【W KOREA】90年代生まれのK-POP MV監督 ④イ・ヘイン
イ・ヘイン(이혜인)
イ・ヘインは今、最もスタイリッシュな画面を提示できるMV監督である。彼女は主に「ユース(Youth)」というテーマをビデオに落とし込むが、そこでVHS特有の荒い画質が彼女と出会い、より素敵な化学反応を起こす。
W Korea:どのようにしてMVの演出を始めるようになったのですか。
イ・ヘイン:私は実のところMV監督として独立してからまだ6ヶ月しか経っていないんです。もちろんそれまでもMVの制作はしてきたのですが、主な仕事としては写真家のチョ・ギソクのファッションブランド「KUSIKOHC」で撮影とデザインを引き受け、スタジオでファーストアシスタントとして勤めていました。
3、4年前にあなたがSNSに習作としてあげていた個人映像作業は大変興味深かったです。色々な映像のソースを合わせた数秒のモーションコラージュでしたよね。
そうです。元々は写真だけを撮っていて、映像の撮影道具はまともに扱ったことさえ無かったのですが、VHSの質感が好きだったのでビデオカメラだけは以前から使っていました。あの習作は面白半分で作業したものですね。撮影したものをもとにモーションコラージュを作成して、「もっとデジタルで撮影したいな」と思い、コンテ、ストーリー、コンセプトを組み立てながら本格的に映像の作業を続けました。たまたまそれを観てくれたsogummとdressが、とある歌を準備しているのだけれどよければ一緒に作業をしてみないか、と声をかけてくれて初めて制作したのが「Dreamer, Doer」でした。自らが夢想家(Dreamer)なのか実践家(Doer)
なのかを絶えず尋ねるという内容の曲で、自分自身とチェスをするという設定で撮影をしました。
監督によって、時には男性が、そして時には女性がより良く映ると言われることがありますが、あなたの場合は被写体が男性の時に実力が発揮されているような気がします。偶然にも最近の作品ではNCTマーク、LØREN、B.Iと男性続きでしたよね。
よくよく考えると、女性のアーティストだけと作業をしたのは一昨年のテヨン「What Do I Call You」だけだったかもしれないです(笑)sogumm,dressの「Dreamer, Doer」もミュージシャンは登場せず、男性のモデルと撮影しました。どうも男性との仕事の方が楽なのかもしれません。私の性格上、「ラブリー」なものよりも「ダーク」で「クール」なものの方が好きだからですかね。ファッションブランドや、ファッションスタジオで6〜7年働いたことも影響しているかもしれません。ひたすらに綺麗に撮ろうとするよりは、そこにスタイリッシュなポイントをいくつか散りばめようとしますね。そして何よりも私に「ラブリーに撮ってください」という依頼がないですね。私がそんなことができないということを皆さんご存知のようです(笑)むしろ「ラブリー」と正反対に行きたがっている方々が私を探しているようです。
一番あなたのアイデンティティがうまく溶け込んだMVはどれだと思いますか。
LØRENの「All My Friends Are Turning Blue」です。イントロの部分でフロントマンがホリゾントスタジオで座ってインタビューを受けたり、途中でバンドメンバーたちがアジトで遊ぶ場面を脚本通りに演出しながら、その中でできる限り自然な姿を描こうとしました。2日間の撮影で、メインカメラを回す他にビデオカメラも3台用意して、できるだけ演出されていない部分を捉えようとしました。そのおかげで特有のラフな感じが生かされた作品に仕上がりました。ミュージシャン自体も非常に意欲的だったので、「やりたいことを全部入れてみよう!」と楽しく撮影した記憶があります。アイドルのMVのように顔を綺麗に映さなければならないといったプレッシャーもなかったのでとても楽しく撮影をしました。一番魂を燃やしましたし、周りの反応も良かったですね。
そのMVで一番印象的だったのはイントロからアウトロまでタバコを吸う場面が登場することでした(笑)
ハハハ(笑)これほどまでにタバコを吸うシーンをたくさん入れて大丈夫でしたかね?(笑)アイドルの作品では絶対にあり得ないことですよね。楽しかったのでアウトロのシーンもマッチに火をつけ、タバコを燃やすシーンで終わらせました。
LØRENの「All My Friends Are Turning Blue」もそうでしたが、NCTマークの「Child」、B.Iの「UNCERTAINTY, THE BEAUTY OF YOUTH」共に「20代の若者」を扱うという共通点がありますね。同じテーマの3作品でどのようなディティールの違いを置いたのでしょうか。
LØRENの作品はバンドの友情を強調し、マークの「Child」は歌詞からヒントを多く得ました。「Child」はマークの初ソロ曲ですが、内容がとても自伝的です。自分の人生について遠回しに表現するのではなく、直接的なのでファンの反応が「マーク、とても大変だったんだな」だったほどです。歌を通してマーク自身が感じる責任感を語っていると思ったので、それを土台に20代の持つ若々しさを極力出さないようにしました。B.Iの場合は4曲を一つのMVに盛り込むトラックフィルムでしたが、「愛」を最大のテーマとしました。
主に何からMV制作のアイデアを得ますか。
歌詞です。歌詞を読んでサッと思い浮かんだ場面を信じて作業をします。「こういう歌詞にはこういう場面があれば良い」というのが一つずつ絡み合ってブロックを積み上げるようにストーリーを作っていきます。そしてそれに合ったリファレンスイメージを探すんです。そこからは映画からアイデアを汲み上げます。テヨンの「What Do I Call You」を例にとりますと、MVに映画『エターナル・サンシャイン』で主人公の記憶が歪曲されるときの画面が早送りされるような効果をオマージュしたカットをいくつか取り入れました。そしてパク・チャヌクの『オールド・ボーイ』の中の地下鉄のアリの場面やチェ・ミンシクがスーツケースから出てくる場面などの演出を覚えておいて、MVに似合いそうなシーンがあったらオマージュします。
あなたに最も大きな影響を与えたフィルムメーカーは誰ですか。
クエンティン・タランティーノです。実際彼が制作した『キル・ビル』や『ジャンゴ』、『パルプ・フィクション』と、私のMVに共通点はほとんどありません。ですがタランティーノ作品に出てくる映像技法や場面の切替手法を見ると、「この時代にどうやってこの技法を使ったのだろう?」と思う時が多いです。そして何より彼の作品は静止画だけで見ても綺麗ですよね。私はもちろんストーリーラインも重要視していますが、静止画でキャプチャーした時に格好良くなければならないと思っています。その点では彼に影響を受けていると思います。
あなたが最も好きなMVは何ですか。
マイケル・キワヌーカの「Black Man In A White World」です。ロングテイク技法で、かつ白黒ですが全く退屈することがありませんしむしろ集中力を上げています。これだけ集中力の高いMVを作るのが簡単でないことを知っているのでこの作品が大好きです。また、中後半に出てくる象徴的な反転要素が強力なメッセージを伝えているようで、さらに記憶に残ります。
サムネイル:マーク「Child」、LØREN「All My Friends Are Turning Blue」公式MV
参考:イ・ヘイン インスタグラム