【小説】竜と調教師ヴェルナンデス プロローグ
プロローグ――戦火の女戦士
夜明け前の空は、灰色に染まっていた。戦いの緊張感が大地を包み、風は冷たく、死の気配を運んでいる。遠くには、ドルドーガ軍の旗が揺れていた。ドルドーガの兵士たちは一列に並び、帝国ブデライカの軍勢と向かい合っていた。
その中央に立つのは、屈強な体格を誇る男、ガルバドロス――ドルドーガの兵士総長だ。長年にわたり数多くの戦場を駆け抜け、誰もがその名を恐れていた。彼の傍らには、巨大な剣を携えた竜「突撃竜(トツゲキリュウ)」が控えている。
ガルバドロスは前に進み出た。彼の重厚な鎧が鈍く光り、戦場の中央で無言の圧力を放っている。周囲の兵士たちはその威圧に息を呑んだ。彼が一声叫べば、竜が轟音を響かせて進軍を開始するだろう。
だが、彼の前に一人の女戦士が現れた。
女戦士は無言でガルバドロスを見据えていた。彼女は頭から足まで黒い軽装甲を纏い、長い剣を片手に握りしめている。その姿は風に揺れ、周囲にただならぬ緊張をもたらしていた。彼女の背後には一頭の竜が控えていたが、竜よりも彼女の存在感が際立っていた。
「貴様一人で、私に挑むというのか?」
ガルバドロスは軽く笑った。彼の目には、女戦士など虫けら同然に映っていた。
しかし、女戦士は一言も発さず、静かに剣を構えた。次の瞬間、風が切れた――その剣が、驚くべき速さで空を裂いたのだ。
ガルバドロスの目が見開かれた。彼の突撃竜が反応する間もなく、女戦士は竜の喉元を切り裂き、鋭い金属音が響き渡った。竜は咆哮を上げながら倒れ、その巨体が地面に叩きつけられた。
「何だと……!?」
ガルバドロスは驚愕したが、即座に剣を構えた。彼女がただの戦士ではないことを理解したのだ。
女戦士は静かに歩みを進めた。まるで敵の強大さなど関係ないかのように、冷静で、恐れを知らぬ姿勢を保っていた。ガルバドロスは大剣を振り下ろしたが、彼女は一瞬でその剣を受け止め、軽やかに反撃した。
ガルバドロスは何度も攻撃を仕掛けたが、そのたびに彼女の動きは見事にかわし、的確に反撃を繰り出していく。まるで、彼女がこの戦場を支配しているかのように感じられた。
「お前……何者だ……!」
ガルバドロスの声は震えていた。次の瞬間、女戦士の剣が彼の鎧を貫いた。鋭い一撃が彼の胸元を突き破り、総長ガルバドロスはその場に崩れ落ちた。
「信じられない……この、私が……」
彼の言葉はそこで途切れ、戦場には再び静寂が戻った。
女戦士は振り返り、倒れた竜とガルバドロスを一瞥した。その顔には表情がなかった。彼女は剣を納め、静かにその場を去っていった。その姿が遠ざかると同時に、ブデライカの軍が進軍を開始した。
戦いは彼女の一振りで決定的なものとなり、誰もがその女戦士の圧倒的な強さを目の当たりにした。しかし、彼女が何者であるかを知る者は、誰もいなかった。
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