コーポレート・チャーター・フラクショナル
ビジネス機の運航において、3つの運航方法が主流なのは皆さんご存知でしょうか。今回は、この3つの運航についてお話をしたいと思います。
コーポレート:
航空機と言いますのは、まずは航空機の持ち主になるオーナーが居なければ、何も始まりません。出資をするのは、個人、もしくは法人ですが、オペレーショナルコントロールと呼ばれる、法的な運航管理・責任を、基本的には持ち主の会社が全て司る事になります。この為、航空機をマネージできる、専門家の集まる部署が設置されます。裕福層の個人出資の場合、大手会社の部署でなかったとしても、事件事故の事を考えると、法的控訴において、持ち主個人への責任を避けるため、Limited Liability Companyという会社を設置するのが、通常のやり方でしょう。自分で管理して飛ばす飛行機と、プロを雇って飛ばす飛行機では、運航目的と、管理の体制が異なってきます。
趣味で飛行機を購入し、フライトを楽しむ為に、飛行機の持ち主となり、自分で運航、操縦をする場合とは異なり、ビジネスジェット機のような、高額な物を買う事ができる人物と言いますのは、希なケースを除き、自分で操縦をし、スキルを保つような時間と手間は避けたいと考えるのが普通だと考えます。ビジネスジェッット機のオーナー様は、殆どのケースで、自分で運航、操縦するというのはあまり無いと考えます。オーナー、兼乗客として利用したが為に、ミスマネージ、事件事故の際は、責任が降りかかってくるというような状況は、出資者の立場から考えれば不利な物ではないでしょうか。コーポレートフライト部門は、乗客として利用する航空機の出資者を、運航のプロとして代表するポジションなのです。
このようなポジションの特徴としては、出資者の理念によって、自分の仕事が左右される点をよく理解する必要があります。シアトルにある、ある会社では、パイロットのポケットの中に入った、キーホルダーの鈴の音を、オーナーが不愉快に感じ、パイロットが解雇されたという話を聞いた事がありました。また、コロラド州アスペン空港では、搭乗客のオーナーが、パイロットに指示をした為に搭乗者全員が亡くなった、ガルフストリームの墜落事故もありました。オーナーが何を言おうとも、飛行機を遅らせてでも、運航に際して最善の事が実行できるコーポレートフライト部署の設立の大事さを感じます。このような、法的に制約が割と少ない、オーナー責任においての運航を、コーポレートと呼んでいます。コーポレート運航をする際、基本的に、完全な部外者を乗せ、利益を得る事は、法的に禁じられています。
コーポレートで働く良い点としましては、出資者、会社のサイズ、会社の属する業界、ポジションにもよりますが、一般的に高額な給料、また、航空運送会社では、通常あり得ない福利厚生が付いてくる事があります。エアライン、チャーター、フラクショナルとは違い、この様な運航をする出資者・会社は、航空機の運航・運送によって、利益を生み出すのが目的ではないという事です。ニューヨークにある、ヘッジファンドと呼ばれる金融商品をマネージする会社のコーポレートパイロットは、同じ会社のファンドマネージャーと同じく、年に一度、日本円で数千万円の現金ボーナスが出る事も良く耳にする物です。運送によって利益を得る事は考えませんので、このような会社が購入する飛行機は、新品の飛行機が多い為、パイロットも新品の機材のタイプレーティングを取得できる上4、5年に一度は飛行機も買い換えるでしょう。又、反対に、業界の経済が悪くなれば、1番最初に売られるのが、維持にも運航にも高額な、会社の航空機です。航空機が売られれば、もちろん仕事も…
チャーター:
チャーターのお話です。前回話しました、コーポレートと呼ばれる運航では、運航する航空機に搭乗できる人物は、航空機のオーナー様、またオーナー個人・法人の関係者のみが利用できるという事でした。チャーターと呼ばれる運航になりますと、航空機のオーナーシップとは関係無く、航空機の時間を買うことができます。あくまでも、航空機運航・管理のコストを時間で割った時間を買う事になりますので、チャーターサービスの利用者は、整備やクルーなど、航空機管理に関わる事も無く、また、航空機本体のファイナンスに関連する事無く、航空機が利用できるという考え方になります。もちろん、運航責任も乗客として登場する利用者には、全くありません。一般的に、年間飛行時間が、200時間以下の方が利用するサービスです。チャーターサービスは、一般の方も、お金を払えば購入できるサービスですので、法的には、スケジュールの無いエアラインサービスとして定義されています。また、何も業界に関連しない方も利用できますので、利用者の安全確保の為、運航方法も法律で厳しく制限されています。
別の言い方ですが、個人・法人が航空機の購入と維持ができる程の資産が無い場合に、チャーター会社から、航空機をチャーターする訳ですので、航空機チャーターの会社は、航空機の運航で利益を確保する必要があります。チャーターできるビジネスジェットというのは、世界に存在するビジネスジェットの中でも、限られた一部のフリートであり、チャーター運航のできる会社が直接保有する航空機であるか、もしくは第三者の個人・法人オーナー様から、保有の航空機を他人がチャーターできるように、という依頼(管理費用削減や、税金対策の一部)があり、航空機をチャーター管理するのがチャーターの会社の役割です。このように、コスト削減や運航での利益の確保を頭に置いた場合、チャーター会社が直接保有する機種に関しては、新品の機材をチャーター運航するメリットがありません。また、第三者が航空機のオーナーであり、チャーター運航をする場合でも、新品の機材に他人を乗せ、機材を古くする必要もありません。この為、チャーター会社のパイロットとして働く場合、新品の機材に乗れる会社は珍しいでしょう。チャーターパイロットとは、運送で利益を得る事が役割ですので、コーポレートのようなボーナスが運送会社から出る事も殆どのケースでありません。
チャーターと言いましても、人を乗せるチャーター運航だけが存在する訳ではありません。物資、カーゴを乗せる場合も、物資やカーゴのオーナーである個人・法人が所有する航空機の運航でない限り、他人・他社が運航する航空機を利用する、チャーターという事になります。ちなみに、米国のカーゴ・物資空輸で有名な会社、FedExやUPSは、スケジュールのある運航ですので、チャーターではなく、スケジュール運航のエアラインと同じ取り扱いです。意外と知られていないかもしれませんが、米国の空輸会社というカテゴリー内でパイロットの給料が一番高いのは、人を乗せる航空会社ではなく、FedExとUPSです…また逆に、物資・カーゴ空輸会社は他にも沢山あり、空輸・運送パイロットのエントリーポジションとして知られているのは、FedExやUPSの契約を委託された子会社でしょう。このような会社で働く場合、給料面は業界内で最低値ですが、経験を積み、次の仕事に繋げるポジションでもあります。
アジアにもほんの数社ありますが、航空救急輸送も、チャーターです。救急輸送の場合は搭乗する患者様がいるという事ですので、特殊な機器を装備した航空機の上、医者や看護婦・看護師も搭乗します。海外で怪我をし、自分では通常のエアラインに搭乗して帰国する事ができない場合、健康保険の関係で、海外で怪我をした際、即刻帰国し、国内の病院で治療を受ける必要がある場合、移植手術を受ける場合(臓器移植は、ドーナーから臓器摘出後、数時間内に移植する必要があるため)などに利用する救急輸送チャーターサービスです。
チャーター、ご理解深めて頂けましたでしょうか。
フラクショナル:
前回までの記載内容で、航空機の100%オーナーシップvs.他人の所有する航空機の運航時間を購入する、チャーターオペレーションの区別、また業務目的と内容の区別をはっきりさせました。パイロットとして雇用される場合も、2つの組織の目的が全く異なっているという事に気付いてもらえたかと思います。
さて、フラクショナルと呼ばれる運航方法は、2000年代に入ってから作られた、比較的最近の法律であり、考え方も新しい、航空機の運航ビジネスモデルです。世界的に見ますと、フラクショナルの考え方が浸透していない国が殆どではないでしょうか。フラクショナルとは、航空機の最低16分の1を個人・法人が購入する為、運航の際は、航空機の持ち主としてのオペレーションが可能になります。フラクショナルという考え方、また法律ができる以前は、コーポレート、もしくはチャーターのどちらかに区別されていましたが、NetJetsやFlexjetのように、フラクショナルと呼ばれる運航会社は、航空機の価格を4分の1に割り、その4分の1に会社の利益分を足して別の個人・法人に売るというビジネスです。利用客側からの魅力的な点としては、航空機の4分の1を購入後は、財産ですので、チャーターのように、時間を買い、消費するのではなく、4分の1を財産として、再び他人に売る事ができると言う事です。また、航空機の4分の1を購入後は、同じ会社が保有する、他のサイズの航空機も、追加料金を払えば利用可能となり、購入後はフラクショナルのメンバーとしての取扱いとなりますので、一機の航空機に限らず、飛行距離、人数に応じて他の航空機も利用できる所が魅力です。しかし、航空機は、車のように、時間が経つにつれ、新しいモデルが新商品として売り出されます。生産が追い付かない為、希少価値がある新古の航空機を除き、新商品が出るに連れて、中古の飛行機は価値が下がりますので、もちろん、購入した4分の1の価値も下がってきます。4分の1の売却の際は、減価償却の部分も少なくはないでしょう。
一般的に言いますと、フラクショナルは、年間200時間以上、400時間以下の利用の方が顧客です。別の言い方をしますと、年間を通してチャーターするよりも、航空機を買う方がお得だが、航空機の購入と維持の資産までは無いという方。また、航空機を別の場所に置いたまま、移動を頻繁にする為、自分で購入した1機の飛行機を、自分の居る空港まで毎回動かす為の予算は難しいという方は、フラクショナルのメンバーになりますと、フラクショナルの会社が世界中に所有する、数十機、数百機の航空機が、自分の現在位置する場所から片道で利用できる事になります。
フラクショナルのビジネスモデルが業界に定着してから10年経ちますが、ここ数年で問題になっている現実があります。フラクショナルの会社は、4分の1を売り続けなければ利益が上がりませんし、オペレーションコストも払う事ができません。しかし、航空機というのは、生産の速度にも限りがあります。数年前、私がチャーター会社で働いていた際、殆どの運航は、実際に存在しない航空機の4分の1を売った為に、飛行機が足らず、追い付かなくなったフラクショナルの会社のオーバーフローのカバー運航でした。現在も、このような状態が一部で続いているのも事実です。
さて、パイロットとしてフラクショナル運航会社で働くというのは、どういう意味かと言いますと、まずは、エアラインと同じようにパイロットは組合制度ですので、給料はその会社で何年働いたかによって決まります。また、航空機の運航で利益を上げる事を目的とした会社ですので、もちろんコーポレートのようなボーナスは無いでしょう。飛行が無い日でも、空港の専用機ターミナルで14時間はスタンバイという会社もあります。このようなルールは、組合と会社の契約ですので、自分だけホテルで待機する事もできません。14時間内の食事は、組合の契約上、会社持ちですので、専用機ターミナルのラウンジに食事の配達があります。雇われた際に決まる乗務機材も、会社で長く働いているパイロットが最初に選びますので、入社直後は残り物の機材に会社側から割り当てがあり、数年間はその機材に乗り続ける事になります。フラクショナルの良点としましては、会社の本拠地に住む事無く、自宅から任務初日は通勤が可能という事です。航空機も一定の本拠地ベースに戻る事無く、様々な空港でクルースワップですので、指定された航空機の位置まで通勤です。このようなオペレーションモデルを、フローティングモデルと呼びます。また、通勤の際、エアラインクルーのように、スタンバイ座席を待つこと無く、客として確保された座席に乗る事ができます。これに比べて、コーポレート、チャーター会社の殆どが、会社の本拠地がある場所に飛行機をベースとし、そこに住む事が前提となります。
三弾に分けて説明しましたビジネスジェットの運航方法、ご理解深めて頂けましたでしょうか。