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陰謀というフィクション

先週末に、「ようこそ!FACTへ」という本の1巻〜4巻をまとめ読みしました。

少し前に、箕輪さんという方がXでこのコミックを紹介されており、「陰謀論にハマっていく若者」を描いたストーリーだということで、興味を惹かれていました。

このところずっと忙しくて、読みたい漫画があってもなかなか時間を取れません。ようやく一息ついたので、手に取った次第です。

主人公は、地方の母子家庭で育ち、なんとなく上京してしまった19歳の青年「渡辺くん」です。
彼は非正規労働者で、冷凍肉の積み下ろしという低賃金で単調な仕事に従事しています。
渡辺くんには、何もありません。

持っているものといえば、

・若さ

だけ。

持っていないものは、

・学歴
・特筆すべき経歴
・お金
・教養

などなど。
家柄や冴えた頭脳なんかも無いのですが、大した家柄なんて無い人の方が世の多数派だし、19歳の男の子がナイーブなのも当たり前のうちなので、それは良しとしましょう。若い子には、これからいくらでも成長の余地がありますからね。

自分で持っていると自惚れているものは、

・論理的思考力

です。小学生の授業でたった一度褒められただけなのですが、彼はそう思い込もうとしています。

だけど、現実の彼にあるのは

・大きな不安

だけ。

渡辺くんは怖いんです。
自分には何も無いという現実と向き合うことが。
今の自分が何者でもなく、この先も何者かになれず、何者でもないまま死んでいくのではないかという恐怖に囚われて、夜ごと悪夢にうなされています。

「自分の人生が始まっている気がしない」

ことに息が詰まっているのだけれど、

「自分の人生は、始まる前に終わっている(詰んでいる)のではないか」

という、より恐ろしい思いに震えている。その恐怖は頭と心にへばりついていて、どうやっても拭い去れないのだけど、かといって向き合うことも受け止めることもできない。
受け止められないから、克服するための一歩を踏み出すこともできない。

そんな時に現れたのが、陰謀論団体と、陰謀論者の仲間たち。
渡辺くんは、彼らから居場所を与えられ、生きる意味を与えられ、生きていく希望を与えてもらいます。

「何かおかしい」という疑問を感じない訳じゃない。けれど、

「あぁ、俺は今、生きている!」

という充足感に、眩暈がしそうなほど満たされていく。

陰謀論って、要するにフィクションなんですよね。
フィクションかファンタジーか、書店の本棚に並べるとすればジャンルが違うだけで、中身は大差ないんです。

現実が辛い人。そして、「間違っているのは自分ではなく、現実の方」だと思い込みたい人たちにとって、陰謀論やスピリチュアルは、自分にとって都合の良い物語を提供してくれる装置なのですよ。

漫画では、「真実に目覚めた」若者が「現実に目覚める」までを描き切って終わりますが、実際の世では妄想を現実と混同して罪を犯したり、一生を妄想の中で終える人も居ることでしょう。

近頃は、トランプ氏がアメリが大統領に返り咲いたことで、日本でも陰謀論者が勢いづいているようですね。

荒唐無稽な陰謀論がなくならないどころが、勢力を増しているということは、それだけ「生きていくのが辛い人たち」が増え続けている証ではないでしょうか。

この10年ほどは特に、表向き「誰一人とりのこさない」なんて綺麗事を言いながら、実際には「地べたを這っている人たち」に対して、世界はどんどん冷たくなっているのだから。

テクノロジーはこれからも世界を変えていきます。 
振り落とされる人が増え続ければ、陰謀論はその受け皿となって、これからますます勢いづくのかもしれません。

話は変わりますが、以前、私はある本を読み、心に引っかかった文章を書き留めました。
もう何年も前のことで、本のタイトルは思い出すことができません。
残っているのは、メモ書きだけです。

そこにはこう書かれていました。

だが、薬や電気ショックで君の望みは叶えられない。
運命が君に与えた試練を乗り越えて、自分らしく生きるのだ。
まやかしの希望より、厳しい現実の方がマシだ。




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