おばさんはおじさんに笑わされる
サイエンス(再生医療)
家のおじさんは、「いまからサイエンス」という科学番組が好きだ。加藤浩次がMCで日本の凄いサイエンティストの業績を紹介する番組だが、堅苦しくなくてイイ。また、科学者と加藤の会話も知的コントという感じで楽しい。
今日のサイエンティストは、おじさんの関心事である毛髪の再生医療の権威、横浜国立大学の福田淳二教授だった。
おじさんの髪は、30代後半から薄くなり、宣教師ザビエル、サッカーのアルシンドと変化し、現在はサザエさんのお父さんなっている。
この放送をおじさんは、予告から楽しみにしていて、ビデオで録画しているのに、わざわざオンタイムで見るほどの熱の入れようだった。
おばさんは物見遊山でお付き合いした。
番組はいきなり面白かった。
「よくワカメ食えっていうじゃないですか。あれってあたっているんですか?」と加藤。
「多分、科学的エビデンスはないと思います」と教授。
「ないんだ」と加藤。
「ないんだ」とテレビに参加するおじさん。
(笑、笑、笑、悩んでいる人に申し訳ないが声を出して笑えないのは苦しい。)
「髪の毛っていうの本当に今、芸能界とかで(育毛薬)飲んでる人結構多いんですよ」と加藤。
「え、飲み薬があるんだ」とおばさん。
「知ってる、静かに!」とテレビに集中するおじさん。薬はリサーチ済みのようだ。
「なぜ脱毛症になるのかというメカニズムがわかってきたので、そのメカニズムに合わせて作られた薬が世の中に広がったので、ある程度進行を止めたり、若干ですけど、失われた髪の毛がまた元に戻ってくる。そうゆう事が男性型脱毛症と呼ばれる患者さんに利用できる」と薬について説明する教授。
「やっぱり若干戻るだけか」とおじさん。
知ってるだけでなく使った疑いがある。おば友に報告だ。
「男性型脱毛症の人は男性ホルモンが影響して脱毛がどんどん進行していくので」と教授。
話が本題に入って真剣さを増すおじさん。
「髪の毛の位置によってホルモンが違うんですよね?」と加藤。
「ホルモンに対する感受性が違うんですね」と教授。
「感受性だったのか」とおじさん。
「人によっては前の方あるいは頭頂部は(男性ホルモンに対して)感受性が強くて、そこからどんどん進行していってしまう」と教授。
「俺って感受性が強かったんだ」となぜか少し嬉しそうなおじさん。
(笑、笑、笑)
教授が男性型脱毛症の原理を説明する。
「髪の毛自体も細胞の死骸からできているような物ですけれども」と教授。
「髪の毛は細胞の死骸なんだ。えーこれ一本一本って細胞の死骸なんですか!」と驚く加藤。
「死骸なんだ」と呟くおじさん。
「髪の毛はもともといわゆる毛周期と呼ばれる生える周期があります。髪の毛は、例えば頭部の毛包組織で有れば5年とかそういったスパンで、1回伸びて来たものが5年たつと抜け落ちて、また新しく準備をして、また伸びはじめてということをずっと繰り返している。平均すると5年くらいで1回抜け落ちて、また新しく作り直してという事を同じ毛包がづっとやっている」
「同じ毛包組織なのか」と仕入れたばかりの用語を呟くおじさん。
「男性ホルモンが頭皮にやってきた時に、例えば前頭部でそういった変化を起こす酵素が沢山あると、そうすると男性ホルモンの刺激を沢山先程の指令を出す毛乳頭細胞が、凄くその刺激を受けまして、そうするとあっ毛周期がもう終わりだと認識をして、」と教授。
「勝手に5年持つはずなのに」と加藤。
深刻そうな顔をするおじさん。
(笑、笑、笑)
「それが1年未満というもっと早い段階で、まだ毛が充分に、毛包組織が充分に大きく成長する前にもう終わりの信号が来てしまって、髪の毛が抜け落ちて、また新しい毛周期に入りましょうということになって、これがドンドン繰り返えされると充分に大きく成長する前に、抜け落ちてしまうのでどんどんどんどんミニチュア化というか、髪の毛を作る毛包組織というものが小さく小さくなっていくという事が起きるということですね。それが男性型脱毛症の原理だというふうに理解しています」と教授。
「毛包細胞のミニチュア化か」と全てを理解した風のおじさん。
「毛髪の再生医療とはどういった形のアプローチですか?」と加藤。
「そうですね。私たちは髪の毛がどうやって作られているのか考えて、身体は細胞でできているので、薬を使って治療するのではなく、細胞そのものを使って治療するというのが再生医療でいう考え方ですけれど、それを髪の毛に応用するということです」と教授。
「素晴らしい」とつぶやくおじさん。
(笑、笑、笑)
「脱毛症の患者さんのもし前の方が抜けたとしても、まだ後ろには髪の毛を作る細胞が有りますので、それを取り出しまして、培養系列を沢山増やして、例えば10本引き抜いたらそれを1000本分ぐらいに増やしてその細胞を使って脱毛部の治療をするというそうゆう治療方法をテーマにしている」と教授。
「10本も抜くのか」とおじさん。
(笑、笑、笑)
凄いことに、毛髪の再生技術は、すでにマウス細胞を使った実験では発毛技術が確立されており、4、5年ぐらい先には普通にクリニックで治療ができるようになるという。
4年かとおじさんが呟いた。費用は300万から500万かかると言っていたが真剣に検討している様子。そこまで髪の毛が欲しかったとは知らなかった。しかし、禿げの進行が進んでいる人ほど毛髪の本数を必要とする。もしも一万本を必要とするならば、おじさんは100本もの髪の毛を抜かなければならない。実現は難しそうだ。
番組が終わってひと息ついたおじさんは、俺は人より繊細だったのかと言ってちょっと幸せそうな顔をした。男性ホルモンへの感受性が強いだけで、何故そのような結論になるのか。しかし、おばさんは、間違いを正すことなく、希望で胸が膨らんでいるおじさんをそっとしておいた。さあ、おば友を召集して報告だ。
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