はじまりの夏
某年7月、故郷であるS県に戻ってきた。
5年ほどO県の急性期病院で勤務していたが、第2子が生まれることもあって帰郷した。厳密にいえば地方のS県の中でもさらに山間部出身だから帰郷とは言えないが。
なにはともあれ、S県に帰郷してから2ヶ月ほどは遊んで暮らし、7月から新しい職場に就職した。
新しい職場は療養型病院で、由緒正しい歴史を持つ病院だった。
以前より、自分と院長婦人には共通の友人がおり、その友人に紹介される形で就職することになった。
新しい職場は少し前から若院長に引き継がれており、院長婦人が看護部長として新たな時代を築こうとしているところであった。
自分には「若さで今の病院に新しい風を!」という期待をかけられていた。話を聞く限りでは、看護ケアとしては褒められたレベルではないようだった。
療養型病院がどのような環境なのか、急性期病院でしか経験のない自分には想像しえないところであった。しかし、療養型病院があまり積極的な環境でなく、急性期から退院するときも最低限のケアへと集約されていくのだという認識であった。
これは療養型病院に限らないが、急性期病院では認定看護師やリハビリなど専門的なケアを手厚く提供できる環境だが、それを退院後も再現できる環境がないことに葛藤を感じていた。マンパワーやコストといった課題を考えれば仕方のないことだが、これではいくら急性期で室の高いケアを志向しても、継続性がなく無力を感じていた。
そんな葛藤もあり、療養型病院へと転身することには期待ややる気に溢れていた。このときはまだ20代後半であり、周囲には「もったいない」といわれることも多かった。どうもやる気や若さに溢れた人材は、療養型病院ではもったいないという認識が世の中には溢れているようだ。ちなみに院長婦人には何度も「本当にうちでいいの!?」と尋ねられた。
そして働き始めてからは衝撃的な毎日に困惑する日々であった。。。
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