バリア・ブンタウ省の集落観光(コミュニティーツーリズム):そう簡単な話ではない①
きのう~きょう(2025.1.23~24)、一般社団法人日本NFTツーリズム協会による「ツーリズム×Web3 フォーラム 2025冬季」がオンラインで開催されている。日本でも、現金、クレジットカード、全旅クーポンに続き、非代替性トークンであるNFT(non-fungible token:ブロックチェーン上に記録される一意で代替不可能なデータ単位)がツーリズム決済に用いられるようになってきたが、ベトナムでは日本に先駆けてNFT市場が急速に成長している。NFT取引は膨大な電力を消費し、環境負荷が増えるので、NFT決済利用者はカーボンクレジットを購入すべきという考え方があるが、ベトナムはそのさらに一足先を行く。ベトナムですでに始まっているNFT活用のカーボンクレジットこそ、これからの、環境にやさしい決済にふさわしいといえそうだ。そして、NFTを決済に使うツーリズムとして有望なものの一つが、日本では主に里山地域で行われている、集落滞在型観光(集落観光、コミュニティーツーリズム)である。温泉(Binh Chau hot spring)、砂浜(Vung Tau beaches)、神社仏閣と古民家(Nhà lớn Long Sơn)、灯台(Vung Tau lighthouse)の町ブンタウとその周辺地域は、誰が言い出したか、ベトナムの熱海と呼ばれる。熱海もブンタウも駐留米軍将兵の休息地だった。熱海の後背地が魅力あふれるジオパークであるように、ブンタウの後背に広がる里山(一部はほんとうに深山幽谷)の丘陵には、主に国内向け(ベトナム人向け)の観光施設がたくさんあり、集落観光の試行錯誤の歴史は古い。きょう・あす(2025.1.24-25)は、七年前、2018年10月に、バリア・ブンタウ省ベトナム共産党党部機関紙バリア・ブンタウ報に掲載された集落滞在観光記事2編と、2024.8.07付けバリア・ブンタウ省人民委員会公文第11162号(Công văn số 11162/UBND-VP)「バリア・ブンタウ省2025-2030年段階集落観光商品開発計画」添付付録の主要集落観光事業を見る。
参考:バリア・ブンタウ省が観光振興活動を多様化
集落観光はそう簡単な話ではない(1):咲いてもすぐに枯れてしまう
Phát triển du lịch cộng đồng: Không hề dễ! - Bài 1: Vừa chớm nở đã vội tàn
2018.10.24付けバリア・ブンタウ報記事
近年(2014-2017年)、バリア・ブンタウ省内のいくつかの地域で集落観光(コミュニティーツーリズム)が登場し、観光客を誘致し、一部の住民の生活を向上させる「新しい風」をもたらしている。しかし、このタイプの観光は現在まだ初期段階にある。それは自然発生的であり、たとえば先住民族の文化的価値を保存・振興する、環境を体験・保護する、などのような目的はなく、ただ単に明媚な自然の要素を利用するにとどまっている。
新しい風
スオイゲー羊牧場(Đồi Cừu Suối Nghệ, チャウドゥク県スオイゲー社ヒュウフオク/有福村)は四年ほど前(c.2014)に設立され、多くの人々により評価されている撮影スポットである。ここで放牧されている約200頭の羊の群れの所有者であるダン・ティー・ジエウ/鄧氏妙女史(ギアタイン社クアンタイ/広西村)は、元々村人から頼まれて牛、山羊、羊の飼育を請け負っていた。 2012年ごろから、食肉用の羊を飼育することで安定した収入が得られることに気づき、羊を購入して群れを育て、今に至っている。省東部のスエンモク/川木県(省道328号線)からチャウドゥク県を経由して国道51号線(省西部・フーミー/富美市社)までを結ぶフオクタン・ダバク・ホイバイ道路が完成すると、多くの観光客が行き来するようになった。道沿いで草を食むかわいい羊の群れを見て、立ち止まって羊たちと一緒に写真を撮り、それをインターネットに投稿する観光客が増えた。ソーシャル ネットワークの影響で、多く物見高い人々が訪れ、見学したり写真を撮ったりするようになった。こうして、ジエウ女史はビジネスチャンスをつかみ、銀行から3億ドン(1億ドン≒62万円として約186万円)を借りて羊の群れを200頭近くに増やし、写真撮影用の羊のレンタルサービスを、ひとり客2万ドン(1万ドン≒62円として124円)、40人以上の団体客一団10万ドンで始めた。2015年から2016年にかけて、毎日数組の訪問者が写真を撮りに来てくれた。 週末・土日の二日間や夏の三か月間は、訪問者数が増加した。千人近い客を迎えた日もあった。45人乗りのバスが、フオクタン・ダバク・ホイバイ道路の両側に1キロメートル近く駐車された。最盛期には1日200万ドン近いの収入があり、3億ドンの銀行ローンを返済しても、200頭の羊が残った。ジエウ女史のほかにも、ヒュウフオク村の羊放牧地には三つの羊の群れがあり、それぞれの群れには150~200頭の羊がいて、所有者たちは羊と一緒に写真を撮るサービスを行っている。羊を飼育している三世帯のうちの一世帯であるファム・ヴァン・コア/范文科氏(スオイゲー社ヒュウフオク村)は、2015年から2016年にかけて、羊や馬を顧客に貸し出すサービスで1日あたり100万ドン以上の収入を得た時期もあった。
チャウドゥク県では、2016年から2017年にかけて、ダバク噴水(Giếng Phun Đá Bạc, ダバク社)が新たな観光の目玉になった。ダバク噴水生態観光区の投資者であるクエッタン/決勝公司の代表レー・ティー・カム・ヴァン/黎氏錦雲女史は、家族が所有する10ヘクタールほどの土地では、20年近くにわたり、主にグレープフルーツ、マンゴー、ココ椰子、ハス(蓮)、スイレン(睡蓮)などを栽培し、豚の飼育、魚の飼育などによって清潔な食料源を確保し、自分たち家族が週末にくつろげるための場所をつくってきた。2015年、植物に水をやる水を得るために業者に頼んで井戸を掘ってもらっていたところ、偶然地下水源を掘り当て、高さ約20メートルに噴き上がる天然の間欠泉ができた。この間欠泉を利用して、彼女の家族は、食堂、景観用の池、写真撮影用のミニチュア、水の濾過システム、景観用の装飾、庭を緑化するためのマンゴーとココナッツの植栽など、いくつかの追加項目の建設に投資し、公園を観光客に開放した。ダバク噴水生態観光区は、開園当初は週末に多くの観光客が訪れ、果物園や、放し飼いの鶏や豚を楽しんだりしていた。 この場所は約20人の地元労働者に月500万~600万ドン(100万ドン≒6,200円として31,000~37,200円)の収入をもたらす定期的雇用も生み出していた。
しかし長続きはせず
2017年観光法(Luật du lịch 2017; Law on tourism)第3条第15項によれば、集落観光は集落の文化的価値に基づいて開発され、住民共同体によって管理され、開発の実施と利益の享受がなされる(越語原文:Du lịch cộng đồng là loại hình du lịch được phát triển trên cơ sở các giá trị văn hóa của cộng đồng, do cộng đồng dân cư quản lý, tổ chức khai thác và hưởng lợi;漢字転写:遊歴共同是類型遊歴得発展上基礎各価値文化之共同、由共同民居管理、組織開拓、享利)。それは資源的・環境的価値を持続的に保護する。この概念に基づき、省内の集落観光区(共同遊歴区)は主に自然資源、景観、先住民族の工芸品、地元の特産品などの価値を活用する。集落観光に携わる人々の中には、収益目標を達成し、収入を増やし、生活を向上させる者もいる。ナムタンかきいかだ/南勝牡蛎筏(Bè Hào Cá Năm Thắng, ブンタウ市ロンソン社第二村)の事業主リー・ドゥク・タン/李徳勝氏によれば、ナムタン牡蠣筏は2013年から現在まで営業しており、顧客数は非常に安定している。平日は5~7組の客を迎え、週末は20~30組、1日あたり200~300人の客を迎える。同様に、ドゥクニョー筏、ドゥクキー筏(ロンソン社第二村のラン川、チャヴァ川沿い)などの周囲の牡蠣筏も、養殖場を訪れ、海鮮料理を楽しむ観光客でいつも賑わっている。
しかし、自然の地形、景観、庭園の利点だけに頼り、先住民族の文化的価値を保存・振興する、環境を体験・保護する、などの(集落観光の中核的な意義への)深い投資を行わなかったためか、多くの場所では「人気」の時期が過ぎると徐々に顧客が減っていった。スオイゲーの羊牧場が有名になると、羊と一緒に写真を撮りに来る観光客が増える。客が増えると、道路脇に違法駐車し、交通妨害などが発生する。写真を撮る観光客に飲食サービスを提供するため、飲食店の屋台が自然発生してくるが、これらの屋台は必ずしも衛生設備が整っていない。一方で、観光客自身も意識が低く、ゴミをポイ捨てする。自由に放牧された家畜も環境中に排泄する。見た目もにも汚く、不衛生な状態が引き起こされる。羊の放牧地は(里山の集落内ではなく)「チャウドゥク工業・都市区」に属しているが、集落の外でビジネスを行う人々の一般的な悪癖として、日々の業務をこなすことに精いっぱいで、景観の再現やサービス態度への配慮を気にする余裕がない。また、羊牧場は請求書や書類なしで顧客に写真撮影の料金を請求するため、牧場主には利益をもたらすものの、地域の税収の足しにはならない。現在(2018年)、羊牧場での写真撮影はブームの時期を経て衰退傾向にある。写真を撮りにくる客がいない日もあると牧場主は嘆く。 観光客側も不満である。羊たちは適切な餌や世話を与えられていない。広い放牧地の中、観光客は写真を撮るためにあちこち歩かなければならない。やっと見つけた羊も、痩せてとても哀れな様子だ。畑の真ん中にある羊の放牧地は焼けつくような暑さか雨で泥だらけで見ごたえがないと、訪れていた観光客、グエン・ティー・ミン・グエット/阮氏明月さん(ホーチミンシティーから来訪)はいう。
2016年末、トゥーフオン・タッダオ(Tứ Phương Thất Đảo-四方七島、The Seven Islands)生態観光区(バリア市ロンフオク社フオクヒュウ/福有村)が開園した。庭園での果物狩り、ボート遊び、観光、庭園での食事など、さまざまなツアーが楽しめる。2017年は、ほぼ一年間を通じて、この観光施設は常に観光客で混雑した。週末や夏休みは事前予約しないで飛び込みで来た客には席が用意できない状態だった。ピーク時の収益は1日あたり3,000万VNDを超えた。しかし、現在(2018年)では、トゥーフオン・タッダオでは1日に数人の客が飲食するだけであり、設備も劣化している。 OSC VIETNAM TRAVEL代表グエン・ティー・トゥオン/阮氏傷女史は次のように回想する:「トゥーフオン・タットダオ開園当初、OSCトラベルは調査を行い、ツアーに組み入れることを決め、国内外の多くのグループをこの庭園に招き、果物、食べ物、田園経験などを楽しんでもらった。しかし、混雑がひどくなって、座席も食事も与えられないまま、1時間以上も待たされるようになり、ツアーをキャンセルし、顧客に謝罪し、補償しなければならない日がでてきた。 その後はツアーがキャンセルされる恐れがあるために団体の観光客をここに連れて来ることはなくなった」。ブンバク生態観光区(Khu Du lịch sinh thái Bưng Bạc, 同じくフオクヒュウ村)も、開園当初は、その景観と田園ならではのゲーム体験で、多くの観光客を魅了したが、現状は厳しい。
「チャウドゥク工業・都市区」の投資者であるソナデジ・チャウドゥク公司(Sonadezi Châu Đức)は、工業・都市区への投資誘致を促進するために技術・産業基盤を造成・整備中である。現在までに補償・整地が完了した土地の総面積は866ヘクタール、賃借・保留地の総面積は258ヘクタール、賃借工場面積は5,600平方メートルである。羊牧場主たちが(放牧地を越えて)工業・都市区の造成・整備中の土地を羊や牛の放牧に利用し、大勢の人々や車が集まることは、交通不安や治安上の問題を招き、投資環境のイメージを損ない、技術・産業基盤を造成・整備を遅らせている。われわれは各世帯に対し、工業・都市区から家畜を移動させるよう繰り返し要請してきたが、なかなか効果がないと、副代表のチュオン・タイン・ヒエプ/張清協氏はいう。
上記観光施設のほか、ここ数年バリア・ブンタウ省ではアボガドを植えるタイズオン/太陽農業合作社(チャウドゥク県サバン社)、メロンを栽培するハイテク農園ウデク・エコファーム(UDEC ECO FRAM:チャウドゥク県ガイザオ市鎮)、スエンモク県の果樹園群など農業に関連した数多くの体験観光モデルが開発されている(以下「集落観光はそう簡単な話ではない」(2)に続く)。