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雨の思い出

人物 
林美雨(26)
三浦太陽(26)

○カフェ店内
六月。店内には林美雨(24)と三浦太陽(25)がいる。外は雨が降っており、微かに雨音が聞こえてくる。
美雨「はぁ、雨は嫌」
三浦「美雨は本当に雨嫌いだよな。名前に雨って入ってんのに」
美雨「雨って入ってるから余計に嫌いなのかも。梅雨真っ只中に生まれて、お父さん、びしょびしょになりながら産院に駆けつけたんだってー」
三浦「いい話じゃん」
美雨「どこが?だいたい雨の日にいい思い出ないし。入学式や卒業式とかここぞという日はたいてい雨で、フラれた日も雨が降ってたんだよね」
三浦「フラレて雨にもふられる、って面白いねー」
美雨「面白くないし」
三浦「けどまぁ、今は俺と付き合って長いわけだし結果オーライなんじゃないの?」
美雨「ポジティブだねぇ」
三浦「美雨ちゃんの好きな太陽だからね」
美雨「そうそう、私が一番最初にひかれたのは名前だったわ」
三浦「名前が一番ってひっでーなー」
美雨「ごめんごめん。でも、雨地獄から私を救い出してくれるような気がしたんだよね」
三浦「雨地獄って」
美雨「だって本当に雨にいい思い出ないんだもん」
三浦「まぁこれからは違うよ」
美雨「ん?」
三浦「そんな美雨さんに悲しいお知らせです。週末、雨だってさ」
美雨「え?そうなの?じゃ、デートはキャンセルか室内で」
三浦「菖蒲公園行くぞー」
美雨「今の私の話聞いてた?」
三浦「家までちゃんと迎えに行くから、菖蒲と紫陽花が見ごろなんだってさ」

○公園
SE、雨の音。車から降り、園内に向かう美雨と三浦。
美雨「雨、結構降ってるじゃん、別の日でもよかったのになのに」
三浦「雨の滴る菖蒲に紫陽花。映える写真がとれるぞぉ」
美雨「太陽、写真に興味なかったでしょ?」
三浦「今日は菖蒲に勝負かけてるんで。なんてね、相合傘しようか」
美雨「はぁ?相合傘って乙女か」
三浦「いやいや、俺は乙女だよ。知らなかった?」
雨の中、砂利道を歩く二人の足音。
美雨「あー、もう靴がしみてきてる」
三浦「お姫様抱っこしましょうか?」
美雨「は?どうした?今日の太陽は乙女濃いめだね」
三浦「言ったでしょ。今日は勝負かけてるんで」
美雨「変なの。(紫陽花に気付く)わぁ、紫陽花たくさん咲いてる!綺麗!」
三浦「あそこの屋根のあるベンチに座ろうか」
美雨「うん、足が完全に濡れちゃってるよ。うぅー」
雨の音が心地よく響いている。
三浦「雨の紫陽花、予想以上だな。俺、やっぱり雨嫌いじゃないわ」
美雨「たしかに綺麗だけど雨は…」
三浦「雨は嫌?いい思い出がないから?」
美雨「うん」
三浦「じゃ、いい思い出を作ればいい。雨が降るたびに思い出すようなそんな思い出」
美雨「え?」
三浦「はい、これ」
美雨「指輪?」
三浦「結婚してください」
美雨「太陽…」
三浦「プロポーズするなら絶対雨の日って決めてた。雨の日も晴れの日もずっと一緒にいよう」
美雨「…」
三浦「おーい、美雨ちゃん?なんか言ってくれないと」
美雨「うん…」
三浦「俺ばっかり話してて、恥ずかしいじゃん、ただでさえ恥ずかしいのに」
美雨「まさかプロポーズしてくれるなんて。驚いて言葉なんて出てこないよ。雨の日なのにすてきな日になった」
三浦「俺が初めて美雨にあった日も雨が降っててさ」
美雨「え?そうだったっけ?」
三浦「ああ。大学の食堂前で雨やどりしてたら横で友達に傘を貸してる美雨を見て、一目惚れしたんだよね」
美雨「は?最初は私から声かけたんじゃなかったっけ?」
三浦「次の日授業が一緒で、すごく驚いて後ろの席にわざと座った」
美雨「え?なんで早く言わないの?もう何年も前のことじゃん」
三浦「今なら言ってもいいかなと思って」
美雨「えー、私がどんどん惹かれていったと思ってたのに」
三浦「違いますねー」
美雨「なにそれ」
三浦「これからも雨の日の思い出、二人で増やしていこうな」
美雨「うん」

おしまい

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