【神保町美食行記】#2『はちまき』
11月3日、『神保町の生活史#2』がnoteにて更新され、翌日・11月4日にはPASSAGE by ALL REVIEWSにて、中野代表率いる生活史チームが一日店長を担当し、私の方でもこれからの企画について、さまざまな人とお話しする機会があった。
この記事で紹介する『はちまき』さんには、その帰りに立ち寄った。『はちまき』は昭和2年(西暦1927年)に創業し、江戸川乱歩や井伏鱒二などの文豪が来店したことでも知られる老舗である。天ぷらが本当においしいと聞いたため、最初からとてもわくわくした。私の個人アカウントの方で、年越しそばの記事を見た方はピンとくるかもしれないが、私は揚げたての天ぷらに目がない。サクサクの衣とか、揚げたてのししとうとか大好きである。
天丼の前に。
全員が頼んだ天丼が届く前に、あたたかいお茶と、お味噌汁が届いた。もう外はかなり冷え込んでいたから、先んじて身体をあたためられるのはありがたかった。
お味噌汁には、くるくるした巻き麩が浮かんでいる。一口啜るだけでやさしい甘味が身体中に広がり、口の端が緩む。心に染み渡る。
衣はじける、天丼
満を持して届いたのが、この天丼。盛り付けからして美しい。衣の油と秘伝のタレが照明の光を受けてきらきらと輝いている。揚げたての天ぷらのよい香りがして、食べる前から場が温まった。
迷った末、野菜の天ぷらから食べることにする。サクッッ、と、口の中で衣が崩れる音がして、ピーマン(もしくはデカめのししとうがらし)のほのかな苦味や野菜の旨み、タレの甘みが一斉に広がった。それから、れんこん。天ぷらと一緒に食べる米も美味しくて、あっという間に幸せな気分になる。食べ応えを残しつつ、熱々になった野菜の、うまみを含んだ水分と衣から滲み出る油分がたまらない。
この天丼についてくる漬物がまた美味しくて、生姜とごぼうの甘酢漬けなのだが、舌先にピリリとくるすっきりとした甘辛さが、たれの甘さと合わさって、えも言われぬうまみを生み出している。無限に食べられる。
えび天を食べる。ご飯の上に盛り付けられた二匹のえび天はそれだけで迫力がすごい。それを一口食べた瞬間、衣に包まれた海老の、ぷりぷり且つとろっとろの食感に圧倒される。エッッ!?!? ????????
なんだかまるで新鮮な甘えびを食べているような感じがする。今までにこんなえび天は食べたことがない。新雪の上を歩くような、きゅっきゅっと噛みしめられる衣と、えびの身。
きす天。主観なのだが私はきす天がすごく好きである。ししとうと同じくらい好き。少しずつくずれていき、少し淡白な風味のする身に塩をかけて食べるのがすごく好きなのだが、ここのきすも美味しかった……。秘伝のたれや漬物とめためたに合うのがこのきす天。好きです。毎日食べたい。
対するイカ天は、きす天よりもやや噛みごたえがある(それでも全然固くない。すごくてやばい)。近くで嗅ぐとイカ独特の馴染みある香りがして、もうとにかくぜんぶうまい。このへんで卓上に備え付けの七味をかけた。秘伝のタレが染み込んだご飯に七味唐辛子の赤がよい差し色になる。それから唐辛子の辛さだけでなく、山椒や黒胡麻の香りがアクセントとして加わることでも、天丼の美味しさを高めていると思う。
どこから食べても全部美味しい。
総括
『はちまき』に足を運んだのはこれが初めてで、何なら天ぷらを専門店で食べるのも(やすらぎの湯は温泉が主業態なので)恥ずかしながら初めてだったのだが、本当に、初めてがこのお店で良かったと思う。昭和2年というとうちの祖父も生まれる前になってくるし、当時通っていた文豪たちの顔も、当然だが写真でしか見たことがない。昭和と令和の一桁台で共有できる事柄は少ないのかも知れないが、何となく彼らの気持ちがわかった気がする。
この味は永遠である。
(東雲透人)
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