【通学カバンを科学する】#3 軽く感じる!『楽ッション』誕生秘話。
ランドセル国内製造販売本数No.1※ブランド『フィットちゃん』の魅力を伝えるnote。#3では、代表の橋本と開発担当の安井&發田が『楽ッション』の誕生秘話をご紹介します。
左/橋本 昌樹(はしもと まさき):ハシモトグループ代表取締役。2021年に就任。
中/發田 恭生(ほった きょうせい):2017年入社。企画開発担当。
右/安井 紘一(やすい こういち):2010年入社。企画開発担当。
【通学カバンを科学する】#1〜2はこちら▼
#1 私たちがつくっているのは、道具としてのランドセルではない。
#2 100メートル先まで存在を知らせる!『安ピカッ』誕生秘話。
1.肩ベルトを構造ごと変える
−まず『楽ッション』の概要と、開発にいたった経緯を教えてください。
橋本:『楽ッション』は、クッション材の厚みが従来品と比べて2倍以上あり、鎖骨から大胸筋へかかる圧力を約30%軽減する肩ベルトです。開発のきっかけとなったのはお客さまの声で、ラン活が終わったご家庭にアンケートを取ったところ、「ランドセルに今後求める機能は何ですか?」という項目で、圧倒的に多かった回答が「さらに軽く感じる機能」だったんです。
−近年ではランドセルの重さで心身に不調をきたす「ランドセル症候群」も話題になっていますね。
橋本:2011年に「脱ゆとり教育」に転換してから、教科書のページ数や教材の数は年々増え続けていて、同時にランドセルに軽さを求める声もここ数年で一気に増えました。ただ、ランドセルそのものをいくら軽くしても、中身以上に軽くすることはできません。そこで我々は“いかに軽く感じられるか”というポイントに着目して、新しい肩ベルトを開発することにしました。
−どんな風に進めていったのでしょうか?
橋本:まず最初は、単純に肩ベルトのクッション性をアップすれば軽く感じるのではないかと考えました。でも、サンプルを背負ってみると私たちが期待していたような背負い心地ではなく、これではダメだということで、一度プロジェクト自体が頓挫しかけたんです。それでも諦めきれずに、色んな書籍を調べて、専門家を訪ねた結果、「メガネ型」の構造だったら軽く感じられるかもしれないという結論にいたりました。
−「メガネ型」とはどんな構造ですか?
橋本:左右が盛り上がっていて、断面がメガネのようになった形状です。なぜそれがいいかというと、カバンを背負って右足、左足と前に出して歩くことで重心が左右にぶれるのですが、両端にクッションがあることによってその負荷が均一になるんです。でも先程お話ししたように、ランドセルの肩ベルトは左右が縫われているので、メガネ型にするのは不可能なんですよ。それで安井さんに相談したら「肩ベルトの構造自体を変えれば可能かもしれません」と。そこから本格的に開発がスタートしました。
安井:アイデアと構想は社長と話した日にはすでに固まっていたので、すぐにプロトタイプを製作して見てもらいました。1週間後くらいだったかなと思います。
−展開が早いですね!構造から変えるとなるとかなり難しそうですが…。
橋本:安井さんは服飾系の専門学校出身で、自身のレザーブランドを手がけた経験もあるので、引き出しが豊富だし、縫製の技術も高いんですよ。私からは色々と無理難題を言いつつも、技術的にはお任せする形になってしまったのですが、初回ですごくいいものが上がってきて感動しました。
2.量産できなければお客さまには届かない
−ではプロトタイプから大きく構造は変わっていないということですか?
安井:そうですね。もうこれしかないなっていう感じだったので、アイデアに関してはすぐ浮かびました。なので、量産にいたるまでの微調整の方が大変だったと思います。そこからは發田さんが頑張ってくれて。
發田:いや、まず安井さんの治具のアイデアがすごかったんですよ。あれを治具でやっちゃおうという発想がまずない。
−どういうことでしょうか?
發田:治具というのは縫製や加工作業を補助する道具のことで、例えばミシンの押さえなどを指すんですけど、メガネ型の構造にするためには、縫って、返して、くるむという特殊な縫製になるので、治具メーカーさんも困ってしまったんですね。そこで安井さんがアイデアを出して、メーカー側に提案したことで、これまでにない治具が生まれたんです。ランドセル業界はもちろん、カバン業界としても画期的なものだと思います。
橋本:この治具が量産化にも大きな役割を果たしました。安井さんと同じく、發田さんもバッグメーカー出身で縫製能力が高いんですよ。でも量産するためには、この二人だけではなく、どの職人が手がけても同じ品質を保てる工程にしないといけない。いくら素晴らしいアイデアが生まれても、量産できなければ広くお客さまに届けることはできないんです。
−その他、量産までにはどんな苦労がありましたか?
發田:その治具をミシンにセットしてからが私の役目だったんですけど、ミシンの調整にはかなり時間がかかりました。例えば一度縫ったところをもう一度縫うという工程があるんですけど、同じところが縫えずにズレちゃったりするんですね。ズレないようにスポンジをくるんでいる生地を強く押さえると、ミシンの動きを邪魔して変なステッチになってしまったり。この場に参加するにあたって、過去の図面を見返してみたんですけど、パーツによっては6回もやり直している箇所がありました。ただ資料が残っていないような細かい修正もあるので、そう考えると6回では済まないかもしれません。
橋本:發田さんは徹底した現場目線を持っているので、量産という肝の部分を安心して任せることができました。
發田:確かに現場目線は大切にしていますね。製造上の問題が何も起きないことが量産の大前提なので、抜けやミスのないよう、常に細部まで目を配るようにしています。
3.使い手のことを考えた製品づくり
−量産までの道のりも含め、開発期間はどれくらいかかったのでしょうか?
發田:安井さんのプロトタイプが今の形になるまでに1年かかっていて、トータルだと2年くらいかかっていると思います。
安井:自分でも完成品を背負ってみたんですけど、もう別次元に軽くて驚きました。プロトタイプを出したのは自分ですが、実際に製作してくれたのは發田さんはじめ工場のみなさんなので、本当に感謝しています。
橋本:よく覚えているのが、社員のお子さんたちを対象にモニターテストを行ったのですが、協力してくれた子の一人が「前のランドセルに戻したくない」と言ってくれたんですよ。お母さんに「このまま6年生まで使ってもいいですか?」と聞かれた時には、やった!と思いましたね(笑)。
發田:背負った時の軽さはもちろん、手に取った時の質感も全然違いますよね。従来のものもクッション性は十分しっかりしているのですが、『楽ッション』と比べるとどうしても薄く感じてしまいます。
橋本:フチの部分が裏の生地でくるまれているので、からだに優しくフィットするのもポイントです。子どもの体型によっては肩ベルトが首に食い込んでしまう場合もあるのですが、『楽ッション』ならその心配がありません。またバイカラーの見た目もオシャレでいいなと思います。いくら背負い心地がよくても、デザインがよくなければ子どもたちも使いたくないですよね。
安井:使い手にいいと思ってもらえるのが私たちの仕事だと思います。使われなければ、それは製品ではなく、ただの“モノ”なので。お客さまにも気に入っていただけてよかったです。
橋本:ランドセルの機能は時代とともに進化していますが、構造自体を変えたのはここ最近ではかなり珍しいと自負していて、ランドセルの常識を変えたと言っても過言ではないと思います。発売して3年目ですが、おかげさまで売り上げも驚くほど伸びていますね。ちなみに『楽ッション』の名付け親も安井さんなんですよ。ここ数年、新製品のネーミングは社内公募で決めているのですが、子どもたちにとって親しみやすく、すぐに覚えられて、聞いただけで機能がわかるという条件を提示したところ、安井さんがサラッと出してくれました。
安井:どう決まったか、正直よく覚えていないんですよね(笑)。「わかりやすく『楽ッション』とかどうですか?」くらいの感じだったような…。
−本当にサラッとされていますね!
橋本:クールなアイデアマンなので(笑)。
4.もっと多くの子どもたちに『楽ッション』を
−その他、『楽ッション』の新たなトピックスはありますか?
橋本:『楽ッション』を使っている弟さんや妹さんを見た上のお子さんから、自分の肩ベルトも替えてほしいという声をちらほらいただくようになったので、数量限定ではあるのですが、可能な範囲で付け替えサービスを実施しました。全3回の枠のうち、1回目と2回目はすぐに埋まり、今年の3月に行う最後の3回目もほぼ埋まっているような状況です。
−それだけ背負い心地やデザインが子どもたちに響いたということですね。なぜ数量限定なのでしょうか?
發田:量産化したとはいえ、『楽ッション』の工程は手間のかかるもので、従来の肩ベルトの1.5〜2倍の製作時間を要します。毎月の生産量のキャパシティが決まっている上、販売本数も伸びているので、なかなか付け替え用に十分な数を用意できないというのが現状です。継続的なサービスの提供は正直難しいところではありますが、お客さまのニーズに少しでも応えたいと思い、今年度は特別に対応させていただきました。
橋本:今後は『楽ッション』搭載のラインナップをさらに拡充していきたいと考えています。より多くの子どもたちに背負ってもらえるように、できる限りの生産体制を整えていくつもりです。
−子どもたちの選ぶ幅がまた広がりますね。新たなラインナップも楽しみにしています!