おじさんのコントローラー #心灯杯
はじめに
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このお話はさや香 / 落語ジャーナルの企画する第3回心灯杯に寄せた作品です。
前提として、
『過去』『見返り』『増えるツンデレ』という3つのお題を使って、
ひとつの作品を作り上げてください。
というものがありますので、前提を知らない方に先にお伝えします。
初めて、創作で少し長い文章を書きました。
勢いで書きましたので、読みづらいとは思いますがご容赦ください。
では、始まります。
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ツラい毎日だ。
彼女が素っ気なくて目も合わせてくれない。
僕の事が好きなのかさえ分からなくなってしまった。
何を言ってもひどい態度であしらわれてしまうので、そもそも相手の気持ちも確認出来ないのだ。
僕が悪いのだが。
何でこんな事になってしまったのだろう。
ーーーーーーーーーー
今から2週間くらい前だったと思う。
いつものように仕事に向かう途中、おじさんが道に倒れていた。
心配になって「大丈夫ですか?」と声をかけたら、「大丈夫。」と返事が返って来た。
異常に酒臭い、、、、。
「水をください。」と言われたので、たまたま持っていた水のペットボトルをあげた。
昔からお人好しなのだ。
まあ、水くらいでケチケチしたくないっていうのもあるし。
そうしたら、その酔っぱらいのおじさん、嬉しかったのか、「俺の宝物あげるよ。」なんて言って、変なゲームのコントローラーみたいなものを渡してきた。
そのコントローラーみたいなもの、よく見ると、ボタンが2つ付いていて、左側のボタンに『ツン』、右側のボタンに『デレ』と書いてあった。
何かの余興の小道具か何か押しつけられたのだろうな。
と思ったのだけれど、何か面倒だし、喜んだフリしたら、使い方を教えてくれた。
どうやら、上に付いているアンテナを人に向けてボタンを押すと、その人の『ツン』と『デレ』の割合をいじれるという設定の機械らしいのだ。
「ハハッ凄いっすね。」とか言って、カバンにそれを入れて、おじさんに別れを告げ、仕事に向かった。
@
僕には同棲している彼女がいるんだけど、最近、あんまりこう、上手く行ってないと言うか、フライドチキン?ケンタッキー?あ、倦怠期ってやつ。
こういうのもいけない。
最近は鼻で笑われる。
1週間前かな?仕事の後に、同僚に誘われて飲んで、夜中に帰宅した。
もう彼女は寝ていたから、寂しさと酔いもあって冗談半分で、なぜか捨て忘れていた、おじさんからもらったコントローラーをカバンから出した。
アンテナを彼女に向けて、『デレ』ボタンをなんとなくのメロディーに乗せて、「デレデレデレッデレデレデレー」とか小声で歌いながら連打した。
何か楽しくなっちゃって、数分連打してたら、急に酔いも醒めて、何やってんだって事で、着替えてシャワー浴びて、その日は眠りについた。
@
次の日、囁き声みたいなもので目が覚めた。
抱きしめられている感覚があり、彼女が耳元で甘い言葉を囁いているようだった。
急にどうした?
そんなの久々過ぎて驚いてしまった。
付き合いたての頃はそんな感じだった気がするが、遠い昔の出来事のように思える。
頭が冴えてくると徐々に、あのコントローラーのせいではないのかと思えてきた。
起き抜けの頭で真剣に考えてみたが、急にこれはおかしい。
絶対にコントローラーの効果だという結論に至った。
昨夜、『デレ』を押し過ぎたせいだ。
そう思ったら、凄く嫌な感じがして、「戻さないと。」っていう使命感に駆られ、飛び起き、コントローラーを取り出して、今度は『ツン』ボタンを連打した。
失敗だったのは、その連打が激し過ぎた事で『ツン』ボタンが凹んで戻らなくなった事だ。
彼女がどんどん不機嫌になっていくのが見ていてわかる。
いつもみたいに軽い感じで話しかけたが完全に無視だ。
『ツン』の方に行き過ぎたようだ。
どうすればいいのだろう?
ボタンが凹んでいるので、もしかしたら、もっと『ツン』が進行してしまうのではないか。
大変だ。
あのおじさんに直してもらうしかない。
直せるかわからないが、何らかの対処法はわかるかもしれない。
ーーーーーーーーーー
そうして、この1週間、おじさんがいた道をひたすら張り込んだ。
そうして今、ようやくおじさんを見つけた。
話しかけてみる。
「すみません。」
「はい。」
「2週間前くらいにこのコントローラーいただいたのですが、覚えてますか?」
「ああ、すみません。その日の記憶はあまり無いのですが、そのコントローラーは会社の飲み会でコントやった時の小道具です。ゴミを押しつけてしまってすみませんでした。」
「あ、そうだったんですね。いえいえ、こちらで処分しておきますので、気にしないでください。では。」
?
え?
これ、おじさんの作ったゴミ?
って事は、ただただ意を決した彼女の甘えを拒んだ挙げ句、変なコントローラーのボタンを押しだした僕への、怒りと呆れで口をきいてくれなかったって事か?
そうかそうか、なんだ。
良かった。良かった。
いや、全然良くない。
逆に事態が深刻化して、面倒な事になっている。
これは修復が大変だ。
何より、少しでも相殺しようと、有給休暇まで取って『デレ』ボタンを押し続けていた、この1週間は何だったのだろうか。
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