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interview 真・善・美 vol.1 鍵田真由美(理事長) × 聞き手:瀬戸雅美
新春対談 2025
鍵田真由美(ANIF 理事長)× 聞き手:瀬戸雅美(ANIF 事務局長・理事)
事務局長が聞き手を務める対談の新シリーズ"真・善・美"(しん・ぜん・び)。初回は、鍵田理事長を迎えて、設立当初のお話から、昨年6月にスタートした新体制事業でのさまざまな尽力、そして、日本フラメンコ界の将来について、課題と展望を語らいます。(初出:一般社団法人日本フラメンコ協会ANIF 会報「Lazo」122号(2025年1月15日発行)
瀬戸雅美(以下、瀬戸):田代 淳 前事務局長のご逝去を機に長らく休載していた"事務局長対談”(当時のタイトルは「ひらめき」)を、4年ぶりにANIF会報「Lazo」紙上で復活させてみることにしました。
鍵田真由美(以下、鍵田):ということは、瀬戸事務局長が就任して、丸4年を迎える。
瀬戸:はい。この4年間、とにかく必死に走り抜けてきたので、あっという間に感じると同時に、実に多くのことを経験したので、まだ4年しか経っていないのかとも思います。
鍵田:本当にお疲れさま。よく頑張った!
瀬戸:ありがとうございます。先生も理事長に就任されて半年ですね。お互いにこのような立場で対談する未来が来るとは、30年前の学生時代には思いもしませんでした。
鍵田:私もこの状況はまったくの想定外。アントニオ父ちゃん(※)も、「え、MAMIがANIFの理事?嘘だろう?俺は信じないよ」と言われました。
瀬戸:実際、同じ感想を持たれた方も多いかもしれませんね。舞台に立つお姿からは、神秘的でストイックな印象が圧倒的ですし、フラメンコ界を代表する舞踊家であり、世界に誇る表現者ですから。
鍵田:自分ではそんな風に考えたことはないんだけれど…ただ、身体が朽ちるまで、精神が果てるまで、表現しきりたいという思いだけがあります。
瀬戸:素晴らしいです。そんな中で、理事会での、世代間ごとの話し合い、推薦を経て、理事長に就任されました。
鍵田:驚きました。これまでも理事として具体的なことはほとんどしていなくて、(前事務局長の)田代さんにも何度も「(理事には)もっとふさわしい方がいる」とお伝えしていたくらいです。でも田代さんは「いてくれるだけでいい」と。
瀬戸:前局長のお気持ち、よくわかります。
鍵田:ただ、思い返すと、理事になるずっと前から、設立当初の理事会に参加していました。子供のころからお世話になっていた舞台監督の赤木知雅さん(設立当初の専務理事)に連れられて。タバコの煙に包まれた会議室で、昭和の男たちの熱い議論を目の当たりにしていたのね。フラメンコを盛り上げていこうというその情熱はすごかった。
瀬戸:赤木さんといえば、学生時代に薫陶を受けた間瀬さん(※)が尊敬していた方として、その佇まいとお名前を記憶しています。設立当時の協会運営には、アーティスト以外の方の尽力も大きかったのでしょうか?
鍵田:そうです。その勢いで「もっとアーティストの活躍の場を作ろう」と奮起してくれていた時代でした。
瀬戸:なるほど… 2023年の3月に故 濱田先生と田代さんをはじめとする先人たちへのHomenage(オメナヘ=オマージュ)としての協会作品をつくって上演しようと決めたのも、アーティストは舞台に立ってこそ!という思いからだったので、そういう意味では、裏方の大先輩方の思いにもつながれたのかな。
鍵田:その協会作品がきっかけとなって、文化庁の助成を経た、協会初の全国ツアーが実現し、翌年には、文化庁の学校巡回公演にもつながった!
瀬戸:新進、中堅、重鎮という三世代のアーティストたちが一つになって群舞を踊り切る作品を、理事長と共にARTE Y SOLERA舞踊団を主宰する佐藤浩希さんに振付・演出していただきました。全員が主役級のメンバーをまとめあげての群舞… あれは、彼にしかできない偉業でした。
鍵田:佐藤は、私たちの舞踊団でも、振付、演出、構成、音楽のすべてを創る、総料理長のような存在です。
瀬戸:現在、その浩希さんも参加する「常任理事会」で、さまざまな改革が進んでいます。鍵田理事長のリーダーシップも心強いです。
鍵田:へっぽこ理事長です(笑)。
瀬戸:まったくそんなことはありません!芸術団体の長として参加した芸団協(※)の会議でも、理事長のスピーチは素晴らしかったです。あのようなことは、付け焼刃では決してできないことです。
鍵田:今年は、新体制の最初の仕事として、まず「新人公演」の改革に取り組んでいます。今年度から審査基準をより公正に、明確で、そして厳しくしました。
瀬戸:はい。フラメンコには、人それぞれにさまざまな関わり方がありますが、「プロ」を名乗るからには一定の基準をしっかりと超えていくことが不可欠であり、そのことがフラメンコの発展にもつながる。「新人公演」はまさにその入り口なので。
鍵田:そうです、「プロのレベルアップ」は、フラメンコ界の将来を決めうる大きな課題だ、というのが、新たな常任理事会の総意です。
瀬戸:文化芸術には、収益だけでは測ることのできない価値があり、その存続と発展のために、文化庁等のさまざまな助成制度も活用して、フラメンコの可能性を広げています。この助成を受けるにあたっては、質の高い、本物のプロの存在が大前提となってきます。
鍵田:事務局長の取り組みのおかげで、協会、そしてフラメンコ界はいま大きく動き始めています。
瀬戸:プロのレベルが上がり、その芸術活動の素晴らしさの度合いが高まるに比例して愛好家やファンの喜びも増大し、その数が増えていくことにもつながると信じています。私たちのこの考えが、絶対に正しいかどうか、世の中の全員に支持されるものかどうかはわかりません。でも、理事たちは誰もが、私利私欲ではなく、ただ、フラメンコのため、フラメンコに関わる人々のため、ひいては世の中のために…と、まさに命がけで取り組んでいます。
鍵田: 実際、過去4年で、協会運営のかたわら、協会作品の誕生、全国ツアー、学校巡回公演、若手の育成事業… どんどん、切り拓いてきた!
瀬戸:この先も、恒常的なANIF舞踊団の設立や付属アカデミアの開講など、「夢」だったことが少しずつ現実味を帯びています。
鍵田:2025年も、バモー!
※ アントニオ父ちゃん:アントニオ・デ・ラ・マレーナ(Antonio de la Malena)は、ヘレス・デ・ラ・フロンテーラのフラメンコ伝統に根ざした歌い手であり、鍵田真由美・佐藤浩希フラメンコ舞踊団 ARTE Y SOLERAの新作公演「La Memoria del pueblo ~民族の記憶~」(2024年11月)に出演のため、来日した。
※ 間瀬さん:間瀬弦彌(ませ げんや)は、フラメンコ界で活躍したマルチな舞台監督、日本フラメンコ協会事務局次長。1995年に全国学生フラメンコ連盟を設立し、以後M2019年夏の急逝まで四半世紀に渡ってスーパーバイザーを務めた。
※ 芸団協:日本芸能実演家団体協議会。俳優、歌手、演奏家、舞踊家、演芸家などの実演家や実演芸術分野のスタッフ・制作者等の団体を正会員とする公益社団法人です。実演家のいろいろな権利を確立し、社会的な地位の向上をはかるために、1965年に設立されました。日本フラメンコ協会は、2002年から正会員団体として加盟。
鍵田真由美 MAYUMI KAGITA
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6歳でモダンダンスを始める。日本女子体育短期大学・舞踊科在学時にフラメンコと出会い、1990年河上鈴子スペイン舞踊新人賞を受賞。佐藤桂子、山崎泰に師事した後スペインに渡り、帰国後の98年『レモン哀歌~智恵子の生涯~』で能との共演を成功させ、文化庁芸術祭新人賞を受賞。 2001年の初演から主演を務める阿木燿子プロデュース・作詞、宇崎竜童音楽監修・作曲の『Ay曽根崎心中』では文化庁芸術祭優秀賞を受賞し、04年にはフラメンコの殿堂「フェスティバル・デ・ヘレス」(スペイン)に招かれ大喝采を浴びた。同年『ARTE Y SOLERA 歓喜』で文化庁芸術祭大賞。06年Newsweek日本版の「世界が尊敬する日本人100」に選ばれた。 08年よりフラメンコの原点に立ち戻るべく、100名程度の小空間のための実験空間シリーズ『desnudo(デスヌード) 鍵田真由美・佐藤浩希フラメンコライブ』を定期的に開催、現在までに17回を数える。 様々なオリジナル作品で主演を務め19年には『ARTE Y SOLERA 琥珀』においてその類まれなる身体表現で観客を魅了、唯一無二の舞踊手として国内外で高く評価されている。鍵田真由美・佐藤浩希 フラメンコ舞踊団 ARTE Y SOKERA 主宰、一般社団法人日本フラメンコ協会 ANIF 理事長。