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【Crew.5】グラウンドキーパー/NPO法人CLUB GREEN

福井ユナイテッドでは”GK”といえば「ゴールキーパー」だけでなく、

ピッチ管理をするGK(Ground Keeper)「グラウンドキーパー」も

クラブに欠かせないポジション。

裏方、黒子的存在だが、福井にはJ1のピッチ管理にも携わっている

凄腕の”GK”がいる。

そんな知られざるクラブの”第4のGK”のお二人に話を聞いた。

NPO法人CLUB GREEN
2013年設立。 子どもたちの健全育成事業として校庭・園庭の芝生化事業を進めるほか、福井ユナイテッドFCのピッチ管理のサポートも行なっている。
理事長:丸岡樹善さん/副理事長:木船恵美子さん

 

ー まずは、クラブグリーンさんの事業内容について教えてください
丸岡:将来的には、スポーツ環境をよくしていきたいという大きな夢のもと、今は主な事業として小さな園庭とか校庭の芝生の普及・管理をやっています。あとは、福井ユナイテッドFCさんのホームゲームでは、テクノポート福井スタジアム以外でのピッチ管理のお手伝いとラインの施工を行なっています。

敦賀市の早翠幼稚園をはじめ、さまざまな場所で芝生の普及・管理を行なっている

ー サッカーのスタジアムのピッチ管理はどんなことをしていますか?
丸岡:本来は毎日の芝刈りをしたり、試合に向けてピッチにラインを引いたり。そういうことがメインになるんですけど、福井県の施設環境はまだまだ良くないので、まずはピッチを試合ができる状況に持っていくっていうのが数週間前ぐらいからスタートします。主に、少しでも凹凸を一つひとつ手作業でなくしていくことですかね。 元々、他の造園業さんが管理しているところに我々が入らせてもらうので、なかなかその辺の調整が難しいんですけど。芝刈りをするタイミングとか、肥料入れるタイミングとかを試合の日に合わせて調整をしてもらったりとか。「こうやって持っていきたいんです、刈り方はこうしたいんです」っていうような話を造園業さんとしていきます。

ー つまり、普通の芝生と競技用とでは管理の仕方が違う?
丸岡:福井はグラウンドによって使用している芝の品種が様々です。和芝と言われる所と、西洋芝と言われるティフトンを使用している所があります。つまり、"スポーツターフ" じゃない所があります。そこでサッカーをプレーすることを想定していませんから、プレーできるようにもっていくのは、正直難しい。一般的には、年に10回ぐらいの芝刈りと年に3回ぐらいの肥料散布って、各行政で決められた仕様書に則って管理しているだけなので。サッカーをプレーをするとか、ボールの転がり方とか、そういうことを想定して全くやってないですから。
とにかくスポーツターフっていう理解がいわゆる後進県なので、それをまず理解していただかなければです。「緑ですが、どこが悪いのでしょう」ってまず言われるんですが、緑だから良いって訳じゃないことを説明します。「いやいや、これは全然違いますよ」と言いたいんですけど、それは、なかなか理解されません。あとは、「ここは陸上競技場なので、サッカー専用じゃない」とも言われます。他県の陸上競技場では、スポーツターフの所も存在しています。

2022年10月 TRM vs.C大阪に向けて9.98スタジアムのピッチ管理を行う丸岡さん(右)

ー 確かにスポーツターフは少ないです。そのスポーツターフに行きついたきっかけは?
丸岡:元々、僕自身がニュージーランドに少し住んでいたときがあったんです。そのときに、どの小学校、中学校、高校も全部、校庭は緑の芝生だったんですよ。 ニュージランドといえばラグビー大国なんですけど、こういう環境があるから、やっぱりスポーツが強いのかなと思いました。
そもそも、芝以外に生まれた屋外スポーツってないんですよ。ゴルフも、野球もです。全部グラス(草)の上で生まれましたから。そういうスポーツ環境に興味があって、いつかそういうのをやってみたいな、こういう町になったらいいなっていう環境で過ごしました。

ー 帰国してすぐに取り組まれた?
丸岡:いつかグラウンドを管理したいっていうのはあったけど、福井という地域はそこらへんの理解が得られなかったので、そこのベースをとにかく上げたいと考えました。「プロがプレーするフィールドを支えるプロになりたい」という大きなイメージで。 そこから木船さんと一緒に活動を始めました。木船さんにはJリーグのピッチ管理に行ってもらって、プロの技を学んできてもらっています。やっぱり一流の環境が一流の選手を育て、一流の選手を見た子どもが一流に育つと、僕は思うんですよ。 それが、引いては「まちづくり」だと思うし、子どもたちの健全育成にも繋がる。
だからスポーツには力があるなっていつも思ってるんです。

ー 具体的に活動を始めたのはいつから?
木船:いまから15年前、CLUB GREENになったのは2011年です。
元々は2009年ごろ、丸岡が敦賀市の青年会議所で保育園・幼稚園芝生化事業をやっていました。そして2011年、私が敦賀市PTA連合会、子育て委員長をしていた当時に「子育てに関する事業を一緒にできませんかね」って声を掛けて、実際に芝生化事業を見に行ったら、とても素晴らしかったんで、これは(芝生化の事業を)するべきですねってなって、じゃあボランティアクラブを作ろうと、JCとPTAの人たちとボランティアクラブをつくったのが始まりです。ボランティアクラブを管理していく上で、やっぱりしっかりと法人化していった方が、ということで2013年にNPO法人を立ち上げました。

ー グラウンドキーパーの技術はどこで学びましたか?
丸岡:僕らがやってる芝生は、 ”鳥取方式の芝生化” です。これを実践しているのは、鳥取県にある「グリーンスポーツ鳥取」の皆さんですね。そこのメンバーに、オフィスショウの池田省治さんという方がアドバイザーとして入っています。そこで、芝生の良し悪しや、維持管理の仕方、プロの管理とは、ということを定期的にレクチャーを受けています。

ー ティフトンというのは?
丸岡:ティフトンっていうのは、夏芝なんです。冬の緑はティフトンではない。秋にライグラスって芝生の種を蒔くんです。ライグラスにも種類は色々あるんですが、それは各スタジアムによって、それぞれの特徴を出すために変えています。ライグラスは、秋から冬に向けて発芽をさせて緑をキープする。 寒さに強い芝なので、それで冬場の寒い時期の緑を保っています。だけど、暑さに弱いんですよ。

冬芝ライグラスの下からティフトンが発芽して伸びはじめている園庭は、裸足でも刺激が少ない

ー 芝はデリケートで管理が難しそうです。
丸岡:いまはトランジットの時期です。ちょうど入れ替えの時期で、ライグラスが死んで、いまからの夏のティフトンがふっと、元気が出てくるときです。 それぞれの芝の特性を活かして、グラウンドを緑に保つようにします。実は、年中ピッチが緑っていうのは、ウインターオーバーシーディング、いわゆる二毛作で出来上がってるんです。二毛作っていう言い方はしないですけど(笑)。

ー 芝の管理には、いろんな要素が必要なようですが、一番大事なものは何ですか?
丸岡:芝生は人間と一緒ってよく言われます。僕らは食事もしなければいけないし、太陽も浴びなければいけないし、呼吸もしなければいけない。芝生も人間と一緒なんです。

木船:芝生が日々成長して、肥料をもらったら詰まってくるんです。だから、エアレーション(芝生に穴を開ける作業)をしてあげないと、芝生に空気が届かなくなります。サッカーのグラウンドのような広いところはトラクターを使って作業をしています。穴を開けるというか、空気の通りをよくすると根が活性化してくるんです。だいたいは1ヶ月に1回くらいの頻度で行いますが、2〜3週間で行うこともあります。

ー 本当に人と同じく、状態を見ながらケアというかメンテナンスが必要なんですね
丸岡:Jリーグやトップレベルでは、芝生の調整はミリ単位の世界なんです。今日の湿度は何パーセントだから、試合の何分前に、何秒間水を撒いて、芝を刈るのは今日の試合の日の午前中に縦横必ず入れて、何ミリに調整してっていうのを、チームと話し合いをして決めていきます。

ー いまピッチ管理で携わっているところは?
丸岡:木船が新国立競技場や味スタの管理をされているオフィスショウさんや、湘南造園さんでグラウンドキーパーの研修をさせて頂いています。

ー やはり、それぞれのチームによって仕様が違いますか?
木船:もちろん、それぞれ違います。そのチームがプレーのしやすい長さに調整します。チームがどんなサッカーをしたいのか、それに合わせて全部芝の長さを1ミリ単位で変えていきます。 毎日の練習後には、チームと意見交換を行なって調整していきます。そして、対戦相手によっても変わってきます。簡単に言えば、ピッチ管理業者というだけでなく、チームについてるグラウンドキーパーみたいな感じなんですよね。

ー なるほど、まさにチームのGK(グラウンドキーパー)ですね。
 ここから話題は芝から少し離れますが、CLUB GREENさんと福井ユナイテッドとの出会いを教えてください。
丸岡:出会いは2020年、僕がやっている仕事の関係で出会った人に「実はNPOでこんな芝生化事業をやっています」と話したところ、ぜひ会って欲しい人がいると紹介されたのが、服部社長でした。

ー そこからすぐにピッチ管理に?
丸岡:まずは小さなスポンサーをさせていただくことから始まりました。ピッチ管理と言っても自前のスタジアムも練習場もまだないので。 敦賀でのホームゲーム開催時には主に広報とかになりますが、クラブのサポートもさせていただいています。
2021年の天皇杯3回戦、大分トリニータとの対戦が福井開催と決まったとき、テクポート福井スタジアムのゴール前が荒れた状態でした。そのメンテナンスについて服部さんから相談されたのが、始まりですかね。管理者から当初は1ヶ月かかると言われましたが、木船さんが「1週間あれば治ります」と答え、指示書を書いてお渡ししました。管理者の方も頑張って作業してくれて、結果的に間に合いました。

ー 福井ユナイテッドと関わりどのような思いでいますか?
丸岡:福井ユナイテッドは福井に必要なチームだと思います。サッカー、プロスポーツが福井に根付いてほしいと思うし、率直に言えば、県外から選手が来てくれて、福井を背負ってもらっているだけで、もう感謝しかないんで、それは精一杯携わっていきたい、それだけです。もちろん選手と一緒に、JFL昇格、さらにその上のカテゴリーを目指すのは当然なんですけど。プロスポーツ不毛の地に来ていただいて、もう感謝しかないです。それだけ。だから、できることは精一杯やりたい。

木船:勝った負けたじゃないんです。負けてても別にいいって訳ではないし、もちろん勝って欲しいですよ。勝って欲しいけど、そういうことで応援するかしないかを決めるもんじゃないなと思っています。
子どもたちにも、自分達の街、福井には福井ユナイテッドがあるって。そういう風に言ってほしいなと思ってて。そういうクラブであってほしいし、関係でいたいなって思います。

丸岡:サッカークラブって、ほんまに地域に必要やなって思ってるんですよね。プロ野球と違って地域名が前面に出るっていうのが、サッカーの特徴じゃないですか。それが「福井県にない」って本当に残念でしかないんですよ。僕らが携わることによって郷土愛も生まれるし、子どもたちに見せることができれば、いつかはこのチームでプレーしたいって夢も生まれるでしょうし。 サッカーチームが地域にあるっていうことはほんまに必要なことですね。

2023.6.4 vs.JSC(ホームゲーム敦賀開催)

ー 福井ユナイテッドに期待することは?
丸岡:プロスポーツ不毛の地なんで。どうせなら他にはない地域との関わりを持っているクラブ作りをしてほしい。 Jリーグのチームだからこうやってるっていうんじゃない、他のスタンダードとは違う福井モデル的な、そんなチームになって欲しいですね。ただ、昇格は当然期待してます。

木船:いま私も営業を回らせてもらってるときに昨年のクラブ資料を出しているんですが、その中で地域貢献活動が年間350回以上していることを、この前訪問した某企業の社長さんは「そんなにやってるの?すごいことだよね、これは」って驚いていました。サッカーチームなんですけど、地域に必要な団体というか、必要なポジションとして”福井ユナイテッドがいます”っていうのはすごいことやなと思ってます。なんかそういう存在であり、憧れでもあるんだけれども、身近なチームでいて欲しい。今までのサッカーチームとか、選手って遠い人じゃないですか。そういう感じがしないのが、福井ユナイテッドのいいところなのかな。

ー 最後にCLUB GREENさんの夢は?
丸岡:広く言えば、プロを支えるプロになりたいですね。地元のプロスポーツチームを支えるプロとしてピッチ管理をしていく。もうひとつ、CLUB GREENで言えば、芝生が当たり前の環境、そういう感覚にみんながなってくれたらいいなっていう。芝生が当たり前の環境であれば、それが1番の夢ですかね、法人として。

木船:私たちは子どもたちの環境のためにっていうのは、大前提なので。 そのうえで、敦賀にスタジアムをとか、練習場、天然芝のグラウンドつくって、そこを管理するんだっていうのはずっと言ってきました。ただ、選手やある特定の人だけが使えるグラウンドじゃ意味がないなって思ってて。子ども達ももちろんだし、敦賀市の人も福井も小浜の人もみんなが使えるグラウンドをつくることを私は実現させたいです。

子供たちの健全育成に熱い思いを抱いている木船副理事長(左)と丸岡理事長

(ライター/細道 徹)