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【Crew.6】 スタジアムDJ/DJ NAOYA

サッカーの試合運営には、クラブスタッフはもちろん、以前紹介したボランティアスタッフをはじめ、たくさんの人々が関わっている。

今回は福井ユナイテッドFCのスタジアムDJを務めるDJ NAOYAさん。

前身のサウルコス福井のときから、スタジアムDJとして、ホームの雰囲気を創り出すことに全力で取り組まれてきた。

スタジアムに響き渡る「ゴーーール!」だけでなく、魂込めたMCが印象的なパフォーマンスの裏に秘めた想いとは。

プロフィール
加藤 直也 (DJ NAOYA)
M&Mエージェンシー所属:タレント・俳優・ナレーター・DJ・音響・エンターテイナー。FBC(ラジオ・公認YouTuber) 福井ユナイテッド公式スタジアムDJ/サッカー4級審判員/福井永平寺ブルーサンダーDJ/福井ブローウィンズMC/ドラマー
1981年9月29日生まれ。

 

ー まず、簡単なプロフィールを教えてください。
タレントです。役者だったりナレーターだったり、色んな肩書きはあるんですけど、オールマイティーにやるっていう部分で事務所がタレントとしています。23、4歳で事務所に所属し、民放でのレギュラー番組デビューは26歳でした。

ー そうすると、いわゆる、芸歴は?
コミュニティFMタレントとしてデビューして、ほぼ20年です。ラジオ、テレビ、舞台、映画、ドラマやCMの声など、喋りや声を使うことが主な仕事です。

ー タレントになったきっかけは?
元々は音楽を目指していました。子供の頃からバンドをやっていて、X-JAPANのYOSHIKIさんに憧れて、いわゆるロックスターになりたかった。メジャーデビューしたいって思いで高校を中退して、カバン1つで武生駅から電車に乗って上京しました。 そこで東京のインディーズ事務所に所属しながらバンド活動してましたが、プロの世界ってのは厳しいところで。自分の思うようにいかないこともたくさんありました。挫折して福井に戻ってきて、バックバンドの演奏だったり、セミプロみたいな音楽活動を続けていく中で、今の事務所の社長と出会いました。やはりステージに立って表現をしたいですし、ラジオや喋りも「音の表現」なので共通点があるなって。そこから5年ぐらいボイストレーニングとかレッスンに通ったりしながら、FBCラジオでレギュラー番組を持たせてもらって、県内各地のメディアが主なフィールドになっていきました。その流れで、吾田さん(クラブスタッフ)と出会ったんです。

東京に上京したときのNAOYAさん ※本人提供

ー サッカーに関わるようになったのは、吾田さんからのオファー?
色んな人の繋がりで、福井ユナイテッドFCの前身、サウルコス福井の運営の方が「アナウンスが出来る人を探している」という情報が、巡り巡ってウチの事務所に来たんです。小学時代は野球少年だったので、当初はサッカーの「サ」の字も知らなくて。サッカーって体育の授業でやったぐらいで(笑)。
全然分からないまま最初にテクノポート福井スタジアムに行ったのが12年前だったかと。そこがスタジアムDJの入口でした。

ー では、12年前からスタジアムDJを?
はい、2012シーズンからだったと思います。当初は用意された原稿を読むレベルで、全く分かっていなかったですね。

ー 今では原稿以上に(笑)
台本以上に喋ってすみません(笑)。今はキチンと台本を用意して頂いているんですけど。でも当初は、ほぼ原稿も何もなかったです。

ー そもそも、スタジアムDJってどんなことをされていますか?
これという定義はないと思うんですけど、いわば「盛り上げ」ですね。福井ユナイテッドの皆さんと一緒にこの形を作らせてもらったので、ある意味オリジナルですね。

ー このスタイルはオリジナル?
はい、ほぼオリジナルに近いと思います。今、これだけのスポーツエンタメが全国で当たり前に普及している中で、スタジアムDJ、あるいは屋内になるとアリーナMCとも呼ばれるんですが、基本的にアナウンスというよりも会場の熱気を倍増させる。特にホームの空気を作り出す、勝てる会場を作るというのが、やはりスタジアムDJだと僕は思っています。
単にアナウンスだけなら録音でも可能ですよね?例えば他のイベント会場とかで「ご来場のお客様に~」というのもアナウンスですが、やっぱりスタジアムDJっていうのは、お客さんと一体となって圧倒的なホームの空気を作り出すのがマイクパフォーマンだと思っています。

ー MCとDJの違いは?
厳密な違いはないです。MCとは「Master of Ceremony (Ceremonies)」=進行役・司会者の意味です。僕はラジオDJでもありますから「スタジアムDJ」っていう言い方を通しています。それは単なる呼び方の違いかと。Bリーグの福井ブローウィンズとかは、本当にクラブ系のDJがいるんですよ。 音楽を選曲してスクラッチなどの操作するほうのディスクジョッキー。だから「DJさんヨロシク!」ってMCが振ると楽曲を切り替えて、ギュウィ~ンってやるんですよ。 なので、その場合はDJっていうと分かりにくいから、MCとDJって分けているんじゃないかな?と思います。だから屋内はアリーナMCって言われているんだと思います。

ー 今のDJ NAOYAのスタイルになるまで、参考にされた方とかはいらっしゃいますか?
サッカーのスタジアムDJをやる前から知っていたのは、ツエーゲン金沢(J3)でスタジアムDJをされている大平まさひこさん。大平さんは昔FBCラジオで番組を持っていて、一緒に担当していたことがありました。 僕もスタジアムDJとして、サウルコス福井に携わるようになったとき、ツエーゲン金沢のホームゲームを観に行って「大平さんはこんな風にやってるんだ」って、普通に客席でサッカーを楽しみながら学ばせてもらったりしました。
カターレ富山(J3)のスタジアムDJ 久世サトシさんは、2021シーズンのハピネスマッチがきっかけで、ご縁を頂きました。そして僕がスタジアムDJとして一番、教科書のようにお手本にしていたのはジョン・カビラさんです。J-WAVEの。ジョン・カビラさんって言いながらも「ムムッ」とか「クゥー」って言うのは、弟の川平慈英さんですけど(笑) 。サッカー関係の人はこういう風に熱いんだっていうのを、勝手に自分の教科書に書き込んで、そこにモノマネ含めて寄せていく中で、サッカーっぽい空気はなんとなくこうかな?って模索して。あと、横浜F・マリノスの光邦さんとか、クリス・ペプラーさんとか。やっぱり有名な方の真似から入りました。

2021.10.30のハピネスマッチFUKUI2021
カターレ富山のスタジアムDJ 久世さん(左)とトークショーを行うDJ NAOYAさん(右)

ー 色んな方からインスピレーションを得ているんですね
そうですね。とにかく最初はただ同じことを喋ってみるだけでした。そのままコピーしてやっていると、 "なぜそうなのか" みたいなのが、どんどん見えてきます。なぜここでこうしたんだろう?とか。

ー スタジアムDJに就任されて13シーズン目となりますが、印象的な出来事はありますか?
振り返れば今年で13シーズン目だと思うんですが、記憶は曖昧で。というのも、サウルコス福井のときは最初2年ぐらいボランティアだったんです。スタジアムDJを探してるなら、じゃあやってみようと。僕もまだプロとしてお仕事を頂けるという段階ではなくて。「こんなアナウンスでいいですか?」みたいな。クラブスタッフやサポーターの方と作っていく感じでした。そのとき、まだ吾田さんはゴール裏のサポーターで太鼓を叩いて応援していました(笑)。 その後数年、空白の期間があって、「もう1回やってくれないか」と、クラブスタッフになった吾田さんから連絡がありました。2017シーズンぐらいだったかな?日東シンコースタジアムでのホームゲームで再びスタジアムDJをやらせてもらった記憶があります。そこでのトラブルが印象的です。

ー トラブルとはどんな?
今となっては笑い話ですけど、当時はスタジアムの音響をそのまま使用していたのですが、キックオフ直前になぜか音響がダウンしまして。会場のヒューズが飛んだかで、電源コンセント自体からは電源が取れるけど、システムの電源が立ち上がらない。
「もう今から試合ですけど、どうしますか?」となったとき、吾田さんが急遽、よく公民館にあるような簡易スピーカーとワイヤレスマイクのセットを持ってきてくれたんですが、まあ聞こえないですよね(笑)。客席からも「全然聞こえんぞ!」って当然ヤジを頂きました。
そんなことがあって、「エンターテイメントとしてちゃんと構築しましょう」となりました。僕自身がライブハウスの音響も学んでいたので、コンサート用のSRスピーカーだったり、プロ用のきちんとした機材を持っていました。特にテクノポート福井スタジアムはとても大きいスタジアムですから、”ドンッ”と音を出さないとやっぱり楽しみは作れないし、エンターテイメントにならない。なので、スポーツは素人だけどエンタメに関してはプロの世界にいたので、今のように機材を持ち込むようになったんです。じゃあ僕の得意分野を本気で生かしていきませんか?っていう流れになり、本格的に音響屋になっていきました(一同笑)。

2024シーズンより、外のイベントステージでは
DJ NAOYAと福井ユナイテッドFCの選手によるトークショーを実施(DJ NAOYAさん/左)

ー ホームゲームのたびにNAOYAさんがスタジアムに機材を持ち込んでいる理由がわかりました。
よく言われます(笑)。他所行ったら普通は8トントラックぐらいの機材車が来て、音響さんが別でいて、設置をして、ビジョンをつけて、配線をして…ですよね?多分「マイクを握る人」がこっち側のセッティングをやるのは、なかなか居ないと思います(笑)。
僕は元々音楽エンタメの人間なので、「じゃあ一括してやりましょう!」っていうのがサウルコス福井時代からスタートしました。タレントになる前も、実は福井テレビでバイトをしてたことがありました。中継のケーブル巻きとか、カメラアシスタントとかをやっていたんです。表に立つなら裏を知らないと、っていうのが20代の頃からありました。両方を学んできてどっちも出来るんで、せっかくこの福井でスポーツエンタメを作るんだったら、僕は出来ますよ!って提案したのが最初です。

ー 2019シーズン、福井ユナイテッドFCになってからは今のスタイルを?
はい。そのときにはもうこのスタイルはほぼ出来上がっていました。吾田さんから連絡があって、当時GMだった服部社長と徳永さんに見積書を出して、こんなことをこれぐらいでどうでしょうか、みたいな話からスタートしました。

 ー 少し話は前後しますが、屋内スポーツのアリーナMCもされていますよね
5年ぐらい前からだと思うんですけど、福井永平寺ブルーサンダー(ハンドボール)さんのMCもやっています。当初クラブからは「盛り上げのやり方がわからないし、そういうことをやっている人もいないのでマイクを握ってほしい」という依頼を頂いて。ハンドボールの前は女子フットサルの丸岡RUCKを担当していたこともあります。

ー屋外スポーツと屋内スポーツの違いってありますか?
屋内競技は圧倒的にスピードが速いですね。もうとにかく速い。Bリーグはリーグのレギュレーションで、こういう風に、このときはこういう言い回しをしなきゃいけないというのが細かくあって。それに、ハンドボールとバスケは秒で攻防が変わるので、こっち側のゴールを叫んだ1秒後に、向こう側のゴールも決まっているんですよ。サッカーで言うオフサイドみたいなのも無いですし、もうエンプティーゴールでバンバン入れるんで、あの攻守の切り替えとBGMの切り替えなど、そのスピードは喋る側としては結構大変です。
なので、屋内競技は口を回す難しさっていうのはありますね。あと、屋内競技は比較的、ある意味なんでもありというか、煽り方がなんでもありな印象です。

ー 煽り方がなんでもありとは?
お客さんを目の前で煽るというか、 お客さんが明らかに見えて距離が近いじゃないですか?サッカーの場合って、スタジアムDJは放送席にいるんで、サポーターからはっきり見える位置にいないことも多いですが、屋内競技の場合は、お客さんに向かってどんどん「いけます?」「いきましょう!」とか、煽りを入れていくことが多いです。また、「こんな音を出してみよう!」とか「ナイスプレー!最高だぜ!」などの言葉をボールインプレー中に言いますし、色んなことを結構自由にやっているなっていう印象はありますね。

ー 屋内競技では、音響さんは別会社さんでは?
バスケは別業者ですが、僕がいる現場では音響も自分でやること多いです。ブルーサンダーさんもこちらでやっていますし、僕が喋りながら音も出しています。ブルーサンダーのオフェンス、ディフェンスの音は僕が作曲しました。チームから要望があったので自分で制作して、いくつか候補を出して今の音楽に決まりました。相手がボールを持った瞬間「ディーフェンス、ちゃんちゃん」って音を切り替えて…と思ったらスティールで奪った途端に、今度はオフェンスにガンと切り替えて、と展開が速い(笑)。

ー 攻守の切り替えの音も、サッカーではありませんね。
基本的にサッカーでは、選手交代や得点者報告等のアナウンスを除いて、インプレー中に演出の音を出してはいけないので、それはもうスポーツ競技のレギュレーションですよね。

ー 屋内競技は結構音を出してもいい?
そうですね。あと、照明も当てます。屋内なので照明演出もありますし、特殊効果を略して「特効」って言うんですけど、煙出したりもします。

ー さすがにNAOYAさんも特効は?
僕の方で発注をします(笑)。ハンドボールの試合で煙を出したこともあります。去年の開幕戦、選手入場の瞬間に「プシャー」って1人ずつ煙を入れました。ただ、ボタンを押している業者は別で、依頼を出します。知り合いに特効をやっている業者もいるので、試合終了後の「WINNER!」ってなった瞬間、パーンとクラッカーみたいなのが出るやつ「銀打ち」って言うんですけど。ああいうのも大阪から買い付けたりとかしてやっています。元々はバンドのライブとかで使う物なんで、それをちょっとスポーツに転換させる。自分のステージでも使ったりしたんで、その情報とか知識はありました。

ー スタジアムDJとしては、屋外と屋内どちらが難しいですか?
演出や喋りのスピードの難しさで言うと屋内の方が難しい。ただ、やっぱりサッカーって、たった1点を全員で取りに行くじゃないですか。1点の重みっていうのはサッカーの方がありますよね。その1点の差っていうのはどの競技も一緒ですけど、無得点で終わるってのも、やっぱりサッカーの面白さ。他の競技は大量の得点で競いますが、スポーツによっていろんなレギュレーションの違いがあって面白いですよね。

ー NAOYAさんがスタジアムDJとして心がけていることは?
公平・平等・公正っていうのは心がけています。基本スタジアムDJは中立で、上下をつけるんじゃなくて、相手も称賛する。原則フラットが0のラインとして、ホームは0よりプラス1、2 迫り上げる。結構これを間違えちゃうと "アウェイはどうでもいいから俺らが勝ちゃいいんだ" みたいな、ちょっと間違った発言になるので。これは放送と同じ、言葉を扱う上、発言する上での基本中の基本だと思います。

ー 中立とはいえ、なかなか難しいですよね
難しいですね。 煽りたいんだけど…煽り方って難しいですよね(笑)。 誰も傷つかない、でも同じ気持ちの人がそこに集っているんで、そこの熱気は上げなきゃいけない。あれは毎回やりながら、苦労しながら、積み重ねています。

ーでは、スタジアムDJ、DJ NAOYAのアピールポイントは?
ゴールコールでしょ(笑)。

ー どんなところに注目してもらいたいですか?
ようは「ゴール」って言えば良いだけなんですけど(笑)。状況に応じて「どんなゴールのときに何を言うか?」を楽しんでもらいたいです。一応、事前にメモしたりはしているんですけど、その瞬間に自分でも思ってもないようなことが出るのが、ゴールコールの瞬間です。
これまでだと…例えば2021シーズンかな?コロナ禍でまだ声出し応援できなかったとき、前半すごくグズついた展開で、スタジアムのお客さんの空気感がイライラしていたんです。その空気感で僕もなんか同じ気持ちになったときがあって。ハーフタイムのときに「我々の目的をもう一度思い出そう」っていうのを、思わず結構強めに言っちゃったんですよ。「ここで勝って帰るしかないですよね、皆さん!後半からもう1回リスタートしよう」って言って。後半やっと先制点が決まったときに「そうだ!それが俺たちだー!」って言っちゃいました(笑)。「ゴールコール」をする前にその言葉が出ちゃったのでサポーターにも笑われました。なんかそういうものが生まれる。スタジアムDJっていうのは、本当に気持ちを乗せたときに予定にないことを言っちゃったりとか。なので予定調和では動かない、常にサポーターと一緒に生で作られるスタジアムの音があると思うので、選曲もBGMも毎回色々変えています。

放送席からゴールコールを叫ぶDJ NAOYAさん

ー NAOYAさんならではの裏話ですね
面白いところで言えば、何が難しいって、ワイヤレスマイクの電波の計算がいつも難しいですね(笑)。ワイヤレスマイクってめちゃくちゃシビアなんですよ、屋内も屋外も。演者がアイドルとかで5人いると、 「どうすっかな」って頭を悩ませます。電波干渉の計算とかチェックはほんと難しいんです。

ー 電波って難しいんですね。
そうですね。 あと、サッカー特有の難しさはやっぱり「距離」です。 ワイヤレスマイクって基本的に10万円未満くらいの機材で2、30メートルなんですよ、電波の飛距離が。10万円以上のグレードでも50mぐらい。推奨距離100mって書いてあっても、実際は100mも飛ばないんですよ。それでもサッカーのスタジアムは広いし、ピッチの長さが100mありますが、実は電波が飛ぶ範囲ってすごく限られるんです。その中でも音を届かせるために、ホームゲーム前日の夜に色々と考えるんです。広報の方から送られてきた台本を見ながら、「これで行けるかな?」とか、「これケーブル引かんと無理があるな?」とか。それで毎回持って行くケーブルの本数を決めて、夜な夜な車に積んだりしています。

ー 毎回セッティングの仕方が変わるんですか?
セッティングだったり、アンテナの位置だったり。機械って気まぐれを起こすので(笑)。あと、屋外はやっぱり天候に左右されるので過酷なんですよね。

ー 音響は精密機械ですね。
水濡れNG、高温NGの機械を、サッカーでは炎天下でも雨風でも出しますからね。壊れる、機嫌を悪くするのはよくあるんですけど、屋内の場合はその心配はあまりないんです。あと屋内は屋根があるので、 「電波の回帰性」って言って、壁に反射して回る特性があるんですよ。それが屋外はないので、その辺の設計はすごく難しい。

ー 同じ屋外でもテクノポート福井スタジアムは、スタンドに屋根がないので他よりも難しいのでは?
そうですね、だから色んな仕様書を見て勉強は続けています。デジタル電波ってまっすぐ飛ぶ特性があって直線では受信しやすいんですけど、間に人が通ったり、水があったりするとダメなんです。2.4Ghz帯(Wi-Fiタイプ)とかがプツプツって途切れたりするのはその影響です。
従来のB帯(FMメガヘルツ帯)電波は回りやすい、壁に反射しやすい特性があります。ただ、デジタルの特性と違って、何とか薄く受信するラジオみたいな感じで音は拾える。両方にメリット・デメリットがあります。それで、設置する位置もWi-Fi機器の隣には置けない。できれば1メートル以上離したところに置く。ただ、演者の持ってるマイクと受信機が直線的な位置か?とかを考えています。

ー もはやスタジアムDJじゃないですね
サッカーじゃない、全然違うことの設計を考えてやらないといけない。だから、うまく電波が飛ばなくてハーフタイムショーとかで演者の声が途切れることもあるんですよ。でも、試合が終わった後にトライアンドエラーで、原因は何だったのかを考え、次に活かすっていうのを繰り返してきました。100%はないんです。やっぱり機械相手なんで、ワンマンの難しさですよね。業者だったら、他のスタッフが途中で切り替えて対応したりとかあるんですけどね(笑)。

スタジアム外のイベントステージで音響作業を行うDJ NAOYAさん

ー 福井ユナイテッドはいくつかのスタジアムでホームゲームを開催していますが、どこの会場が一番やりやすいですか?
やりやすいっていうか、場数で慣れているのはテクノポート福井スタジアム(以下 テクノ)ですかね。ただ、テクノは1番大きいんで、その辺の距離はいつも悩ましいところです。

ー 会場自体は9.98スタジアムも大きいですが、観客席はメインだけなので。スタンドの全面開放はテクノだけですね。
テクノは全面に聞こえなきゃいけない。その上、スタジアムの中と外で同じ、例えばB帯、同じ種類、同じ周波数とかでマイクを使うと音が被っちゃって混信しちゃうんですよ。中の音が外に出たり、外の音が中に入っちゃったり。だから使うマイクのメーカーや種類も考えます。
もう慣れですね。本来だったら、音響さんちょっとお願いしますって言えばいいものを、音響さんって…俺だみたいな(笑)。だから、自分で「ちょっと待ってください」って言いながらやるときもあります。それでも、それが福井ユナイテッドらしさなんじゃないですかね。ワールドカップやJリーグに行ったら絶対許されないかもしれない。けど、福井ユナイテッドってクラブをみんなで作ってるんだみたいな。そういうところも「我がクラブ」になるんじゃないですかね。

ー そんな福井ユナイテッドとも創設前から関わっているNAOYA
さんが福井ユナイテッドに期待することは?

多分みんな仰ってると思いますけど、根幹は "クラブの存続" です。福井にないとダメなものであり、あってこそ色んなことができる。クラブがあるからこそ、サッカーのある週末がやってくるので、それは絶対的にないとダメなんです。 そのなかで、JFL昇格は通過点。その先のJリーグ参入、そしてJ1へ。更に、いつかのワールドカップ開催のときには、例えば「日本代表のウィングは福井ユナイテッドの何番誰々です」とか、そういう選手が世界に羽ばたく、そして世界と繋がっていく。それが地元福井なんだっていうルートが将来的に1本ズドンって出来ると、我々が見たかった青い景色ってのは必ず見られると思うので、そうなるまで僕はゴールを叫び続けます。

ー 期待というか、壮大な夢ですね。
そうですね。クラブがあることが前提で。本当にサウルコス福井のときからサポーターさんみんな言うと思うんですけど「俺たちが見たい景色」っていうのを本当に見たいなと。

ー 今は夢の途中、その過程のなかでどう感じていますか?
明らかにクラブが大きくなっている、福井に根付いてきています。 本当にサポーター1人1人、あるいは地元企業さん1社1社、まず福井ユナイテッドを知って下さってるじゃないですか。僕がPLANTに買い物に行くと、何人かのスタッフさんは結構声をかけてくれるようになったんです。「あ、DJさんだ」みたいに。テレビやラジオに出てて「あの人だ」ならわかるんですけど、「この前ホームゲーム見に行きましたよ」みたいなことを普通にレジで声をかけられるんですよ。 あれは嬉しいです。「キタッ!」っていう。そういうときに福井ユナイテッドっていう文化が街にも根付いてきていると感じる瞬間です。じわじわっとこう、広がってきてると感じてます。

ー とても嬉しい話ですね。ではNAOYAさん個人の夢は?
僕個人としては、「ゴール裏でビールを飲んで福井のサッカーを見ること」が夢ですね。

ー その真意をもう少し教えてください。
これって単に、いつでも出来るじゃないですか。スタジアムに行ってビールを買えばいいだけなんで。そういうことではなくて、 エンタメで盛り上げたり、次の世代の若い人たちとも福井のサッカーを作ったりしたいんです。「俺も、私もスタジアムDJになりたい!」という人が出てきて欲しい。まだまだそのスタジアムDJっていう文化もないし、いま福井でスタジアムDJって何人いる?って言ったら、おそらく僕以外はいないと思うんです。アナウンサーやMCはいても、「職業がスタジアムDJです」って言える人っていないので。芸能界のようにそういう世界を目指したいっていう次の世代の子たちに夢を届けていきたい。マイクを握ることだったり、このチームを盛り上げる声を出したいとか、そういう子たちが出てきて、違う大会、違う試合で「今日DJ誰だろう」とか「今日こんな風にやってるんだ」「さすが天王山の試合、DJもチカラ入ってんな~」みたいなことを、例えば60歳を超えたりしたときにゴール裏で「昔こうだったんだよな」「やっとこんだけ2万人、3万人来るようになったな」っていう、その景色を見ながらビールを飲んで、普通にサッカー観戦してみたい。そういう意味です。別にスタジアムDJを辞めたいとか引退したいって意味ではなく(笑)。 DJ同士もこう、ダービーするというか、そっちのチームには負けんよ!って、うちのホームの空気全然違うよ!って張り合えるような若い人材がどんどん出てきて、同じ職業の人たちがサッカーを盛り上げる。そういう景色、将来的に作っていきたいなと思います。

ー スタジアムDJをはじめ、関わる人が増えていって盛り上げて欲しいですね。
福井ユナイテッドになって9.98スタジアムでホームゲームをやるようになって純粋に嬉しいなって思うのは、やっぱり子どもらの姿ですよね。試合が終わった後、スタジアム外の広場の芝生でみんなボールを蹴ってるんですよ。お前ら絶対サッカー部じゃないだろ!っていう子もみんな(笑)。
スタジアムでチームが勝利するのを見て、それこそワッと盛り上がる会場を見ると、サッカーがしたくなる、思わずボール蹴り出す。部活が文科系かもしれない子もみんながボールを蹴り出す。それだけの刺激や夢を、クラブや選手が与えているんだと思います。これがホーム戦の後に観られる景色なんです。サウルコス福井時代にはあまりなかったと思います。9.98スタジアムでやるようになってから、撤収をしながら放送室のある4階からボーッと見てると、突然みんながボールを追っかけて、全然違うグループの子たちが「一緒にサッカーやろう!」って始まるんですよ。たぶんバスケの試合があればバスケをやってるでしょうし、野球があれば同じような景色があると思います。スタジアムに来た子たちがサッカーをやるってことは、意義のあるものを、今日1日福井ユナイテッドが提供したんだって思います。この景色なんだよな!っていうのを、沈みゆく夕日を見ながら、「ギブ・ア・ドリーム」を聴きながら、余韻に浸って見ているんです(笑)。あれが気持ち良いんですよね。試合に勝つことは大事だけど、勝てばいいだけじゃない。その先の延長線上に必要なものっていうのが、やっと福井に出来てきたのかな?って思います。

(ライター/細道 徹)