正社員の歯科助手がトんだ話
今日はこのブログの続きというか結末を備忘録として残しておこうと思う。
結論から言うと件の歯科助手さんは退職した、いや厳密にはトんだ。
事の発端は先週水曜日。
毎週水曜日は午後3時からの勤務なのでその日もお昼までゆっくり寝てダラダラと用意を済ませ診療開始時間15分前に職場に着いた。
いつもの様に受付に設置されているタイムカードを押しユニットの電源を入れ、着替えのため休憩室に入った。
毎週行われている一連の流れを間違うことなく無意識に行う。
「おつかれさまー」
休憩室でお昼を食べている女子大生のバイトの子に挨拶をする。
大体いつもならその後、診療開始ギリギリまで旧ジャニーズの話などで一通り盛り上がり院長に急かされながら診療室の扉を開けるというのが通例なのだが、その日は様子が違っていた。
「Tさん(正社員の歯科助手)体調不良で早退しました。」
ちょうどその日は強い勢力の台風が日本列島に近づいている時でワイも前日から今日に掛けて我慢できないほどではないが多少の頭痛を感じていた。
最低人数である3人での診療は患者さんの混み具合にもよるが水分補給すら出来ない場合もままあるので、今日は忙しくなるなーなんて事を思いつつ、それでもどうにか気持ちを持ち直し、休憩室を後にした。
イレギュラーがあったものの無事診療を終えた我々3人は「なんとか乗り切りましたねー」なんて話しながらいつもより10分ほど残業をし各々家路に向かった。
木曜日は診療室自体が休みなので1日飛ばして金曜日出勤すると、今度は酷く暗い面持ちで院長と大学生のバイトの子が休憩室でひそひそと話していた。
休憩室に入るギリギリまでイヤホンで音楽を聴いているワイは不穏な空気を感じながら耳に突っ込んでいた異物を外した。
それと同時に院長が口を開く。
「Tさん今日も来てなくて、しかも連絡も取れない」
不穏な空気の原因はこれか。
まだ何もわかっていない状況で軽率な言動は慎んだ方が吉であろうという脳内会議の決定により直感的に思った事とは正反対の言葉が口をついて出てきた。
「マジっすか。体調が悪化して入院とかしてるんですかね?」
「だとしても連絡がないっておかしくないですか?」
間髪入れず放たれた女子大生の言葉は大変ごもっともであり、おそらく彼女が考えている結論はけして間違ってはいないだろう。
しかし、人が形成する社会という不可解な環境に揉まれ揉まれここまで生きてきた中年はそうやたらめったらネガティブな発言をしてはいけないことを経験則として理解している。
ましてや雇い主である院長がいるなら尚のことである。
「連絡も出来ないくらい体調が悪いとか?」
真実から目を逸らしすっとぼけるようにワイはそう言った。
結局その日の診療が終わる時までTさんからの連絡はなかった。
そして次の出勤の時、院長からTさんが体調不良により辞めることを聞かされたのだった。
こうなってから記憶の奥底にあったTさんとの会話を1つ思い出した。
あれは院長が先に帰ってゆっくり2人で締めの作業をしている時だったと思う。
「なんかバイトの方が時間とか自由だし良いですよねー」とおもむろに話しかけてきた。
もしかしたらあの時から辞めることを頭に思い描いていたのではないかと今になってそんな気がしている。
おしまい( ᐛ )