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バリア・ブンタウ省が海外の投資家にとって魅力的な投資先でありつづけるために:求む、需要応答(DP)に対応可能な省排出・省電力・省エネ企業またはエネルギー造出企業からの投資

2024年12月12日(木)、わたしの12月の10日間のベトナム出張の初日、ホーチミンシティー胡志明共産青年団機関紙(越字紙)「トゥオイチェー報」オンライン版掲載の「バリア・ブンタウ電力、省電力を心がけるよう顧客企業に呼びかけ」という、公共広告と錯覚するような内容の、ニュース・ビデオ・クリップを見た。登場する電力関係者たちはみな深刻な表情でバリア・ブンタウ省内の顧客企業に、電力の供給状況に応じて電力需要を制御するよう求める、需要応答(DP: Demand Response)呼びかけを行っている。これは投資誘致がうまくいきすぎたバリア・ブンタウ省ならではのビデオ・クリップなのだろうか。

 2023年時点のバリア・ブンタウ省全体の総発電容量は約7.32 TWh(テラワット時)だった。その電源構成はガス火力が主体であり、石炭火力は無く、風力や海上潮力発電は計画中で、ほかは非常に小規模な水力発電があるだけだった。投資が急すぎて電力供給の増量が追いつかないバリア・ブンタウ省の電力状況について、2024年4月23日付「ダイビエウ・ニャンザン報」(人民代表報:ベトナム国会機関紙)記事にこのような説明がある:「バリア・ブンタウ電力公司の報告書によれば、2024年の最初の3か月間にバリア・ブンタウ電力供給システム全体が受け取った電力出力は19億6,845万kWhであり、これは20​​23年の同時期と比べて12.1%の、2,467万kWhの増量にあたる。このうち、国家送電網から受け取った電力出力は 18 億 6,636 万 kWh で、これも6.27%の増量である。また、コンダオ島のアンホイ発電所で生産される電力出力は945万kWhで、19.66%増加した。太陽光発電の出力は、2023 年の同時期と比べて 7.17% 増加した。一方、今年の最初の3か月間の同省の商用電力出力は19億1,172万kWhで、20​​23年の同時期と比べて11.19%増加した。現在、バリア・ブンタウ省向けの主な電力源はミースアン、タンタン、チャウドゥク、ブンタウなどの各変電所と(ガス火力の)バリア発電所、フーミー発電所(日本のODAによる支援)である。バリア・ブンタウ電力公司の代表者らは、「建設投資事業の実施と送電網の整備の過程において、依然として多くの困難がある、具体的に、10件の110kV送電網事業は、建設用地の許可と補償の面で省人民委員会からの支援を緊急に必要としている」と述べた」。投資誘致に尽力してきたバリア・ブンタウ省にとって、企業や工場の活動に必要な電力が不足する事態はどうあっても避けたいだろう。

こうした事情を念頭に置くと、2024年12月16日付「ベトナムの声放送局・国際放送」(VOV WORLD)「バリア・ブンタウ省、選択的な投資誘致と環境保全の方針掲げる」(邦字(日本語)記事)において、バリア・ブンタウ省人民委員会グエン・コン・ビン副委員長(副知事)が語った、「今年(2024年)始めからバリア・ブンタウ省で実施されている57件の新規投資事業は、省の選択的な投資誘致という方針に沿うもので、ハイテク、グリーン産業、クリーンまたはグリーンエネルギー、再生可能なエネルギー開発の推進と環境保全に役立つ各事業である」という、選択基準とその理由が見えてくる。

VOV WORLD の記事に先立ち、2024年10月4日、ベトナム共産党中央執行委員会の理論機関誌「共産雑誌」に、バリア・ブンタウ省への投資促進に関する、筆名ヒュウ・ミンによる記事が掲載された。ヒュウ・ミン氏は11月にもバリア・ブンタウ省のとなりのビントゥアン省への投資促進に関する記事を「共産雑誌」に投稿しており、主に南部を担当する経済畑のテクノクラート/技術官僚・高級党員(とくに「共産雑誌」のような権威ある理論誌での発表業績が必須である博士論文を準備中の者)だろうと思われるが、現時点では実名は不明である。「共産雑誌」はイデオロギー理論誌であるが、以前から地方経済開発に関する投稿を積極的に掲載してきた。以下、訳出する:
 
ヒュウ・ミン「バリア・ブンタウ省が海外の投資家にとって魅力的な投資先でありつづけるために」
共産雑誌2024.10.04

投資計画省 外国投資局からの情報によれば、2024 年の第1四半期において、バリア・ブンタウ省は、海外直接投資 (FDI) の誘致が国内最大の15億ドル以上となる。2024年初め以来、バリア・ブンタウ省がFDI資本の「誘致」において国をリードしていることは、同省における行政改革、投資環境の改善、接続交通基盤事業(訳者注:ビエンホア・ブンタウ高速道路やブンタウ・ビントゥアン海岸道路)の加速などの方策が、機能していることを示す。国際的な投資家たちにとって、バリア・ブンタウ省は魅力的な投資先であるようだ。韓国、中国、日本等の外国企業による、多くの質の高い投資事業のおかげで、同省へのFDI資本は急増した。中でもフーミー町(富美市社)のフーミー2工業団地には投資金額7億3千万ドルの韓国ヒョースン(暁星)集団のBDO(訳者注:C4H10O2=ブタンジオール。プラスチックなどの原料となる有機化合物)バイオファイバー工場を誘致した。これは最新技術を使用して石炭ではなく粗糖からブタンジオールを製造する工場である。粗糖が石炭などの伝統的な原材料から完全に置き換えられることで、製造工程からの環境汚染を削減する。同省はまた投資金額2億5,000万ドルの台湾のプリント基板(PCB)メーカー、トライポッド(健鼎科技)集団の工場や、投資金額2億7,500万ドルの中国のディスプレイ・メーカー、BOE(Beijing Of East: 京東方)集団のベトナム・スマートターミナル(端末)工場など、多額の投資資金を伴う多くの事業を誘致した。現時点(2024年10月)までに、省内には1,157件の有効な企業投資事業があり、そのうち総資金330億ドル以上、465件のFDI事業があり、また総資金400兆ドン以上、692件の国内事業があって、30か国以上の国家・地域の企業や金融機関が投資を行っている(訳者注:ベトナムの2023年の国内総生産/GDPが4300億ドルだから、これはほんとうにすごい数字だ)。
*2023~2024年のバリア・ブンタウ省における外国大型投資案件は、「投資家報」2024.6.09記事などで概要を把握できる:

海外直接投資は、長年にわたり、バリア・ブンタウ省の社会経済発展過程において非常に重要な役割を果たしてきた。海外直接投資は、熟練した高度な人材の育成とともに、工業化と近代化に向けた省経済の再構築に貢献し、省内労働者により多くの雇用を創出する。それは省予算の重要な収入源であり、省内企業が国際市場に接続し、現代的な科学技術、高度な経営経験、産業の働き方を吸収するのに役立つ。バリア・ブンタウ省は、省内において同期的に進行する産業基盤整備・人材確保・行政改革実施と、その投資促進への(積極的な)動態により、毎年のように、国内のFDI誘致におけるトップ地域集団入りをはたしている。バリア・ブンタウ省当局の自己評価では、過去のFDI資金誘致における同省の成功は、投資とビジネス環境の改善に努めてきた省の取り組みが、多くの前向きな変化をもたらしたことを示すものという。バリア・ブンタウ省は行政手続き改革に特別な注意を払い、投資家にとって公開的で平等かつ透明な投資環境を作り出している。省人民委員会は投資誘致に関する主要政策をわかりやすく公表し、また、投資家たちが省内で事業を実施する過程での困難や障害を定期的に検討・総合し、投資法と関連規制の統一的な実施を指導し、障害を取り除き、この地域の企業、投資家、投資事業を効果的に支援するよう努めている。2023 年、バリア・ブンタウ省は、ベトナム全国の地方競争力指数 (PCI) で6 位にランクされ、経済経営の質が優れた省・市トップ 10 に入った。さらに、同省は環境配慮指数(グリーン指数、PGI)でも大幅な上昇を記録し、2022 年の 19 位から 2023 年には 8 位へと、11 ランク上昇した。これらの結果は、バリア・ブンタウ省の「地域の持続可能な開発目標」(グリーン目標)追求における努力を示しているが、課題もある。

バリア・ブンタウ省は、同省を投資先として選択する大規模投資家を迎えるために、以下の課題に取り組み、投資を行っている:
1.工業団地、工業クラスターの産業基盤の整備と拡充。

2,陸路(道路)、鉄道、水路の複合輸送体制や地域間接続の完成と同期化。とくにビエンホア・ブンタウ高速道路、バリア・ブンタウ環状道路4線、ティーヴァイ川にかけられるフオクアン橋、ブンタウ・ビントゥアン海岸道路等の早期竣工(訳者注:わたしたちのいまのホーチミンシティー~ブンタウ間の移動は基本的にフェリー(水路)である。なお、ロンタイン新空港とカイメップ港・ブンタウ港を接続する竣工まぢかのビエンホア・ブンタウ高速道路および海岸リゾートと港湾群をつなぐブンタウ・ビントゥアン海岸道路については、投資報2024.11.28記事が、2030年以降に、ほぼこれと平行して走る都市鉄道の計画があると報道していることに注意したい。鉄道用地の収用は、VietJoなどの邦字媒体でも報道もされた、道路用地収用の際の汚職官吏・地方ボス間の贈収賄等の不正の徹底的な摘発(ビエンホア~ブンタウ間高速道路、不正疑惑で警察が捜査、VietJo 2024.5.31)以降、道路用地収用と並行して、水面下ですでに相当進んでいる可能性がある)。
*投資報2024.11.28(投資報 Báo Đầu Tư と投資家報 The Investor とは異なる媒体である)

3.好調な投資誘致の進行状況を鑑みた工業団地計画の見直しと調整、土地資本の有効活用。現在、バリア・ブンタウ省には、総面積約8,511ヘクタールの15の工業団地群と、53の一般港兼コンテナ港群がある。その中には 13 の工業団地があり、電気、ガス、冶金、機械、造船、化学、建設資材、肥料生産など、多様な産業や職種で運営されている。(カイメップ港やブンタウ港等の)深水港湾群は船便による商品の輸出入に非常に便利である。また、フーミー3特殊工業団地は1,028ヘクタールであり、規模的にもベトナム随一の特殊工業団地である(訳者注:特殊工業団地(環境に配慮した産業集積並びに物流ハブ)は日本の国際協力機構(JICA)が計画段階から支援し、その拡充はバリア・ブンタウ省における地方起点経済成長計画(PBEG)と位置付けられている)。
https://www2.jica.go.jp/ja/announce/pdf/20160727_160510_1_01.pdf
https://www.jica.go.jp/overseas/vietnam/information/topics/2023/__icsFiles/afieldfile/2024/01/26/1529819.pdf

バリア・ブンタウ省は、今後、次の段階において4つの柱となるべき経済セクターを発展させるための投資誘致に重点を置く。第1の柱は港湾物流、観光、そのほかの高品質役務(サービス)。バリア・ブンタウ省は、持続可能な開発の観点から投資誘致政策を実施し続けている。同省の方針は、何が何でも投資を誘致するのではなく、最新の技術と高付加価値を備えた大規模事業の選択的な誘致を優先することである。第2の柱は加工・製造業。第3の柱は石油化学産業と風力発電設備製造業、第4の柱は環境保護に関連したハイテク産業、グリーン産業、クリーンエネルギー、再生可能エネルギー。バリア・ブンタウ省は、投資家たちに向けて、生産性、製品品質を向上させ、エネルギー消費を削減するために、チェーン・イノベーション活動と新世代生産技術を実施することを奨励する(記事はココマデ)。

ヒュウ・ミン氏のいいたいことを簡単にまとめるなら、バリア・ブンタウ省の目下の最優先誘致産業は、①ヒトとモノの移動にかかわるサービス業、②廃棄や排水を抑制し、二酸化炭素排出を最大限に抑える技術を完備した製造業、③④二酸化炭素排出を抑制し、電力・ガス等のエネルギーを大量消費せず、最大限抑制し、あるいはエネルギーを自ら作り出す製造業とエネルギー産業、となろう。であるなら、日本国環境省が支援する、脱炭素を目指す日本企業の「都市間連携事業」(日本工営、丸紅の事業やトロムソのバイオ炭事業等が好ましい実例としてガイドブックに挙げられている)や、OCAがいまバリア・ブンタウ省チャウドゥク県で進める有機・低炭素農業は、まさしくバリア・ブンタウ省にとって歓迎すべき投資事業と考えられる。
*環境省(2016)「都市間連携ガイドブック」
https://www.env.go.jp/earth/coop/lowcarbon-asia/project/data/jcm_guidebook_C2C_2020_JP.pdf

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