元レディースの総長さんの覚悟
二十年以上前、切迫流産で入院したことがあります。絶対安静でトイレもベッドのそばで済まさなければなりませんでした。
ある日、暴走族のバイクの大きな音が、聞こえてきたので、「今だ!」と思って、トイレを済ませ、お隣のベッドの人に「(トイレの音を消してくれるから)暴走族の音、助かる~。もっと頻繁に来てくれるといいですよね」と話しかけたのです。
すると彼女が笑いだして、実は・・と自分の身の上話をしてくれるようになりました。
彼女は、なんと10代の後半に、その当時日本で一、二を争うような大きなレディース(女の子だけの暴走族)の総長をしていたそうなのです。
と言われても、私は、それまで、レディースという言葉も聞いたことがなかったし、総長などと言われてもそれがどんな感じなのかもよくわからず、「ふ~ん」という感じで聞いていました。(後で、他の人に聞いて、どうやらすごいことらしいというのが、わかりましたが)
彼女の生きてきた道と、私のそれとは、まるで違っていて、話しながらお互いに「違う」ということだけは、分かり合えました(笑)
ただ、なんとなく、二人の間には穏やかな良い雰囲気が流れていました。
彼女は同じ病室の人とは、それほど親しく話していなかったのですが、私にはなぜか心を開いてくれて、随分深い話をしてくれました。
彼女は当時二人目のお子さんの切迫流産で入院していたのですが、もう一人幼稚園に通っている男の子がいて、その子に手を挙げてしまったことを、それはもう悔やんでいて、涙ながらに話してくれました。
彼女自身が親から暴力を受けて育ってきたというのです。それで、その負の連鎖を自分の代で絶対に断ち切りたいという、強い思いを打ち明けてくれました。彼女は先生にも相談して、その対策のことも真面目に話していました。
彼女の親の話もしてくれたのですが、親もまたその親から暴力を受けていたということ。そして彼女の心の中に「親を許したい」という思いがあったことを、私は感じ取りました。
その当時のことは、すっかり忘れていたのですが、少し前に急に思い出したのです。
それは、許したいけど許せないという自分の心と向き合っている時にです。
10代後半で、自分の歩いている道の間違いに気づき、30代半ばで、かつて自分が親から受けた暴力、その負の連鎖を自分の代で断ち切る!という強い覚悟を決めていた彼女の魂の力強さを思い出したのです。
そして何より、負の連鎖を断ち切るには、まず自分の親を許すことが大事なのだと心理学の本を読まずとも、直感的にわかっていた彼女の魂の聡明さに今更ながら感動しました。
私自身が人生を重ね、たくさんの経験をしてきて、人を許すこと、負の連鎖を断ち切る、ということの大変さを想像できるようになって、はじめて、彼女の人生の苦しみと、あの時の覚悟の大きさを知りました。
彼女が息子さんのことを心から愛おしく思っていて、きっとそれをやり遂げているだろうと思えるのは、その幼稚園の男の子は、時々お見舞いに来ると、彼女にぴったりくっついて離れようとしないのです。ママが大好きな素直で可愛い男の子でした。
彼女が親から受けてきた暴力の連鎖を、自分の代で断ち切ったところで、誰に褒められるわけでもないし、表彰されるわけではありません。
しかし、目に見えない大きな仕事を、30代半ばでやり遂げると決めた覚悟は、人間として非常に尊いことだと思います。
人のご縁は本当に不思議ですね。私はもう名前も忘れてしまった彼女のことを思い出しただけで、力が沸いてきたのです。すべては必然だなあと思います。
今日も深い呼吸を意識して、笑顔を増やしていきましょう。
感謝することはいっぱいありますね。
読んでくださってありがとうございます。