梅シロップと、ひと夏の思い出。
友達と、梅シロップを作った。
友達が私に「梅シロップ作りたくない?」と話を持ちかけてくれたからである。
私の梅シロップへの印象といえば、「簡単に作れるとは聞くけど、手間がかかりそう」というものだった。
あと、「こんな素人二人でうまく作れるのか?」と思っていた。
梅シロップを作り始めるまでは。
梅シロップを作る前に。
まずは、買い出しに行った。
広い某100円ショップの中を、宝探しをするようにガラス瓶を探し回った。
見つけた大きなガラス瓶を抱えて、他にも必要なものを揃えていった。
梅シロップに欠かせない、氷砂糖。
あと、梅シロップが発酵したりカビが生えたりするのを防ぐための、お酢。
梅シロップの主役である、梅も。
結局、梅シロップを作るのに次のものを使った。
梅(冷凍の完熟したもの) 1kg
氷砂糖 1kg
お酢 400ml
大きなガラス瓶
一人暮らし用の狭いシンクを見て、「シンクがシルバニアサイズなんだけど」と言った友達に大きなガラス瓶を洗ってもらった。
その後、ガラス瓶の中を綺麗に拭いてお酢を瓶の中に少しだけ入れてクルクルと回して瓶を消毒した。
不慣れなもので、本当にこれでやり方はあっているんだろうかと思いながら作業をした。
瓶を消毒した後、また綺麗に拭き直した。
その後、自室の狭い長机に大きな瓶を移動させ、
梅と氷砂糖とお酢を入れる作業に移った。
購入したのが冷凍の梅だったから、ガラス瓶に梅を入れると「カランカラン」と涼しげな音を出した。
梅と氷砂糖を交互に瓶に入れていくと、
あっという間に半分くらい埋まった。
そこに、お酢を入れてとりあえず仕込みは完了。
色々話して、自室の片隅で私が梅シロップの面倒を見ることになった。
ここから、私と梅シロップの7日間が始まった。
さっきの仕込みをしたのが1日目。
2日目は、冷凍の梅を使ったためか氷砂糖が
半分くらい溶けていた。
重たい瓶を、クルクルと朝と昼と夜に回す。
3日目は、氷砂糖の粒が少し残るぐらいで
ほとんど解けた状態になった。
また、瓶を回す。
4日目は、氷砂糖はほとんど解けて、
瓶を傾けたときの液体の感じがシロップに
近くなった。
忘れずにまた、瓶を回す。
4日目とはあまり風貌が変わらなかった、5日目と6日目。
もう、見た目はこの時点で完成に近かった。
この日も、朝、昼、夜と欠かさず瓶を回した。
そして、7日目。
自室の片隅にいた梅シロップをついに取り出す日がやってきた。
7日ぶりに私の家にやってきた友達が、梅シロップを見て「うまくいったんじゃない?」と言った。
その瞬間、私の頭の中では安堵と、面倒を見てきた6日間のことが浮かんだ。
まずガラス瓶から、シロップに浸かった梅を取り出した。
梅は、全体的にツヤツヤしていた。
取り出した梅を各々一つずつ口に運んでみた。
一口齧った私は、梅の皮のカリカリしたところと
中のじゅわっとした部分を不思議な食感だと思いながらゆっくり食べた。
一方、一口で梅を食べた友達は酸っぱさに驚き、
でも「美味しい」と言って笑っていた。
梅を頬張った後、シロップも味見することにした。
水にシロップを溶かし、少しずつ飲んだ。
最初、水に対してシロップをどの程度入れたらいいのかどちらもわからず。
探り探りで混ぜるシロップの量を増やしていき、
結果的にほんのり梅の酸っぱさを感じるくらいの分量でその味を楽しんだ。
最終的にとれた梅シロップの分量は、大体ペットボトル三本分くらいになった。
空になったガラス瓶を見て、私は「なんだか寂しいな」と思った。
最初はどうなることやら、と思っていたものが
あっけなく成功してしまって。
ある種燃え尽きたような感覚に陥った。
ぽろっとさっきの文言を言ってみたら
「またあの瓶を使って別のものを作ればいいよ」
と友達はガラス瓶を洗いながら言った。
いつかまたあのガラス瓶に違うものを宿して、
面倒を見る日が来るんだろうか。
その時も、またこの人と一緒に何か作れたらな
なんて淡い期待を抱いた。
実際に梅シロップを作ってみて、意外にもこんなにあっさりと作れてしまうことが分かった。
作る前に懸念していた手間も、材料を工夫することでそんなに苦労せずに作れた。
梅シロップなんて作ったことがない素人二人でも
美味しいものが作れた。
何よりも、友達との思い出が増えたことが嬉しかった。
話を持ちかけてくれたことに、感謝である。
後日談。
完成した梅シロップと梅は、さまざまな友人の手に渡った。
ある友人は梅の輝きを見ながら嬉しそうに梅を口に運んだ。
また、別のある友人はシロップを溶かした水の中に梅の果肉を浮かべて美味しそうに味わった。
この人たちの表情を見てさらに、「作ってよかったなあ」と一人でしみじみ思った。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?