人は恋をする、何があっても #35
ワイナリーの屋上で手を繋いで黙って景色見てるなんてオヂサンには大変な心の変化が生まれた。もはや遊んでない。こいつは真剣勝負になった。思い込み、馬鹿といっても過言ではない舞い上がりぶりである。
お昼はなぜかロードサイドのファミレスで軽く食べて夜のごちそうに備えることになった。宿には3時過ぎに着いた。チェックインをして荷物を置くのもそこそこに、まずは別々に大浴場に行きひと風呂浴びてくる。あまりに人がいないから貸し切りの大浴場。しばし、ぼーっと湯船につかる。
大浴場を出て、浴衣に着替えてミニグラスビールを片手に芝生の綺麗な中庭、テラスの席で彼女を待つ。椅子は籐の編み椅子とガラスのテーブルだ。竹で編んだ目隠し塀がいい感じで外と中庭を区切っている。
春の終わりかにふさわしいさわやかな風が吹いている。やわらかな日差しを木陰で涼む。贅沢だなあ、と思っていると彼女が梅酒ソーダを持ってやってきた。
「チカちゃん、この宿気に入った?」
「すごくいいね。こうしているだけでもとてもリラックスしているよ。礼ちゃんいるからどべーってしてないけどね」
「ぷっ。どべーってチカちゃんでもあるんだ。面白い」
「どう見えているの?」
「いつもチカちゃんお酒飲んでいても何か緊張してるよ。なぜ?」
「うーん、意識していないんだけど昔、酔いつぶれた失敗が生きているんじゃないかな。酒場では理性がいるって」
「ハハハ。面白い考え方ね。そんな人初めてよ」
「小心者で腹黒だからさ。でも今日はそんな張り詰めないと思うんだけど、どうかな」
「そうね、ないよ。でも、どべーっ、じゃないね。もう少しここでくつろいでいかない?」
「うんそうしよう。日がもう少し傾いたらお部屋かな?」
「そうね。それがよいね」
浴衣姿でくつろいで貴重なリラックスした時間が過ぎていく。