『騎士団長殺し』感想①
今までの村上作品で扱っていた要素が、いくつも出てくる。
妻が不倫をして別れ、一人になった男
井戸や地下の洞窟を思わせる、閉じた暗い空間
異次元の世界
感受性の強い少女
今回の話は、ずっと主人公の「私」の視点で語られる。
前作のように場面や視点が交互に入れ替わるような仕立てになっていないので、素直にすんなりと読めた。
主人公の、孤独感、世の中との距離感の描き方がとても好き。ベクトルが自分の内側に内側に向かっていく感じが、味わい深い。
妻に、「付き合っている人がいるので別れて欲しい」と切り出された男。
その事を承諾し、仕事も一旦やめて、旅にでる。
男は、妻に何も問わない。
いつから、付き合っていたんだ?
相手は、誰なんだ?
自分の何が悪かったのか?
具体的な事はなにも聞くことなく、旅にでる。
東北をぐるっと一周、車でまわる旅。目的地もなく日にちの区切りもなく続くドライブ
きっと、運転しながら思考は何度も何度も同じところに戻るのだろう。
何故?、と諦めの無限ループ
そうやって、自分が失ったもの、自分の中にぽっかりとあいた暗くて大きな穴、戻れない普通に過ごした日常を、現実に刻んでいく。
ひたすらひとりで考えて、失ったものを失ったこととして認めて折り合いをつける作業。
良いとか悪いとかの話ではなく
そうとしか出来ない個人の性質というか資質のようなものが、私の気持ちの在り方に沿う。
〜続く〜