人は恋をする、何があっても #27
不思議なものだ。告白してしまえば焦りはなくなる。ケアしないとな、とか何か言ってこないかな、とかドキドキしない。彼女からメッセージが来れば嬉しいし、返事もする。こっちから好きにメッセージを彼女に送る。ただし、電話だけは用心してメッセージで電話してよいか、確認してから電話をかけるし、電話を受ける。SNSの通知は非通知にした。これは彼女も同様で、暴走してお互いの家庭を壊さない暗黙の了解だ。でも恋人でいることになっているのだ。
呼び方も変わった。苗字ではなく名前で呼び合うようになった。恋人以上夫婦未満という関係。お互いが配偶者に足りないものがあって、補完し合っているのだと思う。だから、この関係はいつ終わってもいい、と割り切っている。でも相手に不誠実はしない、ということだ。
誕生日の前日、新宿の夜景の見える会員制倶楽部でフレンチディナーを採った。彼女はこの場所は知っていたけれど、連れてこられたのは初めてとのこと。バブルで言わしていた世代としては真骨頂な場所。年齢相応になったと思っている。美味しいフレンチをもぐもぐしてシャンパンを開けてキレイな夜景を好きになった彼女と楽しむ。50歳過ぎてこんなことしてるとは思わなかった。良心の呵責は捨てた。妻にも彼女にも全力で尽くすのだ。
「チカちゃん、こことてもきれいだね」
「礼子さん、ここはいいでしょう?ここで好きに飲み食いできるには若いころはお金が足りなかったよ。何回か女の子連れてきて堕とそうとしたよ」
「うまくいったの?」
「背伸びしてるからかな、ダメだったよ。落ち着いて駆け引きなしなのは礼ちゃんが3番目の人かな」
「前の二人は?」
「別れたカミさんと今のカミさんさ。」
「まっ。妬けるわ」
「君も同格だよ。別れたカミさんはこの際捨てていいから、ここに同伴して出入りできる女性は二人だよ」
「奥さんは愛しているんでしょう」
「キミもカミさんもどちらも差がなく愛しているんだよ。どっちかじゃない。どちらも真剣に愛しているんだよ」
「冗談なの?」
「そう聞こえるかもしれないね。でも愛していない女に告白はしないよ。なんというのかな、愛し方の方向性が違うんだよ」
「そうか。男性心理はよくわからないわ。私、でも、今は旦那よりチカちゃん好きだよ」
「ありがとう、礼ちゃん。この時間をとても愛おしい時間だと思っているんだ。誰とでも共有できるわけじゃないということだよ」
「シャンペン、美味しいね。呑みすぎ注意だww」
「送ってあげるから安心おし。見捨てないから」
「ありがとう。頼りにしているわ」
楽しいディナータイムを終えて帰宅した。話足りなかったことはお互いが電車を降りるまでSNSでメッセージを送り合った。