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ここも京都!!山を越えた大自然の中、 1日1組限定の民宿がありました。

皆さんは「花背」という村をご存知でしょうか。京都市の最果てにある自然に囲まれたこの場所に、「花背ハイランドイン」という民宿があります。
なんだかホテルを思わせるようなネーミングですが、一体そこにどんな宿があるのでしょうか。
実際に行ってみてその実態に迫ります!

京都の奥座敷と言われている鞍馬。牛若丸や天狗伝説もある鞍馬寺は京都の出町柳から叡山電車で30分のところにある神秘的なお寺です。
山に囲まれた静かな環境は京都市内のまさに“果て”にあるイメージです。

しかし京都市内の果ては実は鞍馬が最終ではありません。まだまだその奥には知られざる京都の姿があるのです。
その一つが、今回ご紹介する宿がある「花背(はなせ)」という場所。
鞍馬からさらに車を30分走らせ、北山杉が続く大自然の中にある村です。

道路は対向車がギリギリすれ違うことが出来るくらいの悪路。カーブが多く、いくつかの峠を越えた先にやっと花背へと辿り着くことが出来るのです。こんな山奥にある人口100人ほどの田舎ですが、ここもれっきとした京都市内。スーパーはおろかコンビニもなく、あるのは日本の原風景とも言うべき里山の姿です。

そんな「花背ハイランドイン」を営むのは大阪出身の慶子さんと、スコットランド出身のサイモンさん。元々2人はオーストラリアのブルーマウンテンにてレストランを経営していましたが、日本に住む家族の介護の問題があり、日本に帰国することを決意。てっきり「花背」という土地は慶子さんにゆかりのある土地なのかと思っていたのですが、実は5年前インターネットで見つけて購入しただけなのだとか。築130年の日本家屋は約2年かけて改装、こうして1日1組限定の民宿をやられています。

なぜこんなド田舎の花背なのかと私は疑問でしたが、長いオーストラリア生活で自然の中での暮らしが好きになり、町での暮らしはもう出来なくなったのだとか。そんな彼らにとって花背の自然は理想的だったそうです。

それまでも長い間オーストラリアで暮らしていて、子供さんやお孫さんは向こうに残っているそう。大柄のご主人はかつてオーストラリアの一流ホテルで長年フレンチを作っていたこともあり、料理の腕前は確かです。ウェルカムスイーツでお菓子まで焼いてくださって、コーヒーと一緒に美味しくいただきました。

建物はかなり広く、小さな渡り廊下を通って奥のお部屋へと進んでいきます。途中の廊下にトイレや洗面所があり、奥の2階がベッドルーム、下がリビングになっています。純和室ですがソファもあって快適。山の中にあるため朝夕は特に冷えやすいのですが、薪ストーブや灯油ストーブもあるので冬でも暖かく過ごせます。

お風呂は一度玄関を出た屋外の建物にあり、丸い大きな信楽焼のバスタブを使用します。シャワーも2つあってなんだか大浴場のよう。浴衣が用意されているのでディナーも浴衣で頂くことが出来ます。

ただ、トイレへ行くのにいちいちその渡り廊下を通らなくてはいけないので少々不便な面もありました。また自然に囲まれた環境ゆえに虫が多く、特にこれからの季節カメムシが増えるのだとか。私が泊まった日も部屋に10匹近いカメムシが出て、都度ガムテープで捕獲していたので、虫嫌いの人は大変かもしれません。

オーストラリアに残ったお子さんやお孫さんのほかに、慶子さんとサイモンさんには一緒に暮らす家族がいます。それが柴犬の「ボス」(9歳)と、合鴨の「がっちゃん」(3歳)。ボスはかなり警戒心の強い性格なのか、玄関をくぐると「わんわんわん!!」と吠えてお出迎え。でも話しかけて撫でてあげるとすぐに大人しく馴染んでくれました。恰幅も良く、堂々とくつろぐ姿は名前に違わない貫禄もあります。この日は寒い日だったのでボスは暖炉の前でずっとウトウト。そのうちオジサンのようにいびきをかき始めてとても可愛かったです。

一方合鴨の「がっちゃん」はまるでアフラックのCMに出てきそうな可愛らしい姿。玄米とミニトマトが大好物と、食べ物の好みがまるでOLのよう。がっちゃんが庭でフンをするとそこからミニトマトが発芽するらしく、庭のあちこちにトマトの苗が生えていました(笑)
がっちゃんは元々合鴨農法のために家に来た子。本当は全部で42羽ほどいたそうですが、役目を終えた子たちは食用として出荷されてしまったのだとか。がっちゃんは運良くその時隠れていたため出荷されずに済み、そのまま家族として一緒に暮らしているのです。

しかし山の中の集落ということもあり、この近辺では度々野生動物の姿が確認されています。特にがっちゃんの天敵であるキツネはあっさりと塀の内側へと忍び込んでしまうらしく、がっちゃんは一度そのキツネに襲われて死にかけた経験があるのです。今は怪我も治り元気いっぱい!自分の寝床へとてくてく歩いて帰る姿が愛らしかったです。

先ほど少し述べたように、ずっと高級ホテルのレストランで働いていたと言うサイモンさん。そのため「花背ハイランドイン」でいただく食事はシンプルながら想像以上にレベルが高かったです。
昔ながらの建物ということで玄関を入ってすぐの場所に「おくどさん(京都の方言でかまどの意)」もあります。しかし長年使われていなかったせいでもうここでは料理出来ないらしく、料理はコンロで。

まず出てきたのは熱々のカボチャのスープ。サクサクのチーズパイ付きで、カボチャの優しい甘みが身体に沁みます。カボチャは一度ローストして作っているそうで、上にはバルサミコビネガーを煮詰めたソースを垂らしています。秋も本番で寒い夜でしたがスープを飲み終わった頃にはぽかぽかと内側から温かくなっていました。

次いで出てきたのはサーモンのムニエル。白ワインソースでさっぱりと仕上げていて、いくらのプチプチとした食感と塩味が良いアクセントになっています。こちらはオリーブの入ったパンと共に。ソースが美味しくてパンを浸けて無限に食べられそうでした。


そしてメインはポークフィレのベーコン巻き。がっちゃんのトマトで作ったチャツネと合わせていて、別皿にたっぷりのボイル野菜が盛られて運ばれてきます。これらは全て庭で育てている無農薬野菜だそうで、ジャガイモも「とうや」という滑らかで甘みのある品種を使用していて、チャツネとの相性も抜群です。


デザートも含めて4品ほどでしたが結構ボリューミーで十分お腹いっぱいになりました。まさかこんなに本格的な料理がいただけると思わなかったので大満足!朝食もご自身で焼かれたパン屋顔負けのクロワッサンなど充実の内容でした。


せっかく花背まで来たのなら、もう少し足を延ばして訪れたいのが「美山かやぶきの里」という場所。その名の通りかやぶき屋根の家屋が残っていることで有名な山間の集落で、まるで日本昔話の世界に飛び込んだかのような美しい風景が広がります。まるで白川郷のような家屋が並んでいて、京都にこんな場所があったのかと驚かされます。

また「花背ハイランドイン」から車で5分ほどの場所に峰定寺(ぶじょうじ)という重要文化財にも指定されているお寺もあります。その歴史は1154年までさかのぼり、多くの修行僧が訪れる厳格な場所。今回私は訪れませんでしたが、本堂へ行く場合はカメラの持ち込み禁止、私語厳禁など細かなルールがあるようです。

峰定寺は年に3回だけ御開帳されるのだそうですが、たまたまチェックアウトが御開帳の日と被っていたため、運良く仁王像や金剛力士像などを見学することが出来ました。
慶子さんはこの日峰定寺の寺の行事に参加していたのですが、まるでずっとこの地に住んでいる人間のように地元住民の輪に馴染んでいました。こうした村での生活で一番大切なことは、周りの住民との人間関係にあると思います。事実、サイモンさんもすっかり地域住民の人と仲良し。なんでもボスの散歩に行くと自然と話す機会もあるそうで、峰定寺への道中犬を連れた女性がサイモンさんに手を振っていたのが印象的でした。彼らのこうした温かで親しげな雰囲気があってこそ、このような良好な関係が築けているんだろうなと感じたのでした。

スーパーも無ければコンビニも無い。ともすれば「何も無い」と称されてしまいそうな花背ですが、今回実際に滞在してみて「ここでしか味わえないもの」の多さに気づかされました。それは動物とのふれあいであったり、ちょっと不便さすら感じるような伝統的な日本家屋での暮らしであったり、自分たちのためだけに用意された料理であったり。たった1泊という時間で様々な経験をしましたが、何より慶子さんとサイモンさんお二人の心温まるホスピタリティに感動しました。
名前も聞いたことのなかった「花背」という村でこんなに素晴らしい時間が過ごせるとは…!慶子さん、サイモンさん、ボス、がっちゃんありがとうございました!(2021年10月訪問)


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日本全国食べ歩きの旅をしています。