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2023-2024ベトナム高校ランキング:ベトナム高卒試験の高得点者たちはベトナムのどこの高校で学んでいるのか

ベトナム:普通バカロレア制度の国(2015~)
2024年12月10日、ベトナム/越南勧学会(Hội Khuyến học Việt Nam)の機関紙「ザンチー/民智報」(越字紙)に、「ベトナム高卒試験の高得点者たちはベトナムのどこの高校で学んでいるのか」と題する記事が掲載されて、ベトナム全国の高校(THPT)教員・生徒・保護者たちの注目を集め、またバリア・ブンタウ省の教育関係者らを少しがっかりさせた。2023-2024年度ベトナム高卒試験の最高得点者たちの中には、2024年7月18日のベトナム労働総連団機関紙「ラオドン/労働報」(越字紙)の記事「バリア・ブンタウ省の高卒試験首席得点者、グエン・ディン・トアイ君」が紹介するように、バリア・ブンタウ省から文系ブロック D01(数学、越語、英語)で受験し、これと歴史、地理、公民の六教科を合わせて最高得点57.3 点を獲得したバリア・ブンタウ・レークイドン英才教育高校(Trường Chuyên-場専)の生徒がいたが、「ザンチー報」記事はトアイ君の得点やバリア・ブンタウ・レークイドン高校には触れなかった。

https://laodong.vn/giao-duc/thi-sinh-co-diem-thi-tot-nghiep-cao-nhat-ba-ria-vung-tau-1368087.ldo

ベトナムの高卒試験制度は、南北統一・社会主義共和国成立(1976.7.02)以来、普通教育修了年限の旧南越の制度への統合(旧北越の10年制は廃止され、旧南越の五・四・三の12年制へ移行)、科挙以来の旧南越の「秀才」資格(12年制修了)の廃止と、その旧北越の「高卒」(普通中学卒業、旧北越では10年制修了)資格への統合など、大きな変更がいくつかあった。最近の改革として、2015年以降、高卒試験(Kỳ thi tốt nghiệp trung học phổ thông-普通中学卒業期試)と大学入試共通テスト(Kỳ thi tuyển sinh đại học-大学選生期試)が統合されて「国家普通高卒試験」(Kỳ thi Trung học Phổ thông Quốc gia-国家普通中学期試)制度、つまりフランス(仏国、華字紙表記は「法国」)の「普通バカロレア」に近い制度に移行したことが挙げられる。細部は大きく異なるものの、制度の概要としては、フランス統治期~旧南越期の「秀才」制度(高卒試験と大学入試を兼ねる国家試験制度)に戻った観がある。様々な事情で高校を卒業できなかった人々は、日本では高認(高等学校卒業程度認定)資格を取得して大学受験をする。ベトナムでは高認資格制度自体はないが、生涯学習の一つである継続学習の機関(継続教育センター, Trung tâm Giáo dục Thường xuyên-常穿教育中心)が全国各地にあり、高校課程(後期中等教育課程)をそこで修了し、高卒試験を受けて卒業・進学することができる。自由受験者(người dự thi tự do-自由与試人)と呼ばれる、高卒試験を複数回受験する浪人生も少なくない。現代ベトナムの学位呼称は、高卒=トゥータイ/秀才(1976年以降は正式な制度上の呼称は「普通中学卒業」)、大卒=クーニャン/挙人(学士)、大学院修了=タクシー/碩士(修士)、ティエンシー/進士(博士)のように、阮朝期ベトナムの科挙制度の学位・資格呼称を継承している。「国家普通高卒試験」成績(秀才成績)により、受験生たちが入学可能な大学は、自動的に決まる。高卒試験の成績(得点データ)は一部を除いて非公開のため、高卒試験の成績を基に偏差値ランキングを作成することは難しく、公式・非公式のランキング作成者たちはみな、①高卒試験高得点者や、②優秀高校生学力テスト(Kỳ thi học sinh giỏi-好学生期試)高得点者の在籍校データを集め、高校ランキングを作っているようだ。

日越教育制度・学位制度比較:
日本の科挙制度は菅原陳経(すがわらの・のぶつね, 1106)「菅家御伝記」(菅公御伝記、菅原道真公の伝記)等を参照。ベトナムの科挙制度はダオ・ズイ・アイン(Đào Duy Anh-陶維英, 1938)「越南文化史綱」教育の章等を参照。
https://rmda.kulib.kyoto-u.ac.jp/item/rb00011516
https://file.nhasachmienphi.com/pdf/nhasachmienphi-viet-nam-van-hoa-su-cuong.pdf
2023-2024ベトナム優秀高校生学力テストの最高得点者数に基づく高校ランキング:
ベトナム語(越語)で入賞・首席や選手権を意味するザーイ(Giải-解)も科挙首席合格者の称号「解元」に由来するか。緑で塗られているのは本表を公開した tiktok 作成者「こんにちのバクザン/北江省」地元高校6位。ハノイ・アムステルダム高校が1位、ホーチミンシティー・レーホンフォン高校が7位、フエ・クオクホク高校が12位、ダナン・レークイドン高校が17位、バリア・ブンタウ・レークイドン高校が29位。南方各省には十七世紀末のベトナム南方地誌であるレー・クイ・ドン(Lê Quý Đôn-黎貴惇, c.1776)「撫辺雑録」の著者名を冠した英才教育高校が多い。
https://www.tiktok.com/@bacgiangngaynay/video/7329113794003651842?lang=ja-JP

ベトナム高卒試験の高得点者たちはベトナムのどこの高校で学んでいるのか(Top thí sinh điểm cao nhất kỳ thi tốt nghiệp THPT ở những tỉnh thành nào?)
https://laodong.vn/giao-duc/thi-sinh-co-diem-thi-tot-nghiep-cao-nhat-ba-ria-vung-tau-1368087.ldo
以下、同記事を訳出する。

ハノイ/河内城舗、ホーチミンシティー/胡志明城舗、バクニン/北寧省、タイビン/太平省、タインホア/清化省、ニンビン/寧平省、ゲアン/乂安省などの各省市が、2024 年度ベトナム高卒試験の高得点者たちが学んでいる地域である。特にハノイでは、すべてのブロックで最高得点を獲得した受験者が多数学んでいる(訳者注:ホーチミンシティーの華字紙表記は「胡志明市」)。

2024 年度高卒試験の理系ブロック A00(数学、物理、化学の組み合わせ)の高得点者トップ200 名には、ハノイ27 名とタインホア27 名が含まれる。次いでタイビン23名、バクニン22名。ホーチミンシティーとゲアンにも10名以上の高得点者がいる。理系ブロック A01(数学、物理、英語の組み合わせ)の高得点者トップ200 名には、ホーチミンシティー40名が含まれる。次いでビンズオン/平陽省29名、ハノイ29名。ゲアン、ハイフォン/海防城舗、ナムディン/南定省、バクニンはそれぞれ10人名未満である。ホーチミンシティーは、理系ブロック A01のほか、理系ブロック B00(数学、化学、生物学の組み合わせ)の高得点者トップ200 名においても50名で、最大である。そのほかはハノイ20名、タインホア16名、タイビン10名。残りの省市からの高得点者は10名未満である(訳者注:科目としての「数学」は、記事原文では toán-算)。

文系ブロック C00(越語、歴史、地理の組み合わせ)では、バクニンの94名で 29.25 以上の得点した。そのほかは、ハノイ34名、ニンビン35名、ゲアン20名だった。このブロックのトップにはホーチミンシティーからの受験者はいなかった。文系ブロック D01(数学、越語、英語の組み合わせ)では、バクニンが59名を擁し引き続き首位であり、ハノイは41名で2位となった。ゲアンは20名、タインホアは11名だった(訳者注:科目としての「越語」は、記事原文では ngữ văn-語文)。

選択三科目の組み合わせにおいてトップ200 位以内の高得点を獲得した受験生の大部分が、ハノイ/河内城舗からの受験者で占められていた。これは主に 2 つの理由で説明できる。1 つ目はハノイにおける後期中等教育(高校教育)の品質が高いこと、2 つ目はハノイからの受験生が相対的に多く、国内の受験生の 1/10 を占めていることである。しかし、高卒試験の選択三科目の平均点を計算すると、ハノイは英語ランキングのトップ10に入るのみで、残りの科目のランキングはトップ10に入っていない。ホーチミンシティー/胡志明城舗も、2科目のランキング(数学と英語) でトップ10入りしているだけである。

ビンフク/永福省、ニンビン/寧平省、ナムディン/南定省のソンホン(紅河)デルタ三省は、(個別の科目で高得点者を多数輩出しただけでなく、)高卒試験の総合成績においてもトップ3となった。数学では、ナムディンの平均点が7.26 で首位、ビンフク5位、ニンビン6位となった。越語では、ニンビンの平均点が8.16 で首位、ナムディン4位、ビンフク9位となった。物理、歴史、公民、地理ではビンフクが首位となった。また、この4科目のランキングでは、ナムディンとニンビンがすべてトップ 10 に入っている。そして、化学、生物学、英語の3科目のランキングでも、この三省がすべてトップ 10 に入っている。ビンフクは高卒試験の全科目平均点でも首位となった。2位はニンビン、3位はナムディンだった。この三省に次いで4位に入っているのは、ドンナイデルタ(東南部)のビンズオン/平陽省である。この工業地帯の省は、越語を除く全科目でトップ 10 に入った。高卒試験選択三科目の平均点に基づくベトナム全国63省市の総合ランキングでは、ホーチミンシティーは20位、ハノイは22位にとどまった(記事はココマデ)。

ベトナム高卒試験の高得点者たちはハノイやホーチミンシティーのような大都市で学んでいる。しかし、平均点を見れば、均質的な後期中等教育(高校教育)を省ぜんたいに提供できているのは、ビンフク/永福省、ニンビン/寧平省、ナムディン/南定省の紅河デルタ三省と、ドンナイデルタの工業地帯・ビンズオン/平陽省といえそうである。ビンズオンと同じくドンナイデルタの工業地帯であるバリア・ブンタウ/婆地淎艚省(華字紙表記「巴地頭頓省」)やドンナイ/同狔省(華字紙表記「同奈省」)なども、均質的な教育を省ぜんたいに提供できているように感じるが、どうだろうか。以上。



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