいですけど。
——期待に応えたい気持ちと、その……答えたくない気持ち(笑)と言ったらあれなんですけど。「いや、こうっしょ」みたいな気持ちもありますもんね。
(笑)めっちゃわかります。
あ、今日俺、使ってるサンプラー持ってきたんですけど、見ます?
——あららら、ぜひぜひ!
あんまり、バンドの方とかだとなかなか、馴染みのない機材かもしれない。
——PEAK ACTIONの配信で見たやつだ〜。
そうそうそう(笑)ここ(下部のボタン)に1個ずつ、ビートが入ってて。で、(上に記載のあるラインナップが)マルチエフェクター、みたいなイメージですね、エフェクトに関しては。
マルチエフェクターをリアルタイムでこう、「ディレイ!」「リバーブ!」みたいな感じで(あてていく)。これ自体でも、ビートメイクできたりして。名機です。
——端々にこう、年季じゃないですけど。
ちょっと剥げてるのが(笑)押しすぎて。
——これ一本って感じですか?
ライブではそうですね。他に色々繋げてやられる方もいらっしゃいますけど、自分はもうライブのときは、これひとつ。
——ライブをやり始める前からずっと使っている?
そうですね、元々。で、これとは別に普段、ビートメイクするのはMPCっていう、名前とかは聞いたことある方もいるんじゃないかなと思いますけど、サンプラーを使って、ビートメイクしてるって感じですね。
——まさにバンドやってると全然触ることのないアイテムなので……なかなか。
そうですよね。結構、男心くすぐるデザインですよね。ガシェット好きにはたまらない。つまみとかボタンがいっぱいあると、グッときます。
——このイラストとかは、もともと入っていたものですか?
これはステッカーを自分で、貼った感じです。元々これ、本体の色もグレーみたいな色で、そこにこの……これは売ってるんですけど、黄色のカスタムスキンシール。それを貼って、その上からステッカーで、貼ってったって感じです。
——愛用してる感が詰まってます。
違うジャンルのヒップホップのビートとかも作っていきたい
——そんな馴染みの相棒がありつつ、さっき「新しい要素を入れたり」っていうお話もありましたけど、今興味があるとか、やってみたいこととかってあったりしますか?
ヒップホップとか、いわゆるパソコンで音楽を作るDTMの中でも、ジャンルって結構多岐に分かれてるんですよね。僕はローファイヒップホップだったり、いわゆるブームバップっていうジャンルを主に作ってるんですけど。それ以外の、違うジャンルのヒップホップのビートとかも作っていきたいなと思って。
そのブームバップっていうのは、いわゆるオールドスタイルなヒップホップなんですけど、それに対してトラップって呼ばれるジャンルがあって、これは割と最近台頭してきたジャンルで、ドラムの打ち方とかが全然違うんですよね。なので、トラップの要素を入れたビートとかも作っていきたいな、なんて思ってたりもして。
ここ最近、ライブでもそういう要素入ったビートとかも、ちょっとやるようにしてて。やっぱ新しいものって、作ってても楽しいんですよね、評価がどうであれ。
——それまでの自分の持ってたものと、どう掛け合わさるかっていう、化学反応的な楽しさもありますね。
そうそう、まさに、まさにです。
——ストリームも常に変わっていくから、その中でまた新しく吸収されるものもあるでしょうし。……ちょっと一回ライブちゃんと拝見してから、本当はインタビューしたかったんですけど。
全然全然。
——またタイミングが合えば。
ぜひぜひ。僕もね、なんだかんだzanpan見れてないですし。めちゃくちゃ聴いてるんですけど。
——本当ですか。ありがとうございます。今お訊きしたのが、これから試してみたいことっていう部分でしたが……少しラジオでもお話しいただいたかもですが、今後の展望であるとか、そちらはいかがですか?
そうですね。やっぱり、作り続けていきたいっていうのは一番だし、今まで出会ったことないラッパーさんにも、どんどん自分のビートの上でラップしてほしいですし……ってところですかね。そこに尽きるかなと思います。
——わかりました。ありがとうございます!
光栄です。ありがとうございます!