【Voice!】第5回 FW27押谷祐樹選手(後編)
3度のJ1昇格プレーオフを体験し、延べ3チームで昇格に貢献。
痺れるほどの戦いに身を投じてきたからこそ、見えた景色がある。
JFL昇格のミッションを果たすべく奮闘する福井Uと若手への思い、
コーチを務めるサッカースクールやプライベート、家族について
の想いをお届け。
ー 岡山時代は昇格にあと一歩及ばずでしたが、これまで2017シーズンに名古屋、2020シーズンに徳島、2022シーズンに藤枝と、合計3回のリーグ昇格をしています
ただ、それぞれのクラブで昇格したシーズンは、ほとんど試合に出てないんですよね。名古屋のときが1番出てるかな。
徳島のときは、2019シーズンはほとんど試合に出ていたのに、昇格した2020シーズンは新型コロナウィルスに罹って全然試合に出れなくて。夏頃だったから、コロナで休んでいる間にもうメンバーが固まっちゃって。しかも、その当時はコロナ感染者への対策が厳しくて、3週間とか入院していたから、復帰しても、体力戻すためにすごく時間がかかりました。なので、シーズン終盤まで試合にも絡めなくて、難しいシーズンでした。
ー 昇格した3チームに共通点はありますか?
共通点は、マジで後半ATでのゴールが多いです。ギリギリの勝ちが多いですね。もう引き分けかな、と思ったときに勝つんですよ。リーグ戦だからありえることだと思うんですけど、強いチームは接戦をモノにするんですよね。ギリギリで勝つとか、終盤に追いついて負けないとか。そのイメージはめちゃくちゃあります。なんか勝つんですよね。徳島のときは安定感があったんで、そこまで奇跡的な試合はなかったですけど。2019シーズンのプレーオフに行ったときとかは痺れましたね。
ー J1昇格プレーオフは何回経験されていますか?
2016シーズンの岡山、2017シーズンの名古屋は2年連続。あとは2019シーズンの徳島の3回です。プレーオフは独特でギリギリの戦いというか、痺れる感じがあります。
ー 引き分けの場合は年間順位が上のチームが上がる、90分1発勝負の大会
岡山のときは準決勝は出て、決勝はインフル(笑)。徳島のときは1.2回戦は出て、決勝だけ出れなくて。名古屋のときはベンチでした。なので、プレーオフ決勝は出てないんですよ。準決勝でも十分ヒリヒリしましたけど。2019シーズンの徳島のときは少しレギュレーションが違って。J2の3位〜6位の4チームでトーナメントをして、勝ち上がった1チームが、最後J1との入れ替え戦でした。徳島が先制したけど、湘南に追いつかれて上がれなかったんです。 J1参入プレーオフの1.2回戦は途中から試合に出て、一生懸命ボールを追いかけてました。
ー プレーオフは独特な雰囲気だと思いますが、どんな感覚ですか?
めっちゃ痺れます。名古屋のときは0-0の引き分けで昇格したんで、最後はマジでドキドキでした。もう怖すぎて。マジで「そのままいけ、そのままいけ!」って。そんぐらい怖かったですね。あと、途中出場が1番怖い。スタメンの方が気持ちが楽っていうか。途中出場でも1-0とかで勝ってるならいいんですけど、0-0の同点で、自分のミスから失点したらもうやってられないですね(苦笑)。
ー その状況は想像できませんね
それでもやらなきゃいけないので。もちろん試合に出たら全力でプレーしたと思いますけど、正直心の中ではそれぐらい追い込まれた気持ちでした。
ー そんな経験をした押谷選手から見て、今年の福井ユナイテッドはどうですか?
どうなんですかね。でも、リーグ戦をギリギリ勝つっていう意味では、今年のチームは出来ていると思います。「いや、ギリギリじゃダメだろ」っていう意見も、もちろんあるんですけど。でも、ギリギリでも勝ちにもっていけてるっていうのは、これまでの経験でいうと成功というか、いまのところはできてるんで、悲観するような感じではないかなと思います。大差で勝つっていうのも大事だけど、俺はまずは勝つことが1番大事だと思う。
昨年、初めて全国地域SCLを経験しましたけど、地決で3-0や4-0の試合があるかといえば、なかなかその展開にはならない。だったら、やっぱり1-0でも2-1でも、 3-2でも、勝ち切ることの方が大事だと思います。去年の反省からしたら「引き分けじゃダメだな」っていう。 "負けなくても上がれない" っていう大会なんで、勝ち切る力はつけなきゃいけないなと感じました。それには、まず北信越リーグを全勝しないといけないとは思います。
ー 時系列が前後する質問で申し訳ありません。 福井ユナイテッドに加入した経緯を教えてください
藤枝でグロインペインの怪我していたので、ずっと試合に出てなくて。サッカーもできていない状態で契約満了なったので、トライアウトも受けに行けなかったんです。そのときは何も動けないし、ボールも蹴れない。歩いてるだけでも痛いっていう状況でした。色々とチームを探してて、代理人はJリーグで探そうとするんですけど、身体が動けてないんで練習生でも行けないし、なかなか難しかったんです。そのときに服部社長から連絡をいただきました。行くところもないし、ここで怪我して終わるのだけは嫌だなと思っていたんで。せめて少しでもやり切って終わりたいなって。なので、声かけていただいて本当に感謝しています。
ー 服部社長とは、岐阜の後もよく連絡されていたとか?
岐阜の後は全然連絡は取ってなかったですね。長崎とかで試合相手として会ったときは挨拶に行ってましたけど、連絡は全然取ってなかったです。だから福井にいること知らなくて。連絡きたときに「福井にいるんですか?」って驚きました。 長崎までは知っていたんですけど。
ー では、福井ユナイテッドについては?
前身のサウルコス福井しか知らなかったです(笑)。今までは地域リーグの結果なんて見たこともなかった。 岡山にいたときに、岡山ネクストっていうチームがあって。若い子たちがいるチームが、JFLに1回上がったことあったので「地決」の存在は知っていたんですけど、 正直気にしたことはなかったです。
ー 実際に福井に来て、チームの印象は?
地域リーグなので、もっと環境が悪いかなって思っていたんですけど、 服部社長らがJリーグのチームを運営していただけあって、Jリーグに近い環境にしてくれてるのをすごく感じます。会社の体制であったりとか、 練習環境とか、試合のときにちょっとした弁当があるとか。そういう細かいところもJリーグに近い環境でやらせてもらっているので、地域リーグにしてはすごく環境は整ってる方なんじゃないかなと思います。 チームの中にも、ベテラン選手で経験を積んでいる選手が何人かいますし、 若い選手も才能ある選手がいると思っています。J1ではちょっとわからないですけど、J2やJ3のチームではやれる可能性があるんじゃないかなっていう選手はいますね。柚杏(嶋津選手)とか。俺は柚杏が1番才能あると思っているので、だから「もっと頑張れよ」って思うんですけどね。
ー 嶋津選手は素晴らしいバネの持ち主ですね
柚杏は才能だけだったら、1番あると思っています。十分に上のカテゴリーでやれる可能性があります。ただ、あいつ次第ですけど。だからもったいないとも思います。もっとやったら上を目指せると思う。 でも、その「上を目指す」っていっても、地域リーグで目立っても上に行けないと思うんですよ。
結局、チームが上に上がらないと上のチームは見てくれない。 だからこそ、若い選手もここの環境から抜け出すために、やっぱりチームを上に上げなきゃいけないと思うんです。そこを若い選手に分かって欲しいなって。俺らは引退が差し迫っていて、頑張る気持ちもある。若い選手は自分がプロサッカー選手になるために、いまの”サッカーをして仕事もしなきゃいけない環境”から抜け出すために、”サッカーのことだけを考えていられるプロサッカー選手”になるために、いまを頑張ってほしいと思いますし、いまこの環境で満足してしまってはいけないと思います。そのためにも、若手の選手には頑張って欲しい。あと、樹幹(髙貝選手)とかもすごいと思うんですよね。樹幹なら、J3でも全然得点を取れるんじゃないかなと思います。自分に合ったチームをしっかり選べれば。
ー サッカー以外もしなければいけないこの環境で、押谷選手はスクールコーチも担当しています。それについて教えてください
いまは、月・水・木の週に3日間、スクールコーチをしています。年代は年長から小学校6年生です。
ー スクールコーチの経験は?
経験はないですね。幼稚園とか小学校での巡回サッカー教室とか、そういうのしかないです。
ー スクールコーチを経験して、どうですか?
いやー、難しいですね。一緒にスクールコーチをやっている選手と一緒に、いつも頭を悩まします。
ー 前回取材したとき、和田選手も悩まれていました
めちゃくちゃ難しいですね。小学校の高学年になれば、話せば聞いてくれるんですよ。例えば、これをやるよって言ったらできるし、聞いてくれるんですけど、低学年以下の子どもたちの中には、まだまだ人の話を聞くことができなかったりとか、どっか行っちゃったりとかがあるんです。そのときの塩梅が難しいんですよね。どこまで叱っていいのかとか、どうやったらコーチの話を聞かせられるかなとか。自分の子どもだったら、強めに注意もできるんですけど、スクールの子たちにどこまで注意するかっていうのは難しいですね。
ー サッカースクールには、いろんな子どもたちがいますね
本当にサッカーが好きで通っている子もいれば、 ただただ楽しくサッカーがやりたくて、友だちと来てて遊びたいっていう気持ちでくる子もいます。子どもによって通っている理由が違うんで、そこが難しいですよね。最近は、1コマは自分で練習メニューを考えてやっているんですけど、 練習メニューを決めるのも難しいです。特に年長の子から小3まででの低学年のコースでは、年長の子と小3の子では、もちろん運動能力が違いすぎますし、同じことはできないんですよ。でも、どうやったら一緒の感じにできるかなって考えます。違うメニューで同じようなことをできないか?とか。達也(和田選手)と健慈(北脇選手)と一緒にコーチをしているので、2人に相談します。「これどうかな、これやっていいかな?」「あの子はこれできるかな?」みたいに、めっちゃ相談しながら決めています。いまは、教える難しさを感じてますね。
ー 選手の方がいいですか?
いや全然楽です。「この練習やるの?」とか言ってる方が楽です(笑)。
ー スクールコーチをしていて良かったことは?
子どもたちがちゃんと言うことを聞いてくれて、その練習内容でもそうだし、その後のゲームで練習の成果を出せたり、教えたことができたときの子どもたちの嬉しそうな顔を見ると、やっぱり教えがいがあるなって思います。自分が将来、指導者になるかどうかは分からないですけど、いい経験になってると思います。
ー ここからは、オフの過ごし方や趣味のゴルフについて教えてください
ゴルフは好きなんですけど、1ヶ月に1回とか、2ヶ月に1回とかのペースでしかやってないんで、一生上手くならないです。ずっとスコアは100ちょいで、どれだけやっても100切れない(笑)。
ー ベストスコアは?
ベストスコアが100なんですよ。ちょうど2メートルのパットを入れたら、99なのを外したんです。 あの1打が決まっていれば、俺の人生は変わったかもしれない(笑)。
ー 本当にあの100って絶妙の数字ですね
なんでこんな切れんのって思いますね。いつも前半良くて後半悪いとか、後半悪くて前半が良いみたいな。 「なんで前半にこれが出来ないんだよー」みたいなのはよくあるんです。前半45の後半58とかそういうのが結構あります。
ー サッカーの試合では、あまり出入りの激しさは見られませんが
本来は短気なんですよ。若い頃はイエローカード8枚とかもらっていたぐらいだったんです。審判に抗議してカード2枚もらって退場したり、ペットボトルを蹴っ飛ばしてイエローカードをもらったこともありました。ちょっと短気の部分は、こういうときに出ちゃうんですよね。怒ってるわけじゃないですよ。なんかイライラしたりとか、一緒に回ってる人たちの雰囲気を悪くしたりはしないですけど、なんか出ちゃうんですよね。
ー 個人競技になるという自分に矢印が向き過ぎる?
ゴルフ向いてないです(笑)。楽しいから行ってるだけなんで。空振りしている魁(野中選手)と響(榎本選手)を見て笑っているのが、一番楽しいんです。
ー チームの後輩とも一緒にゴルフを?
行きましたね。魁と響が1回もゴルフ場に行ったことがない状況で「初めて行きます」って言うので、下手でもいいから行こうと連れて行ったんですけど、2人とも空振りばっかりで。「見てないよ」とか言いながらめちゃくちゃオマケしたのに、あいつらは170で回ってました(笑)。ゴルフ場から帰れって言われるレベルでしたね。
ー ゴルフ以外には、なにかされてますか?
そうですね。家族もいるし、ゴルフばっかりやってたら怒られちゃうんで(笑)。まず1番は家族。やっぱ生活が1番。子どものためにどこか連れて行ってあげなきゃいけないですね。でも、今シーズンはそもそもオフが火曜日で、火曜日は担当のスクールはないんですけど、 地域貢献活動に行ったりしているので、1日オフはないときもあります。
ー 最後に、お子さんをよく連れていくスポットとかは?
実はまだ、あんまり福井のこと知らないんですよ。恐竜博物館も1回しか行ってないし。この前、越前大仏は行ったんですけど、大仏が大き過ぎて、子どもは怖がっていました(笑)。
(ライター/細道徹)