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人は恋をする、何があっても #13
泥酔してしまった人間はタチが悪い。何を言われたかをきちんと理解できないから、回答があやふやであるからだ。しかし、自己を制御できないので情報を聞き出すことは比較的容易である。
高島平ランプ付近でタクシーには下道に降りてもらった。あの女性(ひと)を起こして道案内をさせる。少し寝たのと買っておいて目を覚まさせてから車内で飲ませたボトルウォーターが功を奏したようだ。比較的はっきり運転手さんにナビの指示を出している。自宅付近までたどり着いたようである。
「あのマンションがウチなの」
あの女性はつぶやくように言った。
「運転手さん、あの先のコンビニの前で降ろしてください」
「矢野さん、送ってくれてありがとー。本当にありがとー。さすがにマンションの目の前には着けられないからコンビニで降りて歩いて戻るのよ。判って。」
「高木さん、ちゃんと帰宅してくださいね。大丈夫?」
「わかってるわ。大丈夫、安心して。おやすみなさい。」
「お疲れ様でした。おやすみなさい。」
あの女性は降りて行った。帰宅するだろう、大人だし。騎士道精神の発露はここまででよいだろう。マンションの前に着けられないってことは、少しは理性が戻ったか。いい歳こいて見知らぬ男性に送られてはご近所の目もあるよなあ。
「運転手さん、ここから北野までいいかな。」
「ありがとうございます。最近はあまり皆さんタクシー使わないからありがたいですよ。」
プロは余計なことは聞かない。しかし北野の自宅前で降りた時のメーターは3万円を超えていた。飲み代含めると結構いい風俗店で遊んだと言ってもいいくらいの散財だな。
今回は思わぬ内側を見てしまったわい、と思いながら困った人を捨てておけない人のよい自分に一人苦笑する。あの女性でもあんなに自分を出してしまうこともあるのかな。自分は愚痴を人に言わないからよく理解できない。まあ。あの女性が気が済んだらいいだろう。ここまでお付き合いしなくてもいいのに、と思った。