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樋口円香が分からなかった

樋口円香が分からなかった。

2020年の4月にシャニマスに実装されて約1年半、
WINGを、感謝祭を、GRADを経ても樋口円香がずっと分からなかった。

だが、1年半の年月を経て「ピトス・エルピス」がきっかけを、そして『Landing Point』が核心を与えた。

Landing Point(以下LP)を経て、彼女がいつもシャニPに向ける棘のある言葉は、シワひとつ無い綺麗で嫌いなスーツ姿を少しでも汚すための矛であったと同時に、己を他者から突きつけられる刃から守る為の鎧だったようにも見える。

この鎧は決して硬い守りを誇っていたわけではない。むしろ、鎧としての強度は低かったのかもしれない。

シャニPの優しさと彼女に対する信頼によって鎧としての体を保てていただけの一時しのぎだった紙の鎧が今回、LPでプライドと共にビリビリに引き裂かれ、容赦なく隠してきた本心を刺された。

肉体を貫かれ、血を吐くように、
心を刺された樋口円香は恐怖を吐いた。

夜に

LPにおいて、そして全ての樋口円香のシナリオにおいて最重要箇所である「yoru ni」

ここでようやく、『樋口円香』を分かることができた。

元々は浅倉透がきっかけで始まったアイドル。ノクチルになってからも仕事で彼女は言われたこと、求められているものについて応えてきた。

応えること。それは幼少期からずっと彼女がやってきたことで、それ自体は今更特別なことではない。しかし、アイドルになったことでそれに意味を持たされてしまった。

彼女が応えることで、ファンは彼女に価値や評価を与える。加えて彼女のアイドルとしての「生き様」を見る。だが、あくまでもアイドルという「娯楽」として。

樋口円香は縛られていた。

彼女を娯楽の見せ物とするファンに、他人の価値観の中で生きることに、そして、本心を、内に秘める激情を、誰かに見せることに恐怖する自分に。

彼女はそれでも良いと思っていた。
いや、思い込もうとしていた。

大きな大役を背負うことなく、平凡に、平和に生きてきた彼女がある日突然、アイドルという「川」に突き落とされながらも、流れに身を任せることで彼女なりにそこでの身の振り方、生き方を選んでいたのに、シャニPによって彼女は流れに逆らうように手を掴まされそうになっていた。

手を掴めば、彼女の持つ激情を表現できるかもしれない。けどそれは彼女にとって救いでもあり、恐怖でもある。そんな残酷な選択を全ての元凶の男に迫られている。それも、自分の全てを引き出されて、言い訳も出来ないようにされて。

鎧が弱々しく「あなたを掴むくらいなら溺れて死ぬ」と吐くのが心をぐちゃぐちゃに引き裂かれ、暴かれた彼女の最後の抵抗だった。

そして彼女は川から引き上げられる。
自由を得るために。


激情

樋口円香は幼い頃からそれを出したことがなかったのだろう。

言われたことをしっかりやり、求められている結果を出し、面倒事は避ける。大きなトラブルもなく、周りからは褒められる。

これで自尊心は守られるし、承認欲求もある程度満たされる。
だから彼女はそれ以上のことは求めなかった。

しかしアイドルになり、様々なことを目の当たりにすることで今まで眠っていたものが起こされるように、激情が出てきたのかもしれない。

その要因の一つが「浅倉透」の存在。

常に応えてきた樋口円香にとって、浅倉透というアイドルとして天性の素質を持った幼馴染は、何もせずとも何かに応えることができた。そして、誰の目から見てもアイドルとしての浅倉透はどんどん先を行く存在であった。


アイドルとしての浅倉透は樋口円香だけが知っている幼馴染の浅倉透を消していくようで、
アイドルとしての浅倉透は樋口円香に劣等感ないしは対抗心が与えた。

「透にできることで私にできないことはない」

思えばこれが激情の始まりだったかもしれない。
常に一緒にいて、何でも知っていると思っていた幼馴染が変わり、進み、光る様を隣ではなく、後ろから見ているような、それを認めたくない気持ち、激情の芽生え。

だけど彼女は激情の出し方を知らなかった。
同時に激情を出すことで自分に及ぶ影響に恐怖もしていた。

それでも激情は徐々に彼女を蝕む。
だから彼女は「歌」に向けるようになった。
誰の為でもなく、自分のために歌う。その言葉通りに。

激情を知り、それを吐き出すことを、自由を許された樋口円香はこれから本当の意味でアイドルになる。

透明だった彼女にこれから新たな「色」がつく


後書き

樋口円香のLPを読んで自分の中の何かが強く刺激された感じがして思わず書いてしました。
主観100%、解釈違いもあるかもですが大目に見てください。

まさに樋口円香集大成となったLPを経て、次はどんなシナリオが描かれるのか非常に楽しみです。

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