見出し画像

ビキナーズラック 阿波野巧也


雨があがってすべてのものが鋭くて夜の舗道に空き缶がある

雨上がりの外は澄んでいて、気持ちよかったり心細かったりする。


打ち切りになった漫画のことだって火花のように覚えていたい

うまく行かなったことだって、自分だけの大切なもの。


もう出ない蛍光ペンの筆先をざらざら押し付けながら会いたさは

なんでもない時に襲ってくる寂しさ。


町じゅうのマンションが持つベランダの、ベランダが生んでいく平行

自分と同じ瞬間に多くの人が生活しているという事実に気づかされて、ほっとするような、果てしなく感じるような。


本の帯をいためてしまう愚かさで暮らしていくだろうこれからも

大事なものを大事にしようとしない、どうしようもない自分がいること。


初めて短歌集を読みました。昔、図書館で詩集を借りたことはありましたが、固い印象があり、なんとなく興味が薄れて最後までは読めませんでした。

今回手にした「ビギナーズラック」。本の訂装が明るく、興味を引かれました。ビギナーズラックの意味は「物事の初心者がもっているとされる幸運のこと」

まさにこのタイトル通り。短歌の知識がないビギナーの私でもすいすいと読み進められました。そして読んでいる時間はとても豊かな時間で、幸運をもたらされた気持ちです。


掲載されている308首には

何かが目に写った時に感じる、その一瞬の感情が詩にされていました。


気持ちが敏感な時って何を目にしても
何かを感じ取ってしまいませんか?

それでは余計に疲れてしまうと分かっていても、感じてしまう。

私はそういう自分を
いちいち大袈裟だなあと、嫌にも思うし
美しく映る瞬間が多くていいことかもしれない、とも思います。


作者はたくさんの詩を読み、
その一瞬を捕まえていて。
短歌として詠み、残している。

作者がそのとき食べた感覚を
少し教えてもらっている感覚になりました。逆に、私が日々感じとる些細な一瞬に「分かるよ」と言ってもらえているような気分にもなりました。

私ももっと自由にnoteを書いて瞬間的な美しい日々を残したい、とも感じました。



誰が読んでも、どこかにひびくと思います。

梅雨時期の静かな日に読んでみてはいかがでしょうか。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?