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【W KOREA】90年代生まれのK-POP MV監督 ①Sam Son

2022/06/06公開(4回に分けてお送りします)

「見る音楽」の時代が幕を開けてから、MVの地位は一度も後退したことがない。さらにK-POP産業が巨大化した今、K-POPの視覚的要素が網羅されたMVにこの時代のクリエイティブが集結している。今K-POPのMVシーンを最も深く染めている1990年代のMV監督4人に話を聞いた。

ソン・スンヒ(손승희)/ Sam Son

今、K-POPアイドルMV製作者の中で最も勘が良くて、打率の良い人物を挙げろと言われたらそれは断然ソン・スンヒだ。ここで言う「勘」とは映像美、打率とはYouTubeでの「再生回数」のことである。

代表作
(G)I-DLE / TOMBOY(2022)
テヨン / INVU(2022)
CHANGMO / 모래시계 (Hourglass)(2021)
KEY / BAD LOVE(2021)
BamBam / riBBon(2021)    など

W Korea:最近あなたが演出を手がけた(G)I-DLE「TOMBOY」のMVがYouTube再生回数1億回を記録しました。おめでとうございます。
ソン・スンヒ:わあ、ありがとうございます(笑)私も予想よりずっと良いスコアでびっくりしました。

今年(G)I-DLEに直接会ってインタビューをしました。当時は「TOMBOY」でカムバックする直前でしたが、メンバー5人全員が一生懸命アルバムを準備したことが伝わってきました。
本当にそうでした。私にはむしろそのようなエネルギーが良かったです。リーダーのソヨンとも事前にミーティングを2回も行いました。実は普通ミーティングは会社単位で行うものなのでミュージシャンと対面して行うことはほとんどありません。ソヨンはとても積極的で、ただ当日現場に来てコンテを見ながら適当に撮るという態度ではなく、「私たちも準備して臨む」という感じでした。なので制作者である私も情熱を持つようになりました。ソヨンがディレクションに多く参加するのは事実ですが、だからと言って彼女は他のクライアントと同じようには振る舞いません。コミュニケーションを取るのが本当に上手な人です。

今回の「TOMBOY」でも感じましたが、あなたが演出したMVはミュージシャンたちが皆「綺麗で格好良く」見えます。それは基本的に演出者がミュージシャンに対して「愛情」を持っているからこそ、そのように画面に映るのだと思います。
分かってくださったようで嬉しいです。それは本当に重要なポイントです。正直私が他の監督より優れた点があるのかはわかりませんが、そのポイントに関しては自信があります。MVを撮る時はそのミュージシャンが私の「最愛」アーティストだと思って作るタイプです。なので彼らの以前のMVやライブ映像まで全て観ながら自ら「ファン」になろうと努力します。それはファンが望む姿が何か知らなければならないからです。例えば今年テヨンの「INVU」の企画を作る際にもYouTubeの動画を観ながらファンのコメントを調べました。そこでは「クールなトーンがよく似合っています。髪をアッシュに染めてください」というコメントが多かったんです(笑)私はそのようなところからアイデアを得ています。今回の「INVU」はテヨンがアルテミスという女神の設定なのですが、この時「髪色をグレーにしてクールな感じを強調したらどうだろうか?」と想像して、そこからコンセプトを発展させました。

テヨンの「INVU」MVを観た後「これはヒップになったアルテミスだ」と言っている人がいました(笑)「アルテミス」という設定はどのように思い浮かんだのでしょうか。
普段は歌詞からヒントを得ます。「INVU」は誰かを愛しすぎたあまり、相手に嫉妬する女性が主人公の曲です。曲を聴いた瞬間とてもプライドの高い女性だという気がしました。つまり「あなたを愛するあまり私は惨めである」ではなく「私にこれだけ愛されるあなたが羨ましい」と歌っているからです。当初事務所が提案してきたコンセプトが「戦士」だったこともあり、ここでもう少し発展させて狩りの女神であるアルテミスを基本設定に持っていき、オリオンとの愛の物語をストーリーラインにすればぴったりだと思いました。アルテミスは純潔を象徴する女神で、ずっとニンフたちだけに囲まれて過ごしていましたが、そのような女神もたった一度だけオリオンに恋をしました。アルテミスはずっと恋愛感情を否定しつつも、結局オリオンが死んでから自分の気持ちを認めオリオンを星座にした説話が有名ですが、それが「INVU」のテーマとよく合致したんです。

お話を聞いていると、プリプロダクションにかなり力を入れている印象を受けます。
それは一番重要です。プリプロダクションを短く準備する監督も多いと聞きましたが、私は経験上最初が一番肝心だと思うスタイルです。衣装でも美術でも準備して考えた分だけディテールの密度が上がるからです。なので企画書にはすごく力を入れています。ヘア、メイク、スタイリングも美術的なアプローチが必要だと思っているので、PPM(企画書)にもスタイリング用のページを別途設けるほどです。

実際スタイリングの試案をそれほどしっかり準備するMV演出者は珍しいのではないでしょうか。普通は事務所の役目ですよね。
そうですね。でも例えセットに100日を費やしても結局皆が最も注目するのは人物なんですよ(笑)というのは冗談ですが、ヘア、メイク、スタイリングほど重要なものはないと思っています。私と一緒に働く助監督の場合は、自分の好きなアイドルが髪の色を変えただけで大声を上げて喜びますが、実は私はそのような視線が必要だと思っています。あるアイドルが今回MVでピンクの髪色をしているのですが、それが誰かにとっては涙が出るほどのことなのです。

K-POP産業、アイドル文化に対する理解度が高いようですね。最近あなたがお忙しい理由が分かりました(笑)
ははは(笑)最近若い制作者や女性の制作者が多く出ているのも、皆K-POP産業に対する理解度が高いからでしょうね。

特にあなたのような1990年代以降に生まれた女性のMV監督が増えているという事実がMV制作シーンの変化を断片的に物語っているようです。
大学時代には私がMV監督になれるなんて思ってもいませんでした。ほとんどの女子の同期たちは美術監督になったので。見本となるような方も今のようにいませんでした。なので当時ほとんど唯一の女性監督だったシン・ドングル監督の過去のインタビューをたくさん探しました。この数年の間、10年も経たないうちに大きく環境が変わったようです。今はとんでもない話ですが、当時は実際に女子学生たちの挨拶を受け入れない教授もいらっしゃいました。演出部門でアルバイトをしても女性というだけで当日クビになるケースも多かったです。

K-POPのMVだけの魅力は何だと思いますか。
派手なコレオグラフィーです。我が国の人々ほどコレオを上手に撮る民族はいないと思います(笑)今や韓国がコレオグラフィーシーンのリファレンスになる程です。

MV制作においてあなたのゴール、目標は何ですか。
とにかく「アーティスト」のMVです。無条件にアーティストが格好良く映らなければなりません。たまに「コンセプトに食われたスター」と言われることがありますよね。演出者の立場からしたら素敵だと思ったものでも、アーティストがそのコンセプトに食われてしまう場合が往々にしてあります。これが私が一番避けたいポイントですね。

(補足)2022年以降に発表された他の作品
KEY「Gasoline」
(G)I-DLE「Nxde」
NMIXX「DICE」
NCT DREAM「Best Friend Ever」
IVE「I AM」

サムネイル:(G)I-DLE「TOMBOY」、テヨン「INVU」公式MVより

参考:
Vimeo
インスタグラム







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