総合芸術としてのアニメーション / CANTERA 3期生募集に寄せて
総合芸術としてのアニメーション
FLAT STUDIOを立ち上げてから、早くも5年以上が経ちました。
何もないゼロの状態から、未経験者だけでスタジオを立ち上げ、2021年には初めてアニメーション映画を発表することもできた。しかし、それだけで監督やスタジオが一躍脚光を浴びるようなことはなく、今もなお泥臭く、楽しみながら、日々を生き延びています。
僕らは「アニメーション」が好きでこの世界に足を踏み入れたというよりは、歩みを進めるなかでアニメーションやそれを取り巻く環境、そこに居る人たちが好きになっていきました。
アニメーションは映像における表現手法のひとつですが、アニメーション作品は本来、「総合芸術」であるべきだと僕は考えています。
その「総合芸術性」とは、作画・美術・撮影を中心とする一枚絵としての美しさやアニメーション(=動かす)させるための技術、役者・コンポーザー、音響チームらと共に作り上げる”音”の体験、背骨となる物語のクオリティ、それらを生み出す土台でもあるワークフローなどの制作に関わる領域。ビジネススキーム、資金の生み出し方、作品の広げ方までを含む製作業務全般に関わる広範な領域。そして、これらすべてが有機的に結びつき、関係者一同が協働することで初めてアニメーションという「総合芸術」は成立するのではないでしょうか。さらに近年では観客、ファン、支援者──といった視聴者の方々も参加するなど、より広域化の一途を辿っているようにも思えます。
この観点からすれば、究極的にはクリエーター側、プロデュース側、コーポレートやその他側など立場に関わらず、レベルの高い作品を目指すうえでは作品に関わるすべての領域に対する理解が関係者全員に求められるはず。相互理解が欠けている状態は、それがそのまま作品への影響として現れてしまいますし、有機体としてのアニメーション作品のダイナミズムは、決してひとりの力だけでは生み出せません。
インディペンデントチームでなければ得難いもの
なぜ自分たちでスタジオを作ったか。
なぜ人と人とが力を合わせなければいけないのか。
それは「全力を出せなくなるから」です。
あくまで現時点での自分なりの解答ですが、アニメーション制作にはこれだけ多くの人が携わっているのですから、個々が自分の領域だけで最善を尽くせばいいと思っても、全体のダイナミックな動きに飲み込まれてしまいます。
自分の意見や立場を他のパートのメンバーに伝えること、他者の"仕事"に対する想像力の質を上げていくことは作品づくりに関わる誰にとっても必要な作業で、そこで解消されない齟齬は最終的には作品そのものに反映されてしまうのではないでしょうか。
だからこそ、FLAT STUDIOは経済合理性を差し置いてでも、全セクションを内部に保有しています。
仕事だから、こういう条件だから、色々な制約のなかで「仕方がない」と、僕らは本気を出さない理由をいとも簡単に見つけ出します。
「もっとやれるのに」「これを創りたいのに」「本当は…」いくつもの"IF"が押し寄せるなかで、自分(たち)が心から「全力を出せた」と思えることを追求していくと、どうしても協力するしかないというのが現時点の解答です。
それに、何かに打ち込むときに全力を出せなかったとしたら、僕らはきっと後悔するんですよ。未来の自分(たち)が後悔しないため、自分(たち)が成長するため、アニメーション作品を作るには相互理解を深め、"協力する"というただのスローガンだけで終わらずに本当の意味で力を合わせる必要があると考えています。
CANTERA新メンバー募集開始!
そして今回「CANTERA」の3期生を募集します。
詳細は下記を確認してください。
募集要項
https://flatstudio.jp/news/448
現在、CANTERAにはU-22世代の若者たちが在籍しています。
Anhelo、そらの、わお、QQ、栗山、國分、そこ、玉木、中村、矢藤、雪、らふしゅんた──この12名のメンバーは学生年代ではありつつも、当たり前ですが"お客さん"扱いはせず、スタジオのメンバーとして同じ目線で接しますし、仕事のうえでは学生扱いもせずにメンバーたちにもその振る舞いを求めています。
CANTERAのメンバーのなかから、今注目する二人をご紹介させてください。
<雪>の場合
たぶん最もCANTERAの活動に熱心に参加してくれたんじゃないかと思います。会議で発言するときは、ひとつの意見に対していくつもの可能性を検証し、慎重に言葉を選んでいることを感じると同時に、それは自分の意見によって誰かが傷つかないようにという配慮から来ているんだと思います。そして、そのキメ細やかな気遣いはそのままイラストにも落とし込まれていますね。
「どうしてこんなに成長できたの?」
と聞けば、きっとその理由を語れるのが<雪>です。その時考えたことを日記としてまとめているようです。この場合、本人の努力による部分が大きいので、僕らが技術向上にどれだけコミット出来たか考えると正直怪しいのですが、CANTERA始動当時は「最終的にFLATに入らなくても良くて、ともかく技術を伸ばしたい」と話していた<雪>が「FLATに入りたい」と言ってくれるようになったことはFLATメンバー一同、喜びましたよね。
<栗山>の場合
ほとんどイラストを描いたことがない、ということから面接がスタートしました。応募に際して、本格的にイラストを書き始めたのは3-4ヶ月前ということでした。
<栗山>のアピールポイントは野球部で培った努力の姿勢(※野球部員は1名のみ)とフリースタイルラップで観客を盛り上がらせることの2点。正直、これは大人をおちょくってるとしか思えない志望届けで、「ちょっと面白いこと書けばギャグ枠で採用してもらえるっしょ」という浅はかな考えが伝わってきました。ただ、兎に角「チャンスをください!」とストレートに想いをぶつける若者にベットしてみようと思い、採用したのが<栗山>です。
彼の発言は嘘ではなかったようです。
「ストイックに切磋琢磨できる」そうアピールポイントに描かれていた通り、かなり没頭して描いたのが感じられます。<栗山>の場合は、試行錯誤しながら課題発見から課題解決を導き出す地頭の良さがあったので、思考が別の方向に向かわないようにそのベクトルを整えていました。また、その地頭の良さゆえに少しでも糸口が見えると、それで手を緩めてしまう癖もあったので、さらに頭が回転するような問いを投げかけるなどのコミュニケーションを心がけました。
お分かりの通り約3ヶ月で相当な上達です。ストイックに切磋琢磨する<栗山>ですが、現在は背景美術だけではなく、別の取り組みにもチャレンジしています。どこまで急成長するのか、とても楽しみなメンバーですね。
※フリースタイルラップをしているところは一度も見たことがないので、あれは多分嘘です。
現在ではCANTERAメンバー全員が何かしらの形で私たちの仕事に携わっていますが、即戦力としてすぐに案件に参加できたメンバーはほとんどいませんでした。
アニメーション業界で活動するうえでは、特別な才能を持つ人を除いて技術以上に重要なことがあります。CANTERAの活動は、その「大事なこと」に対する意識を持つことから始まります。
特別な才能を感じさせる子を伸ばすスキームも整えていますが、まだ「バレてほしくない」のでここでは詳細を控えます!
FLAT STUDIOの価値は"何"でしょうか。
才能のあるクリエーター? 優秀なプロデューサー?
もちろんそれは必要不可欠です。
しかし、そのうえでの僕らの価値は、成長しなくてはスタジオの存続が危ぶまれたからこそ発展した「育成のメソッド」とそれを実現するための「スタジオの空気感」だと考えています。
前者は言語化可能ですが、後者はお金では作れず、作ろうと思っても生み出せるものではない或る種の奇跡です。
当然ながら僕らはCANTERAのメンバーみんなの将来をすべて担保できるほどの力は持っていません。
でも、ここに参加するメンバーみんなの成長は100%担保します。
今後の展望
FLAT STUDIOは来年で設立6周年を迎えます。
来期には現CANTERAメンバーの大学4年生年代である”5名”が社員としてFLAT STUDIOに入社予定で、彼・彼女らはすでに私たちの立派な仲間です。
そして僕らは<ここからの3年間>を生き抜くために、さらなる才能の発掘と育成を続け、スタジオの空気感をより熱く、安心感があり、活気に満ちたクリエイティブな場にしていく必要があります。
日本国内だけではなく世界中のパートナーと協働し、日本のアニメーションをさらに研ぎ澄まさなければなりません。
すでにアニメーション業界は成熟の域に到達していると思います。
諸先輩方がその発展に本気で取り組んでいますし、やはり勢いがある業界ということもあり、スゴイ人も多いですね。
でも、そのシステムも十全ではなく、これまでのシステムでは見つけられなかった才能や、取りこぼされてきた原石を拾い上げ、それらを我々独自のニュースタンダードなアニメーションスタジオとして昇華させることが、業界の末席にいる僕たちが果たすべき役割ではないかとも考えています。
"アニメーション"という歴史を紡ぐその一端を担えるこの仕事は、それはそれは充実感があります。楽しさも苦しさもすべてが二乗、三乗になるのがこの世界ということも重々理解できていると思います。
それでも僕らと共に本気で創作に向き合おうと思ってくれるU-22世代の方は是非CANTERAの3期生にご応募くださいね。
繰り返しになりますが、僕らにみんなの将来を確約することはできませんが、参加してくれたメンバーの成長は確約します。
では、宜しくお願い致します!
FLAT STUDIO
石井 龍