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陰謀論者カンジさんの話
今日はワイが歯科衛生士として働いてきた中で出会ったダントツにおもしろい患者さん、カンジさんについて書き綴っていこうと思う。
今では医院以外でも立ち話をするようなとても仲の良い患者さんだが、陸の孤島栃木から上京してきて10年以上。心が荒みきっていたワイは、カンジさんに出会った当初、異様に人あたりの良い彼を“詐欺師かもしれない”とかなり警戒していた。
後に彼が美容師さんであることを知り、鋼の警戒心はほろほろと難なく崩れた訳だが、冷静に考えてみたらどこに自分が通っている歯医者のスタッフを貶める詐欺師なんてのがいるだろうか。疑心暗鬼にも程があるってもんだ。
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まぁ、それは置いておいてカンジさんとグッと距離が近づいたのはやはりあの出来事があってからだろう。
ある日いつものように4ヶ月にいっぺんのクリーニングに訪れたカンジさんが開口一番「今日はフッ素はなしでお願いします」と言ってきた。クリーニングではフッ素入りの歯磨き粉を使って磨く工程があるのだが、それを省いて欲しいということらしい。今までそんな要求をされたことがなかったのでこの心変わりを疑問に思ったが、長年会話のラリーし続けた実績を元に即座にその真意を測った。
「もしかして松果体ですか?」
驚いた表情をしながらも嬉しそうに
「ネコ美さんなら分かってくれると信じてました。」とカンジさんは言った。
そう、彼が気にしていたのはスピリチュアルや陰謀論界隈で度々話題となる『フッ素が松果体に悪影響を及ぼし、それにより直感が鈍る』という説だった。
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そもそも歯科業界で働いている者にとってフッ素というのは手放しに良いと教わっているため、それをしないで欲しいと担当歯科衛生士に伝えるのは並々ならぬ心の葛藤があったに違いない。
それでも伝えてくれた。それはこの人になら言っても大丈夫だ、否定されることはないとワイを信頼してくれた証であり、その事がとても嬉しかった。
カンジさんの要望通りその日はフッ素をせずフィニッシュ。
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4ヶ月後、再びカンジさんがクリーニングにやってきた。厳密に言うとこの4ヶ月の間に歯茎が腫れて1度来院しているので正味2ヶ月ぶりの対面であった。
いつも通り歯石をとり、フロスをし、そして一応だが「ポリッシングには前回同様フッ素配合の歯磨き粉じゃない方がいいですよね?」と聞くまでもないと思いつつ確認してみたところ、カンジさんが目をそらした。
。。。
数秒の沈黙が流れ、その静寂を切り裂くようにカンジさんが口を開いた。
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