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違和感の物語をたのしむ | 大川直也

大川直也
1989年、神奈川県生まれ。
2009年、20歳でグラフィックデザイナーとして独立。2017年以降、芸術・美術の分野で活動。藍坊主、sumika、FINLANDSなどのロゴやジャケット、MVを制作。2018年、2019年、渋谷にて個展を開催。

聞き手:後藤壮太郎
書き手:中原徹也(Flat Share Magazine)

大川直也さん、ようこそ

── 大川さんと僕が出会った頃は、そう名乗っていたかはわからないんですけど、デザイナーとして活動されていたと思うんですよね。

大川直也(以下、大川):そうですね。デザイナーとアートディレクターをしていました。

── 今は、芸術家として活動していると思っていて、作品を制作していますよね。写真や動画の撮影、それからペインティングも。肩書きに縛られることのない活動をしていると思うんですけど、誰かに自分の仕事の説明をするタイミングがあった時には、どんなふうに伝えているんですか?

大川:ひとことで説明ができないんですよね。「CDのジャケットの写真を撮影しています。」と一方で言っても、また一方ではCDジャケットのオブジェを作る活動もしていたりして。だから長々と説明するようにはしています。ひとことで名乗ることはないです。

── そうですよね。

大川:「写真を撮ったり、映像を撮ったりしています。」っていうようには伝えるようにしています。言い方としては。

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撮影:Sotaro Goto

── それは活動していくうちに、やりたいこととかできることが自然に増えていったんですか?

大川:いや逆に、減ってきたんですよ。プログラミングをやったりだとか、今よりも色々なことをやっていましたね。

バンド・sumikaとの仕事で出会ったふたり

── 僕らが初めて一緒にお仕事したのってバンド・sumikaの楽曲『Lovers』の時ですよね。

── あれが約7年前ですよね。

大川:その時はグラフィックデザイナーを名乗ってましたね。

── デザインはいつからやっていたんですか?

大川:19歳くらいの時ですね。20歳で独立をしているので。「グラフィックデザインをやったほうがいいよ」と勧めてくれたデザイナーがいたんですよ。彼にデザインを教わっていました。

── その前からデザインに興味があったり、子供の頃から絵を描くのが好きだったりしたんですか?

大川:さかのぼっていくと、小さい頃から家にパソコンがあって。父親が建築をやっているんですけど、それでCAD(※コンピューター上で図面の設計や作成を行うことができるソフトウェア)を使わせてくれたりしていて。簡単な正方形を描くとかそういうレベルですけど。図面の書き方とか、パース(※建物などを立体的な絵にして、遠近感を表現する図法。)のとり方は教わりました。

── なるほど。

大川:絵を描くのはずっと好きでした。デザインをはっきりと意識したのは、高校を卒業した頃のタイミングで。バンドをやっていたんですけど、そのCDのジャケットのデザインをしたんですよ。そのジャケットのデザインを見て、「デザインをやったほうが良い」と言って勧めてくれたのが、僕にデザインを教えてくれたデザイナーだったんです。

バンドもメンバーがいなくなったり、自分も大学を辞めたりしたタイミングで、「デザインを教えて下さい。」となりました。そして今に至る、という感じですね。

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撮影:Sotaro Goto

── 僕らが出会ったきっかけがsumikaとの仕事だったじゃないですか。sumikaと大川さんの関係って、僕から見ていてすごく良いなと思うんですけど、なにかきっかけになった出来事とかあったんですか?

大川:地元の先輩がsumikaの片岡くんと友達で、気づいたら僕も直接の友達になっていたみたいな感じですね。これといったきっかけは意外と無いかもしれないです。もちろんsumikaのロゴを作らせてもらったりとか、出来事は色々あるんですけど「これがきっかけで仲良くなった」というより自然にという気がします。

── たしかに、10代後半の友達ってそういうことありますよね。きっかけとかなく、気づいたら一緒にいて。なかには離れていくひともいるけどなぜか今でも一緒にいるみたいな。

大川:そうですよね。僕と壮太郎さんも一緒に仕事したのって『MAGIC』が最後とかじゃないですか?

── そうなんですよね。

大川:だけど僕の心の中にはずっと壮太郎さんがいますよ。

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撮影:大川直也

── 僕も常に大川さんに刺激をもらっているっていうかんじなんですよね。

大川:僕もそうです。壮太郎さんってバンドやってました?

創作意欲と初期衝動

── 僕はやりたくて出来てなかった側ですね。

大川:バンドやってたひと多くないですか?

── たしかに、自分の中の創作意欲みたいなものを形にするんだっていう気持ちを強くもっている人が、仕事としてこういう活動を選んでいるとは思いますね。

大川さんは子供の頃からアートとの触れ合いはあったんですか?映画をよく観るとか。

大川:小学校は漫画、中学校は小説、高校は音楽でしたね。映画をそんなに小さい頃に観ていたかんじではなかったかな。

── そうだ。大川さんは文章も書くひとだ。今、話を聞いていてすごく腑に落ちました。

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撮影:Sotaro Goto

大川:壮太郎さんは子供の頃、映画好きだった?

── 僕は中学時代は映画が超好きで。観るのも、もちろん好きだったんですけど映画のチラシも好きだったんですよ。映画のチラシって映画館に行けばタダでもらえるじゃないですか?でもあれって、B5に縮小された映画のポスターなんですよ。それを集めるのがすごく好きで。

大川:集めてた(笑)

── 映画のポスターをデザインするひとになりたいなっていう気持ちもちょっとあって。そんな思いが巡り巡って今、写真をやっているんですけど。
小さい頃に、海外への憧れをすごく持っていて、音楽も洋楽を好きになっていたり。当時にハマっていたものが小説だったりしたら、また全然違った人生だったのかなと、今話してると思いますね。

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撮影:大川直也

大川さんの少年時代は海外への憧れはありましたか?

大川:高校の時に音楽にハマったきっかけがハードコアだったり、パンクバンドだったんですよ。スケートカルチャーとかに傾倒しはじめると、ラリー・クラークの映画にハマったり、そういう影響でカリフォルニアへの憧れがあったりはしましたね。子供の頃からというよりは、中高生のころに「海外って良いな」と漠然と思っていたというかんじ。

── 僕らの世代ってすごく海外への憧れがあった世代だと思うんですよね。

大川:でも洋楽聴いてるひとクラスにいなくなかったですか?

── たしかにいなかった。だからもう仲間が全然いなくて。

大川:洋画とか洋楽から直接影響をうけることもあると思うんですけど、それと同時にある影響として、必然的に周りからちょっと孤立するじゃないですか。
友達と上手に共通の話題を話せないっていう悪影響がずっと続いているっていう気はします(笑)

── 当時の僕らが過ごしてきた環境からすると、平凡な趣味ではなかったわけじゃないですか。それが今もより良いものを見つけたいとか作ろうっていうエネルギーになっている気はしますよね。

大川:良く言えばそう。悪く言えば真っ直ぐなものがつくれない。
自分の中にどっかしらそういう部分あると思いません?

── ありますよね。

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撮影:Sotaro Goto

カメラマンとして刺激しあえる関係

大川:これ僕、何度も言ってることなんですけど、壮太郎さんのライブ写真もアーティスト写真も大好きなんですけど、スナップ写真がめちゃくちゃ好きなんですよ。

── それ、デザイナーのひとにしか言われないんですけど、嬉しいですね。

大川:やっぱりうまいですもんね。観れるようになんとかしてください。

── 僕は大川さんの展示を見させてもらうたびに、ちょっとヘコんで「こういう見せ方ができるひとには敵わないな」って思ってます。

大川:それは気のせいですよ。ちなみにどのへんで思ってくれてるんですか?

── 僕はいつも大川さんの展示を写真として見させてもらいに行くんですけど、それ以上のインプットがあるというか。写真を見て「良い」と思うというのももちろんあるし、大川さんがそこへたどり着くまでの道のりも見えるし、さらに文章で、その写真を見て思ったこと以外での刺激もあって。

自分が写真を撮る時に置き換えて考えた「写真を撮った。」っていう次元じゃないところで展示をしているのを感じるんですよね。良い場面を見つけたからカメラで撮影をしたっていうことではなくて、芸術家として作品を作っているっていうのを感じます。
だから家に帰って自分が撮ったスナップ写真だったりを見ると、すごく浅く感じてしまったりするんですよね。

いろいろお話を聞きましたけど、小説にハマっていた経験だったり、僕にはない世界感だったり感性だったり、子供の頃からの経験が積み重なってきているんだろうなっていうことを改めて感じましたね。

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撮影:大川直也

大川:もっと早く聞きたかったな(笑)

── カメラマンって大きく分けて2種類いるじゃないですか。アートを追求するカメラマンと、クライアントがいて要望に答えるタイプのカメラマンと。僕はどちらかといえば後者なんですが、前者への憧れがすごくあるので、大川さんの展示に行くと「良いな」って思って帰りますね。

大川:それはお互いになんでしょうね。僕も壮太郎さんのライブ写真を見ると同じように思います。あとスナップ写真とライブ写真の中間というか、sumikaの小川さんがライブ会場にポツンといる写真あるじゃないですか。あれすごい好きなんですよ。

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── あれは、映画のポスターがすごく好きだから、映画のポスターみたいな雰囲気で、子供の頃の欲求を満たしてるんです。

音楽とデザイン、活動を通して覚えた"感覚"

── 大川さんがやっていたバンドは、デザイナーとして独立したころにはもう辞めていたんですか?

大川:辞めてました。やりたいとはずっと思ってるんですけど、才能が無いのもわかっているので。sumikaの片岡くんと「音楽ってこういう風にやってる」っていう話をした時に「僕は絵を描いてる時にその感覚あるな」って思ったんですよ。絵とか写真を撮る時にはその感覚がわかるけど、音楽の時にはそれが無いってことは、たぶん才能ないなって感じたんですよね。

── たしかに、何かをつくるうえでわかる・わからないっていう独特の感覚はあるかもしれないですね。

大川:壮太郎さんだと写真をレタッチするときに色を調整したりすると思うんですけど、あれって感覚じゃないですか。

── たしかに、理論はないけどいい方向に引き寄せていくっていうイメージですね。

大川:『ファンファーレ』の写真って壮太郎さんですよね?あと『Starting Caravan』。あれの良さって見たらみんなわかるんですけど、それを再現するのに光をどうすればよくて、色味をどうすればよくてっていうのを説明するのって難しいと思うんですよね。

── 僕らって、他のひとの良い作品を写真集だったり、今だったらインターネットを通じて常に探してるじゃないですか。そしていざというときに自分のセンスの情報の中からそれを引き出せるようにしていると思うんですよね。そういう感覚ってありますよね?

大川:ストックするというつもりではやっていないですけど、見ている量が違う気はしています。

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撮影:Sotaro Goto

── 最近はどういうものからインスピレーションをうけることが多いですか?

大川:最近でも音楽、写真集、映画、小説が多いですね。わかりやすいインプットはそういうものですけど、そこから何かを盗んでやろうというよりは、好きなものを見ているという感じですね。

── 大川さんの作品って、音楽関係の作品でいうと、他のひとと雰囲気が違っていると思うんですよね。どこからアイデアをインプットしているのかがつかめないというか、別のどこかからインスピレーションをうけているように感じるんですよね。FINLANDSのジャケットとか。ジャケットばっかりみてジャケットを作るひとには作れない作品だと思ったんですよね。

大川:これが1番好きみたいなものが特にないからかもしれないですね。どこから影響をうけているかわからないっていうのはよく言ってもらうことがあります。いろいろなところから少しずつ影響をうけているような気はしますけど。

日常にある"違和感"がおもしろい

── 自分の中では、無意識のうちにそういう方向性になっていくんですか?それとも意識的に「ズラしてやろう」というような。

大川:一切ないといえば嘘になりますけど、見たこともないものを作ってやろうっていう気持ちは実はなくて。変になっちゃってるなとは自分でも思います。

── 写真ってとっかかりがあるとおもしろいと思うんですけど、大川さんの写真って具体的なとっかかりがないにしても普通の状況じゃないじゃないですか。それがすごいおもしろくて。

大川:ここ1年くらいで気づいたんですけど、めちゃくちゃフィクションが好きなんですよ。ドキュメンタリーとフィクションだったら、100:0でフィクションが好きだから、変な浮遊感があるのかもしれないです。妄想的というか脳内的というか。

── 大川さんの作品って脳内のイメージを具現化しているような感じなのわかります。嘘みたいなシーンというか。

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