FLEX TIMES 『和鉄』②
自分たちの"愛してやまない"を深く知る
FLEX TIMES 第1回目はラーメン屋「和鉄」
ーー我々は今20代ですが、20代にやっておけば良かったことはありますか。
もっとコアな専門知識を深めておくべきだったよね。
俺は本好きだから、色々な本を読むんだよね。色々なものを読んで、テレビとか新聞の煽りに煽られちゃって。例えばタピオカがすごいとかって言われたらタピオカの本を読んでしまうとかね。これは浅い知識。
何でも良いんだけど専門的な知識。深い知識があると何が本当か嘘かがわかるようになるよね。
特に歴史を勉強したら、いかに今の世の中が嘘くさいかっていうのがよくわかるよね。歴史をもっと勉強しておけばよかったよね。
専門知識があれば自分がビジネスで迷うこともない。
なんでビジネスで迷うかっていうと”無知”だからなんだよね。知識があれば迷わないし、嘘もすぐわかる。
例えば、うちがテレビでランキングで全国で10何位かになった時なんてさ、「街角でアンケートを取りました。」なんて言うけど、俺は見たことないよ。だからあれは嘘なんだよ。今のメディアは嘘ばっかだよ。そういうのを判断するには専門の深い知識と歴史を知ることだよね。
歴史がどういうカタチで流れていって、今の日本の立ち位置とか自分の座標がどこにあるかっていうのを勉強出来たら自分が将来どうしようかって時にも、こっちに行ったらダメなんだなっていうのはすぐにわかるようになるよね。それくらいだね。
ーー歴史とか専門知識を知るようにならなきゃいけないと思うようになったきっかけは。
やっぱり商売やってきて回り道したり、間違えたり、悩んだり、迷ったりそういう無駄な時間があったのは自分が”無知”だからと思ったから。
仏教とかじゃないんだけど、無知は不安と煩悩を生み出すわけですよ。煩悩っていうのは何の足しにもならないんですよ。1日中ああしようかな、こうしようかな、悩んでも何にもならない。”有知”だとこれはいらない。方向性がスパッと決まる。だからこれからが大事なんだよね。
人生って短いよ。だから振り返るっていうのは損だよ。振り返ったって何の足しにもならないもん。前に進むためには幅広い知識も大事だけど、やっぱりコアな知識があって、歴史を勉強しておくと結構スイスイ進んでって悩まない。煩悩もなく、不安もなく進めると思う。
今思うとそう言えるけど、30年前とかにそうだったら起業家としてもっとうまくいってたんじゃないんかなって思うけどね。僕はもう年だから今から何か頑張ろうっていう気にはなれないけどね(笑)。
ーー昔に比べて飲食業界も大企業の参入もあって、価格とかも厳しいのかなと思うのですが。
それはその通りだね。
日本の政府がとろいからね。日本はいい国なんですよ。外と比べなければ。治安もいいし。アメリカの給料が日本の2〜3倍とかっていうでしょ。中国はここ30年で給料が5倍になったっていうでしょ。で、日本は給料は変わらずに消費税が10%になったから、まあ実質給料はマイナスになった。
デフレだったから問題もなかったんだけど、海外からみると日本の物価はすごい安いわけだ。外国人が日本で天ぷら食べたい、お寿司食べたいって言っている間、日本人はハワイでラーメンが3,000円で食べれないとか言ってるんだから(笑)。
原因は、日本の給料が全く上がらなかったからだよね。上がらなかったのは日本人が努力しなかったからじゃなくて、政策的な問題だと思うよね。どう考えたって。
そういう中で日本は企業努力をしちゃう。だってみんなお金ないんだから(価格を)上げちゃうとみんな買わないんだから。また(価格を)下げるよね。
為替が(2022年10月に)1ドル150円くらいまでいって、今日また131円くらいか。給料は上がらないから、いくら輸入物が高くなったとしても、売らなきゃ潰れちゃう。だったら価格は上げられないよね。だから日本は海外ほどインフレになるってことはないんじゃないかな。(今後は)円安よりもすぐに円高になるんじゃないかな。マスコミも円安になるとすごい騒ぐけどそこから20円くらい円高になっても何も言わない。マスコミのモノの見方は曲がっているよね。実際は徐々にインフレになった方がいいんだよね。
ーー今はなってきていますよね。
でも、実際上がっているのは輸入物が上がっているだけで、給料が上がらないとね。それで今年は世界中に不況が来るっていうお話になっているから。
原油の価格も下がっているしね。ICチップ(暗号資産、半導体)も下がっているしね。そうなるとそんなにインフレって来ないんじゃないのって思うけどね。日本だけで完結すれば悪くないよね。だって輸入物をどんどん安くしてくれるんだから。
何に問題があるかってユニクロが中国でモノを作って持ってくると日本のアパレルが全部潰れるっちゅう話で、だから外国人を(日本に)入れてるのと一緒だよね。
外国人入れて、日本で作れば安くなる。だけど外国人を入れないで海外で作って、ウイグルで奴隷労働させる。
それを本当は日本人は買いたくないんだけど、質はいいし安いから国内のブランドよりもこっちがいいなってなる。
間接的に移民政策やっているのと一緒だよね。日本の企業は努力しちゃうからデフレからは抜け出せないなって思うよね。そうすると飲食業は税金がどんどん上がっているから、可処分所得がどんどん減る。
政治家が悪い、自民党が悪いのは間違いないんだよ。でも経営者って基本保守だから自民党大好きなんだけど、今の自民党は完全にアメリカと中国の属国だし、財務省の手先だし、しょうもないなって思うよ(笑)。
ーーそうするとこのデフレもまだ続くということなら和鉄の価格帯もこのまま?
消費税が上がったんで、それに伴って上げてはいたけど。今回(2022年)初めて、値上げをしたのかな。やっぱりね、店が長いと常連さんがさ、寂しいからね。値段を上げると、ついて来れない人も…。たった50円かっていう話なのか。たった50円で常連さんは減るわけだからね。50円の値上げくらいなら来るんだけど、今までに週3回来てた人が、週2回になって、あとはコンビニの弁当とかいっちゃおうかってなるとだんだん売上は下がってくるから。そういう面だとなかなか上げづらいっていうのはあるよね。
新規参入の人っていうのは1,000円台の価格のところが多いけど、長くやっているとなかなか上げにくいっていうのはあるね。やっぱり常連さんの顔を見ちゃうと。自分は起業家だったからね。利益をある程度次の投資に向けないといけなかったんだけどね。今はここ(蒲田)と赤坂しかないから、利益を確保するっていうことはない。”じゃあその利益分はお客さんに還元した方がお客さんと長い付き合いできるなって思ってる。だって蒲田のお客さんって本当にいいお客さんだから。”
ーーそこが20年続いた要因にもつながってくるのか。
やっぱり企業だと利益を確保して次の投資に向けるっていうのが企業の本質だよね。企業っていうのは拡張しないと株主に対しても従業員に対しても役割を果たせない。
ところがラーメン店の親父さんっていう話になると自分が美味しいものを毎日食べなければ、利益は増える。
”じゃあいいよこの分はそっちで”って還元しちゃうって話だよね。それで和鉄の今の価格は維持はできるのかなって。それがね、物事を考える時の判断だよね。自分はどっちの方が向いているかって。
ーー利益を投資に向けるよりも、お客さんに還元する方が向いていると。
そのほうが正解だろうなって思うよね。コロナで、サラリーマンの人が外に出られないんじゃ大変だしね。そうなると飲み歩けないし。昔ほど今はひどくないけどね。昔はコロナかかっただけで死刑だって(笑)。だってコロナなんてほとんどの人が気にしてないでしょ。でも、日本人は真面目だからマスクは絶対に外さないでしょ。外すと変な人に睨まれるからね(笑)。
ーーこの立地ながらも怖い人が来るとかはなかったんですか。
怖い人も一日中怖いわけじゃないからね(笑)。 ああいう人たちもやるときゃやるって話だから(笑)。 蒲田も多少なり繁華街だからそういう人もいるよね。
ーー和鉄に長く通っていると、レモンサワーだけ飲んで帰られる方だったり、ランチくらいの時間にそのまま器ごとテイクアウトしたりする人もいるが…。
レモンサワーの人ね(笑)。 いるいる。うちはテイクアウトはやってないんだけどね、あれは近所の人。風俗店の人がきて、どんぶりごと持っていくね。サワーの人はね、常連さんでね。「飲みたい。」って言うからさ(笑)。 でも変な人はいないよ。お客さんから見たら変な人なのかもしれないけどさ(笑)。
迷惑かけるような人は酔っ払いくらいだよね。基本的に酔ってる人は店に入れるの断るけどね。「入るな。」って。
ーー和鉄珍事件はありますか。
コロナの前は酔っぱらって寝ちゃう人が結構いたね(笑) 。カウンターの人は「寝ないでください。」って言うくらいだけど、トイレに立てこもっちゃった人もいたね(笑)。寝ちゃってさ、全然出てくれなくて頭きたから大きな声で警察の人呼ぶフリしたら、慌てて出てきたよね(笑)。
それと、お店が有名な頃に視察に来た人がいるんですよね。なんか2人組くらいで来て、うちは麺を製麺所から買っているんだけど、そしたらいきなり怒り出しちゃって。「自家製じゃなきゃラーメン屋じゃねえ。」って。自分たちは麺の専門家じゃないんだから、「餅は餅屋に頼んでるだけだ。」って言ったら「それは許せん。」なんて言われてさ(笑)。そんで何かをぶつけられたんだよね。エラい怒っているから警察呼んだんだよ。そしたら逃げちゃってさ。そのあとカウンターの下見たらバッグを忘れていて、そこに通帳が入ってたんだよ。警察にそれを渡してさ、そしたら翌日「すみませんでした。」って謝りに来たよ(笑)。
あとはね、うちができて3〜4年くらいした後に西口に『青葉』ができたんだよね。名前だしたらアレだけど、”なんとか木さん”に『青葉を迎える蒲田のラーメン連合』っていう特集をやりたんだけど、出てくれって言うんだよね。自分たちは青葉を目指していたわけでもあるから、対抗として新作のラーメンを作ってくれって言うんだよ。「忙しくてそんなのやれませんよ。」って言ったら、エラい文句たらたらでさ。あの人ラーメンの連載を持ってたんだよね。『和鉄は青葉をまねてやったけど、本家の青葉がきたら和鉄は終わりだ』って雑誌に書き込まれたね(笑)。
ーー結局(蒲田に)青葉はもうないですからね。
青葉もないし、武蔵もなくなっちゃったね。
あとはね(他に珍事件があるとしたら)カザフスタン国営テレビってのが取材させてくれって来たのよ。通産省か外務省かなんかの紹介で来たって言うんだよね。なんか日本のアントレプレナーの…自分ら脱サラだからさ。起業した人の話を本国でやりたいからって。
あとでビデオ送りますって言うんだけど貰った記憶はないんだよな(笑)。
ーーカザフスタンで流れてかもしれないってことですね(笑)。
ラーメンのことについても聞きたいなと思うのですが、味について聞いてもいいでしょうか。
味はね、まず青葉をまねたっていうのがあって…。名前が和鉄ってことなんですけど、『和風味の鉄人』になろうよってことでつけたんですね。昔『料理の鉄人』という番組があってそれをオマージュしてつけた。
食べ物っていうのはインパクトと余韻が必要だと思ったから、最初は和風のインパクトを目一杯強くしたいと思って、煮干しを山のように入れていたんだよね。自分たちはインパクトを追い求めたんだけど、お客さんには「苦い。」って言われちゃったね(笑)。
余韻が悪かったんだなと思って煮干しを半分くらいまで減らしたんだよね。だんだん調整して今に至る感じかな。
ーーお店を立ち上げる前は自宅で1年間試作を繰り返したと仰ってましたが、そこでもがっつり煮干しを入れて試されてたと。
そうだね。毎日食べ歩いて、毎日試作してたね。
ーー出汁は煮干し以外には何で取られてるんですか。
煮干し、鰹、サバ節、昆布、椎茸。煮干しはインパクトが一番強いんで、煮干しをたくさん入れてました。
うちはよく言うダブルスープ。肉スープと和風スープを合わせるんだよね、別々にとって。肉スープで鶏ガラだけだとインパクトが弱いんで、和風がすぐ出てくるから、こっち(和風)もそんな強くしなくていいんだけど、豚骨とかを入れると肉スープの方が強くなるから、和風が弱くなって和風ラーメンにならないんですよ。だからそれに合わせて煮干しをガンガン入れてたって話(笑)。やっぱりバランスだよね。
ーー今現在の味はどうなんですか。
基本は変わってませんから、豚骨、鶏がら、豚足。あとは野菜を入れて肉スープを取って、和風のスープを取ってそれを合わせるって感じかな。
ーーその比率を調整しながら今に至るってことですね。
そうね、昔はこっちが多いほうがみたいなのはやってたね。1年くらいやってこの比率だろうなってなったね。最初は本当に苦かったからね。
中にはあの昔の苦いのが食べたいっていうお客さんもいるんだけど(笑)。
でもそうすると、マニアックな人には受けるけど、全体としてはウケが悪いよね。
ーー小林さん自身はどっちのほうが好きっていうのはあるんですか。
やっぱり今の方が好きだよ。
でもインパクトも大切なんだよ。
良くビールのCMで『コクがあってキレがある』みたいに言うけど、飲み込むときに飲み込みにくいくらいのインパクトがあると印象が強いんだよね。
うちはラーメンとつけそばがあるけどどっちの方が売れたかっていうと、最初つけの方がハマるんだよね。味のインパクトが強いから。
でもだんだんインパクトがあるほうは飽きられてくるんだよね。ラーメン派のお客さんは結構長く何十年って来てる人多いよね。
だからどうしても最初インパクトあるものは「あっおいしいな。」って思うけど、”余韻”からするとここラーメンの方が美味しいなってなる。最初の頃は私も煮干し強めのつけが好きだったけど、だんだんラーメンになっていったよね。
今はラーメンもつけそばもスープは一緒だからね。あとはタレが少し変わるってくらいで。
ーー今から何かインパクトを出したいものはありますか。
やっぱり個性ってインパクトがあるかどうかだから。ビジネスなんでもそうだけどインパクトがあると、みんなコメントしやすいわけだよね。インパクトがなきゃコメントのしようがないじゃん。「苦い」っていうのもコメントだからね。何もインパクトがないと誰の目にも耳にも入ってこない。インパクトを出すっていうのはビジネスとしてはある程度必要じゃないかな。でも長くやるにはインパクトだけじゃってことになるんだよね。
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