そしてバトンは渡された 瀬尾まいこ

瀬尾さんのファンです。

会ったことも話したこともないけれど、小説を通して私に色んなことを教えてくれた、とても大切な人です。本屋大賞を受賞したこの作品の感想を書きます。3回は読んだかな。こんなに好きな本に出会えてうれしいです。


同じように、この本が好きな方や瀬尾まいこファンが読んで、「そうそうそう!!」と共感してくれたら嬉しいです。

「そして、バトンは渡された」
感想文

【あらすじ】主人公の優子。現在、高校生。優子の実の母は記憶がないくらい幼いころに亡くなっている。実の父との再婚相手、梨花さん。父と梨花さんは、職場で出会い結婚し、梨花さんは優子の母となる。梨花さんは自由奔放だが、優子を全力で愛してくれた。しかし、父の海外転勤をきっかけに2人は離婚する。

その後、梨花さんに付いて日本に残った優子には、泉ヶ原さんという父親ができるも、またもや離婚。梨花さんはまたまた再婚して森宮さんという父親ができる。そして今度は、梨花さんが家を出て行ってしまった。現在は、まったくの他人である、森宮さんと親子として幸せに暮らしている。

血のつながりがない親が出来ては去り、また出来るという複雑な家庭環境に身を置く優子。しかし彼女は愛に包まれて健やかに成長していく。

家族が変わっていった。子どもの頃にそんな体験をしたら、傷ついて、適応なんてできなくて。どこかで躓いてしまうような気がします。

だけど、優子は。今以上に大切なものなんてないと信じ、強く大人になっていけた。私が心打たれたシーンは、「優子が幼い頃に受け取っていたはずの、実の父からの手紙を見ないと決めた」場面です。すれ違った父との思い出があったとしても、それを取り戻そうなんてしない。

それは、その時、精一杯やってきた自分のことも、実の父のことも、血縁関係になくとも愛情を注いでくれる親たちのことも、信じている。だから、読まない。そんな風に映りました。愛と隣り合わせにある強さだと思います。

今年、私自身が結婚しました。父から夫に渡されたバトン。それは自分の手にも渡されたと思っています。私が育ってきた家庭、彼が育ってきた家庭。2人のこれまでが、これからの家庭を創っていく。

この本を読んでいると、つくづく思います。家族になるということは、特別なことじゃない。血縁関係の強さも見せつけられるけど、大事なのは日々の中で一緒にいること。


勉強に身が入らなくなった優子が、担任の向井先生に呼び出されて話をする、こんなシーンがあります。優子が「原因は、父である森宮さんとケンカしたことだ」と先生に伝えると、向井先生はこんな言葉を優子にかけてくれます。

「じゃあ、何が普通かはわからないけど、よくある親子関係なんて目指さなくたっていいんじゃないの?」向井先生は私の成績不振の原因がわかったからか、さっぱりした口調で言った。

「はあ・・・」

「一緒に住んでる相手と気遣い合うのは当然のことだし、それは、遠慮してるからだけじゃなく、お互いに大事にし合ってるからでしょう」

「そう、ですよね」

「きっと、こういうことの繰り返しよ。家族だって、友達と同じように、時々ぶつかったり、自分の思いを漏らしてはぎくしゃくして、作られていくんじゃないの?」

「そうでしょうか」

「森宮さん、いつもどこか一歩引いているところがあるけど、何かを真剣に考えたり、誰かと真剣に付き合ったりしたら、ごたごたするのはつきものよ。いつでもなんでも平気だなんて、つまらないでしょう」

一生懸命になって失敗してしまうこと、相手を思いやったつもりになって傷つけてしまうこと。私はそれを、取り返しがつかないことであると思っていました。


だけど、「それは自然なことでしょ?大丈夫よ。」と言われている気持ちになります。

そして、血縁関係になくとも、相手を思いやって一緒にいることが家族として大切なことだと教えられました。私は、複雑な家庭環境でなく、普通にとても優しい、実の両親の元で育ちました。

親だからといって、大いに甘えてしまっていることに反省しました。親だからOKで友達だから気を遣うなんてことは、甘えだと気づいたのです。きっと傲慢にも、親や家族を自分の一部のように思っていたのだと思います。当たり前にそんなこと、ないのにね。どんな関係であっても、相手には誠実でいたいです。


結婚をした今、まだ子どもはいませんが、家族となった夫と一緒にいて思います。嬉しくてあたたかくて。とてもじゃないけど、自分の体では受け止められないほどの光みたいなものをもらう瞬間があります。


誰かといるということは、めんどうくさい。分かってもらえなければ苦しく。自分の知らないところで想ってくれる人が居ると気づくと申し訳ない。

目の前にいる大切な人をまっすぐに見れているのか、確信がもてなくて自信がない。

だけど、確かなことがある。誰かと生活を共にすることは楽しい。いつもいつも楽しくなくていい。いつも明るくいられなくてもいい。優しい気持ちを交換し合っていられたら、大丈夫。

勇気をもって、誰かと家族になっていこうとすること。その温かさを教えてもらった本でした。


映画の感想も!

よく、本や漫画などの原作を映画化したものは、原作とは違った、残念だったという感想を聞くことが多いです。私自身、そう感じることもあります。
実際、映画「そして、バトンは渡された」も本の内容とは一部違うように描かれている部分はありました。

だけど、頭の中だけで想像していた優子が、森宮さんが、目に見えるかたちで現れて。そして、覚えるくらい繰り返して読んだ、本の中の言葉たちが映像と共に浮かびました。映像を見ているのに、私の中には本の文章も流れていて。鳥肌が総立ちするような、幸福を感じました。

改めて、本を読むことって、素晴らしい作品に出逢えることって、すごいことだと思いました。文章は、映像とは違い、受け取りたいように受け取り、想像したいように物語やそれに付随するものを想像できる。その作業がとても楽しいです。


でも映像は想像ではなく、同じものを誰かと共有できる。夫と一緒に映画館に見に行きましたが、めったに泣かない夫が泣いていました。夫と同じものを見れるのも嬉しいし、そこにいる人みんなと感動を共有出来ている気持ちになって、感動はより大きなものになりました。



きっとこれからも、何度も読み返すと思います。
こんなに心に響く本をかいてくださった、瀬尾まいこさんに感謝します。

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