人は恋をする、何があっても #29
松風でデートする日が来た。告ったんだからもはや一線は超えた。だからデートだ。少し遅れてやってきた彼女はおもむろに言った。ご飯も食べてお酒が回って人心地ついてからだ。
「暖かくなってきたね」
「そうだね、梅は散ったし桜はこれからだよね。もう少しでいい季節が来る」
「ところでさ、チカちゃってさ、温泉好き?」
「ああ、好きだよ。温泉でのんびりしたいねえ。」
「チカちゃんさ、一緒に泊りがけで温泉行かない?クルマ出すからさ」
おおっと、いきなりローブロー攻撃、キターッ。
「いつ頃考えてるの」
「うーん、連休明けて梅雨が来る前。熱海か箱根方面はどうかな」
「キミ、和光で私北野じゃん。石和温泉とかどう」
「チカちゃん、冴えてる。私ね、そこはアウトオブ眼中だったのよ」
「きれいだし、ワイナリーめぐってから宿に行くのもいいと思うけど、どう?」
「いいわねえ。その方面で探していい?予算は一人3万くらいかな」
おぢさんにはキツイな、その金額。まあ、やらせてみよう。
「いいよ、任せていいかな。予算はみじめにならない程度で安い方がいいな。料理はおいしいもの食べたいから、泊賃と食事のバランスかな」
「やった!嬉しい。あと2か月くらいがんばれるぅー。宿はね、家族風呂がついてるお部屋にしようかなー、とか思うのよ。」
「ハハハ。楽しみにしてるよ、礼ちゃん。」
さあ、倫理というやつはかなり邪魔になってきたな。ここで降りるのも一つの方法だ。しかし、泥船でも乗りかかった船にはのっちまえ、とか思うのである。
温泉旅行に行くことになった。恋もずいぶんと激しいな。