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追いかけてシドニー②

足止めくらって南大阪。
1日おくれの飛行機は本日(4月24日)午後4時出発予定。これでシドニーには2泊しかできないことになった。あんなに広い大地にたったふた晩。すべては野外ライブのため。イアン・ギラン。ギャング・オブ・フォー。ホテルでよく眠った朝、感情が麻痺状態から回復し、なんでも楽しんでやろうという気分が芽生えてくる。二色浜から泉佐野で途中下車、商店街の薄汚れた居酒屋で海鮮丼ランチ680円をいただく。狂うほどにうまかった。なぜかエアロスミスが流れていて客は私ひとり。会計時、頑固オヤジに「おいしかったです」と伝えると「いってらっしゃい」の一言。おお、なんかいいぞ。

海鮮丼 at 「九十九」



ところで私は図書館ヘビーユーザーである。どこの自治体にも、どこの国にも図書館があり、無料で入れてしかも知識を身に着けることができる。雨風凌げて、なにより流れている空気がかぎりなくゆるい。ギラギラ、チャラチャラした輩はそも寄り付かない。なんてすごいんだ、ビバ図書館。そんなわけで泉佐野図書館に入ると、司書のおばさんと泉州じじいが仲良さそうにしゃべっていた。なにげなくチャールズ・シュルツ作PEANUTSの英・日両対訳本を読んで愛と皮肉の世界に浸り、たしかに、ぜんぶどうしようもないから肩の力抜いてこうなんて思えた。

そうして韓国を経由して25日午前10時過ぎ、シドニーに着いた。機内では隣に座った大学四年生のパクくんとよくしゃべった。ワーホリで1年滞在するらしい。韓国社会は競争が激しいからちょっと休憩、と言っていた。英語上手だね、と褒められた。カムサハムニダ。グッドラック、コリアンボーイ。 いよいよ入国である。シドニーは実在したのだ。パスポートを返す際、オーストラリアの入国係官は「センキュー」と言ってきた。数多く入国してきたけどそんなことを言われたのははじめてだ。いつもがんばって覚えた現地語であいさつしても彼らは厳正な態度を崩さないのが常。しかしオーストラリアはちがう。フレンドリーだ。余裕があるんだろうな、いろいろと。

野外コンサート開始まであと3時間ほど。オリンピックパークへの行き方を調べるためコンサートの公式サイトを開く。開く。ひらいた。DEEP PURPLE , DEAD KENNEDYS, GANG OF FOURはキャンセル。?? もう一度見る。DEEP PURPLE , DEAD KENNEDYS, GANG OF FOURはキャンセル。 それしか見たくなかったのに? おれはGOFのライブ情報を調べて、ヨーロッパでもどこでも見に行くつもりで、このコンサートを見つけて、ついでにDEEP PURPLEとデッケネが見れるなんてすげえということで4万5,000円のチケットを買ったのに。だれがアリス・クーパーとブロンディなんぞ見たいねん。しかもその情報は2週間前のもので、払い戻し(全額ではなく1万円だけ)期間も終わっていた。英語ニュースサイトをよく読む。オーガナイザーはこれまでもやらかしてきた札付きの人物らしい。とはいえまたおれのせいです。確認を一切しなかった。英語の案内メールもよく読まなかった。やあおれです。こんにちは。

脱力に次ぐ脱力。もう行かなくていいや。Punk is Dead. トムとゆいと酒のもう。空港駅でOPALカードを購入、40ドルぶちこんで改札ピッ、セントラル駅で真っ赤な路面電車に乗り換えGlebe駅へ。

道が広い。陽光が燦燦と降り注ぐ。湿気はなく、乾いた空気がさわやかに通り抜ける。ぼーっと歩いてトム&ゆいがいるThe Toxtethというパブにたどり着いた。数人の友人らとテラス席でよろしくやっている。今日はオーストラリアの祝日、ANZAC DAY(アンザックデイ)というやつで、だれもかれもが昼間から飲みまくっているのだった。「かおる! 残念やったな」とトム。長時間のフライトと度重なるショックで私の顔はピカソの泣く女みたいになっていた。いや、マグリットの山高帽の男だった。トムゆいとその友だちエマ、ジェシカ、ダニエルたちがかわるがわる慰めてくれた。それはひどいな。絶対払い戻しできるよ。悪いことの次はいいことがあるよ。まじでみんないいやつらやな。ビール1杯2,000円くらい、トムがさっと支払いをすませてつぎつぎ持ってくる。泣きそう。

泥酔一歩手前、突如始まったANZAC DAYのコイン表裏ギャンブルに乗り込む。親はなく、表にベットするなら札を額にくっつけ、裏にベットなら顔の横でヒラヒラ振る。で、客同士で勝手に自分の予想と反対の相手を見つけて1対1で勝負。羽子板みたいなのにコインをのっけて、群衆の中から選ばれたひとりがコインを上空に投げ、みんなで着地を見守る。表。歓声、奇声。5ドル負けた。私はゆいを中央のスペースに押しやってコイン投げに立候補させた。たのむぞ幸運の女神。ゆいが投げた。落ちた。裏。20ドル勝った。この旅ではじめて幸運に恵まれた。


ANZAC DAY ギャンブラーども


陽がだいぶ傾いてきた。シドニーは晩夏。涼気が火照った顔に心地よい。「せっかくチケットあるんやし、そろそろ行ったら? アリス・クーパーおもろいで」「おれやったら行くなあ」トムやみんなにそう言われると、自分というものがなにもない皮相人間であるおれは行くことを決断。電車を乗り継いで会場に向かった。 シドニーの街はどこにでも巨大な木が生えており、公園や芝生もいたるところにある。建物のスケールも大きく、もちろん歩道も広々としている。セントラル駅で乗り換える。構内はやはり広く、人と人がぶつかるなんてことはまずありえない。街作りの勝利といえるだろう。 雲ひとつない夕映えの空は世界の終わりのよう。


オリンピック・パーク駅で降り、肌寒さを感じつつ歩く。高橋尚子に遅れること24年、ようやくゴールインを果たした。電子チケットを提示し、バーコードをスキャンされる。これで払い戻し全額は無理だろうな、と思いつつ。 グラウンドに入る。奥に行くにつれてかなりの人がいることがわかった。芝生に寝転がる人、座ってビールを飲む人、ステージ両端の巨大モニターを見つめる人。いろいろキャンセルになってもこれだけ客が来るなら上出来だろう。人をかき分けてステージから10メートルくらいまでにはなんなくたどり着けた。おじさんおばさんだけかと思いきや若者もいる。ギュウギュウというほどではないがけっこう混雑している。ブロンディは百戦錬磨で、デボラの貫禄に圧倒された。知ってる曲でテンションがあがる。パチパチ。そう、結構良かったのである。11ドルの缶ビールをごくり。フライドチキンやピザはのきなみ2,500円越え。さすがに買わない。こわいこわい物価高。 


アリス・クーパー。背筋は曲がりつつあるが完璧なメイクに通るダミ声。Welcome to the show. 本当にCDを聴いてるかのよう。それに加えて、巨大なフランケンシュタインが出てきたり本物のヘビを首に巻き付けたりとやりたい放題。あとギタリストの女性がゴージャスで速弾きも完璧で見惚れていた。うん、まあ見てよかった。


バスでトムの実家付近まで帰り着いたのは夜11時半。半袖のトムがバス停で凍えながら待っていてくれた。よく来れたな! とニコニコ赤ら顔。あれからも相当飲んだらしい。ゆいは先に帰って寝ている。夜の静寂、トムが育った街をふたりで歩く。閑静な住宅が立ち並ぶ、ここは芦屋か成城か。「ここの家はクソ野郎が住んでんねん。ここはおれが通った学校」そう言ったかと思うとおもむろにユーカリの木に抱きつくトム。次いで葉っぱを口に詰め込む仕草。こ、これがオージーコアラギャグか!!! 負けじと私も巨木を抱きしめ憂いを青い薔薇に変える。朝を迎える孤独を忘れて。

明日はなんかおもろいことしような、トム!!!

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