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2024年末~2025年初め、ベトナム産米価が急落:一方日本では米価急騰

供養米の季節、高級銘柄米ソクチャン ST 25 号は1キロ27,000ドン≒170円
まもなく旧正月(2025.1.29)である。「ヴアガオ・ボン」(Vựa Gạo Bông-穂の米蔵)など、バリア・ブンタウ省の大手米販売業者たちが、フーミー町のチュア・ホーファップ(Chùa Hộ Pháp-護法寺)のような省内の古寺名刹に大量の供養米を贈る季節である。ドンナイ川デルタ(東南部)にあるドンナイとバリアは美味い米どころとして知られ、阮朝初期、Trịnh Hoài Đức-鄭懐徳(c.1820)「嘉定城通志」によれば、当時の以北各府(北方各省)には「米飯はドンナイ/同狔・バリア/婆地がよい」(Cơm Nai Rịa-飯狔地)という諺があった。バリアはまた耐乾燥性に優れたインディカ米―占城稲の本場であるチャンパーと接し、その先住少数民族チャウロー人のインディカ在来種にはクメール稲と並んでベトナム最高の耐乾燥性をもつ品種 Koi Loi もある。2024年旧正月のバリア・ブンタウ省産の高級銘柄米(訳者注:メコンデルタ(西南部)ソクチャン/朔庄省でクメール稲やシャム稲から品種改良された)「ガオ・エステー・ハイムオイニャム」(Gạo ST 25)の店頭価格は1トン約1300アメリカドル≒32ミリオンドン(1.3 USD = 32,000 VND/kg)だったが、2025年1月現在は1トン約1000アメリカドル≒27ミリオンドン(1 USD = 27,000 VND/kg)で、若干安くなった。

一方、2024年11月25日付「日本農業新聞」記事、「米急騰2004年以来の高水準」は、2024年9月の日本の米の物価指数が前月から20.9 %上昇して120.1となったこと、120を上回るのは全国的な不作で米不足となった2004年以来20年ぶりであることを報道した。異例の民間輸入も始まっている。

日本の最高級銘柄米 魚沼産コシヒカリ(水稲農林100号)はお茶碗1杯44円
2024年11月の日本産高級銘柄の新米、たとえば新潟県産(魚沼産)コシヒカリ(水稲農林100号)の店頭価格はだいたい4,400円/5kgで、1トン約80万円≒5600ドルである(1/3合≒50g≒お茶碗一杯分で44円)。また、日本国農林水産省の発表資料 によれば、2024年11月の米の「相対取引価格」は、全銘柄平均で玄米1トン(くず米比率不明)約40万円≒2,540アメリカドルである。ベトナム産米価は、2024年12月25日付の越字紙「Market Times」(Báo Nhịp sống Kinh tế-経済葉弄報)記事、「ベトナム産米価が急落」によれば、輸出用の玄米1トン(くず米比率5%, 5% tấm)約7.5万円≒485アメリカドル≒12ミリオンドンである。日本で急騰、ベトナムで急落しているとはいえ、米の日越間価格差はすさまじく、店頭価格でも玄米価格でも、日本の米価はベトナムの5倍を超える。以下、「Market Times」記事を訳出する。

2022-2023年の米価の内外格差:
農林水産省(2024.3.25)「経営規模・生産コスト等の内外比較」より
https://www.maff.go.jp/j/council/seisaku/syokuryo/240305/attach/pdf/240305-79.pdf

ベトナム産米価が急落
https://markettimes.vn/gao-viet-bat-ngo-rot-gia-manh-72881.html

ベトナム食糧協会(Vietfood/VFA, Hiệp hội Lương thực Việt Nam-越南糧食協会)によれば、2024年12月23日現在のベトナム産くず米比率5%の標準価格米は、1トン485ドルで取引されている。くず米比率25%で459ドル/トン、100%くず米で388ドル/トンである。現在の価格では、ベトナム産くず米比率5%米は、同品質のタイ米より16ドル安い。また、くず米比率25%の価格も11ドル下落して459ドル/トンとなった。これは2023年5月以来、過去19カ月間で最低の水準となる。
https://vietfood.org.vn/wp-content/uploads/2024/10/bao-cao-thi-truong-gao-quy-iii-2024.pdf

2024年12月23日の越・泰・印・パ米価比較(USD/t)

ベトナム産米価急落の理由は、世界最大の米輸入国の一つであるフィリピン (比)(ベトナムの主要米輸出市場でもある)が、最近、冬春作物の収穫を待つために一時的に輸入を停止したことによる。分析者たちはまた、エルニーニョ現象の影響克服や国内生産強化をめざす政府の支援により、インドネシア(尼)やフィリピン(比)による各国からの米輸入も近い将来減少すると予測する。

世界市場では、豊作に伴い白米の輸出を解禁しパーボイル加工米の輸出税を撤廃するというインド(印)の最近の決定により(訳者注: Reuters 2024.10.22など報道)世界の米市場にインドからの供給が殺到するため、2025年の第1四半期においてはインド以外の輸出国の米価格がさらに下落すると予想される(訳者注:Parboiled は日本語でいう占城稲(チャンパー米=インディカ米)の「茹で干し」で、水漬けした籾を30~60分蒸し煮して、虫などに食われにくく、傷みにくくする加工をいう。インドなどのインディカ米生産国で行われる)
https://www.reuters.com/world/india/india-scraps-export-tax-parboiled-rice-boost-exports-2024-10-22/
https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010833606.pdf

ベトナムからの輸出は、2025年4月の冬春作物の収穫が始まる手前まで、すなわち2025年3月までの間、限定されたものになるとVFAは予測する。香り米(gạo thơm)の需要は、特にフィリピンやアフリカ向け輸出市場においては依然安定しているものの、供給量の増加とインド(印)やタイ(泰)との競争の激化により、白米価格もまた、2025年2月以降、さらに下落する恐れがある。米輸出におけるベトナムの主要な競争相手(ライバル)であるタイの米価見通しも、新米が市場に出回って需要が低水準にとどまる2025年3月から4月以降には下落すると予想されている。ベトナム農業農村開発省(MARD)の報告書によれば、2024年、ベトナムは米輸出の量と金額の両方で過去最高を記録し、生産量約900万トン、輸出額57億ドルを達成した。平均輸出米価格も1トン当たり600ドルを超え、過去最高水準に達した。過去 3 年間、ベトナムの米輸出の平均価格は最大 28% 以上という目覚ましい上昇を示し、輸出売上高はフタケタ成長を遂げている最中だった。
https://baocaovien.vn/tin-tuc/co-hoi-va-thach-thuc-cho-nganh-hang-xuat-khau-gao-nam-2025/162268.html

2024年、ベトナムは米輸出量でインドの1,700万トン、タイの1,000万トンに次いで世界第3位となった。市場の需要に応じた生産と取引(訳者注: 2024年1〜2月の越比両国政府間の米供給交渉などを指すか)によって2024年のベトナムの米輸出は上記の900万トンという記録を樹立した。米生産に関して、ベトナムの米生産農家らは「ビナシード公司 Đài Thơm 8」(訳者注:Đài Thơm 8 はジャスミンの香り8号の意。Vinaseed、本社ハノイ市ルオンディンクア通り)、「九龍江デルタ稲研究院 OM 18」(訳者注:Cuu Long Delta Rice Research Institute, 本部カントー市トイタン社)、「ソクチャン農作物品種センターSTシリーズ」(訳者注:Trung tâm Giống Nông nghiệp Sóc Trăng, 本部ソクチャン市リートゥオンキエト通り)など、国際市場で好まれている、高価格で経済効率の高い高品質米品種の生産に注力している(訳者注:Sông Cửu Long-九龍江はメコン川の越語名である。また、ビナシード公司本社があるハノイ市ルオンディンクア通りの地名は、第二次世界大戦中に京都大学に留学して博士号を取得し、日本人女性を妻として連れ帰った Sóc Trăng-朔庄省出身の稲及び農業遺伝学研究者 Lương Định Của(京都大学「南方特別留学生」名簿における漢字表記は梁定国)の名にちなむ)(記事はココマデ)。
https://www.researchgate.net/publication/327050855_jiuzhifuganggaoxiaonoliuxuesheng-nanfangtebieliuxueshengwozhongxinni-

越比両国政府間の米供給合意については、米国ワシントンDCに編集部がある国際外交雑誌「ザ・ディプロマット」2024.2.07記事による分析がある。備蓄が十分あるにもかかわらず、2024年12月に一時的に輸入を停止するまでフィリピン(比)がベトナム(越)から大量の米輸入を続けていた現象については、2024.10.03に米国農務省対外農業局(FAS)から台風被害による不作予測によるものという見解が出され、「ベトナムプラス」2024.12.10記事(英語版)など越国内の複数の媒体でも報道された。米価急落は、上り調子だったベトナムの米生産農家には残念なことである。以上。


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