人は恋をする、何があっても #36
夕方、日もだいぶ傾いてきた。涼風もたち、いったん、部屋に戻ることにした。部屋は和室でかけ流しの温泉がついている。竹林と竹編みの壁で外界と隣の部屋を仕切っている。うっそうとしているわけではなく、上空が開けているから明るい。もちろん、2階はない。
「いい部屋のセレクトだね、礼ちゃんナイス!」
「チカちゃんなら気に入ってくれると思っていたの。よかったー」
「会社さぼって、よいね。罪悪感を覚えないくらい突き抜けてよいよ」
彼女は笑った。とてもリラックスしたいい顔だった。
「チカちゃん、お風呂入ったばかりだからさ、足湯しない?」
「いいね。気持ちいいだろうね」
二人して並んで足湯している。なにか会話するのも無粋だと思ったから、肩を抱き寄せてみた。すーっと流れるように上体を預けてきた彼女。キスをした。
20代ならここから押し倒していても不思議はない。しかし、50過ぎたおぢさんにはまだ分別が残っている。背中をさすったり抱きしめたりしてスキンシップを楽しむ。自分より若い女性は発情させる何かがあるのだが、今はまだ核融合するほど臨界点に達していない。
「チカちゃんの手つき、エロイ」
「ああ、そうかもしれないね。むっつりスケベだよ。時間はあるしお楽しみはこれからでもいいよね。もっとリラックスして楽しまない?」
「フフフ、そうね。余裕があるのがいいわ」
「そのうち、ウルフマンかもよ?」
「まったー。へぼいジョークね」
「まだ、スイッチ入っていないよ。」
「そのうち、スイッチ押してあげるわ、フフフ」
「期待してるよ」
大人になるとこれくらいのジャブの応酬は楽しまないとね。