vol.4 真実はいつも一つとは限らない~腕利きの探偵が必要になった時に聴く音声~
探偵小沢 覆面太郎弁護士 サウザーの白熱教室
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※試聴版。オリジナル版(57:14)は購入後に視聴可能。
第四話(全六話)
この第四話では探偵業界のリアルについて語っていきたい。第三話の紹介文にて、探偵は決してファンタジーな存在ではないと述べた。赤い蝶ネクタイの少年はいないし、パイプ煙草を咥えた英国紳士もいない。しかしながら、今なお確実に存在している。
探偵社というものがある。
彼らは何十~何百人の社員が組織となり、法人化して事務所を持っている。探偵社なので当然、尾行などをする現場の調査員がいるのだが、そのほかにも契約を司る営業マンもいるし、写真や動画を編集する部署もある。そしてそれを報告書の形に編集する担当者も別に居て、入金を確認する経理部隊もある。そう、探偵社といっても、普通の会社なのである。対象者の行動を調査するというサービスを売っている、会社なのである。マッサージ店や美容院、塗装業者と何ら変わりはない、「調査」というサービスを売るイチ業態なのだ。ただ、取り扱うものが人のプライバシーであるという点が、特殊なだけで。
探偵社は昔から存在した。かつて固定電話しか連絡手段がなかった時代にはタウンページにその電話番号を掲載し、人の目に触れる駅や街中にポスターを貼った。インターネットが普及した今ではネット広告が主力となり、さらに最近ではSNSでの発信もある。
探偵というサービスは、基本的に反響営業、インサイドセールスである。売る側が積極的に営業して案件獲得するものではなく、消費者の側がサービスを求めて探し出してくる形態の商売だ。そのため、いかに発見してもらうか?問い合わせをしてもらうか?が重要なポイントとなる。探偵業の生命線と言ってもいいだろう。そのため探偵社は以前から、多額の広告費を注ぎ込んできた。万人が必須とするサービスではないので、その成約率はとても低い。そのため数で勝負せざるを得ない。月に何千万円もかけて広告を打つ。そうして依頼者(クライアント)を獲得して、ようやく探偵社の仕事が始まっていく。
探偵社は、「調査」というサービスの提供が業務である。ここは留意が必要だ。
依頼者は多くの場合、「自分が望む証拠を取ってくること」が業務であり、それに対価を支払うのだと勘違いしがちだ。しかし探偵社はあくまでも「調査」というサービスを提供し、その対価を頂くとしている。そこにクライアントが望む成果を入手できるか?というのは実は関係がない。成績アップを目的として学習塾に入って授業を受けても、望む成績まで達成するかどうかはまた別の話であるのと同じことだ。塾は「授業」というサービスを提供することは約束するが、そこから先の成績アップに関しては請け負わない。正確には、請け負えない。探偵社もこれと同じ構造をしている。
探偵社にとっての戦いは「有効な証拠を最短の手順で入手する」のように思える。が、実はそうではない。彼らの戦いは「いかに多くの調査費用をクライアントに支払っていただくか?」である。もちろんクライアントが望む証拠の入手も戦いの一つではある。クライアントはそれが欲しくて探偵社に問い合わせたのだから。そして探偵社は「努力します、できる限りのことをします」という。しかしながら、そこに成果(=証拠の確保)への請負が無いのは先述の通りだ。ただ、決まった単位の時間や人員を投入して、指示のあった場所で調査という名目の作業をする。それが空振りに終わっても、うまく証拠が取れても、実は探偵社には報酬が増えるわけでもないーーいや、むしろ、証拠を確保してしまったらクライアントは満足して「お世話になりました。ありがとう」と去ってしまうだろう。これはクライアントにとっては良いことなのだが、探偵社にとっては微妙なところだ。そう、実は探偵社とクライアントには利益背反の関係性があるのだ。
「浮気調査が良いところまで行ったけれど、あと一歩のところで見失いました。」
「次こそは必ず…あ、もう契約した時間パックが残っていない…ぜひ追加調査パックの検討を…」
これが探偵社のジャスティスであるし、違法なことは全くない。探偵社はサービスを提供して、その中身に満足する/しないのレベルの話である。先ほどの例の場合、もちろんクライアントは怒って良い。なぜ失敗するんだ、とか余計な費用がかかりすぎる、とか、怒って良い。そして怒って立ち去って、もう使わなければ良い。別の探偵社を探しても良い。もしこれが他の一般的なサービス、たとえば美容院であればその腕前が気に入らなかったら、もう行かないということが当然かと思う。
しかし探偵の場合は、そうもいかない。
なるべくならば誰にも言いたくもない秘密を打ち明けて、対象者に内密に調査をし、幾ばくかの情報が断片的にでも手に入っていたら、もう後には退けなくなる。また、別のところにイチからお願いする苦労も脳裏をよぎる。そのため、追加費用を支払って、継続をする。これは探偵というサービスが持つ特殊性だ。また、探偵を使うという時点でクライアントは大変困っており、藁をも縋る思いでネット検索して辿り着いた探偵社に、もはや頼り切る他ない。これを探偵社も、わかっている。
探偵社にとってはクライアントの依頼内容を、なるべく延ばし延ばしにして、支払える限りで搾り取ることが最適解となる。言い方は悪いが、食い物にしてしまう。これは善悪を別にしたら、ビジネスモデルとしては大変有効であると言える。違法でもない。顧客の弱みを知り尽くしているが故の、計算されたビジネスモデルだ。何よりも、クライアントが弱っている状態で正常な判断が難しい商材であるというところが難しい。
今では独立し、私立探偵して活動している小沢さんも駆け出しの頃は探偵社に所属していた。その中で、探偵社というもののビジネスモデルの実態を知った。上述のように、弱って困っているクライアントの生き血を、細く長く吸い続けることが一種の最適解である探偵社というビジネスモデルがまかり通っているこの現状に、ただひとり抗ってみようと思い独立した。
困っている依頼者を、ひとりのヒトとして助けたい。自分の能力を最大限に活かして、貢献をしたい。そのような「俠」の心意気でもって依頼を請ける。クライアントと一心同体で取り組む。依頼者と利益背反をしたくない。職業人として「探偵」をしたい。
そこには「生業」のひとつのカタチがあった。
つづく
ヤコバシ著
この第四話では探偵業界のリアルについて語っていきたい。第三話の紹介文にて、探偵は決してファンタジーな存在ではないと述べた。赤い蝶ネクタイの少年はいないし、パイプ煙草を咥えた英国紳士もいない。しかしながら、今なお確実に存在している。
探偵社というものがある。
彼らは何十~何百人の社員が組織となり、法人化して事務所を持っている。探偵社なので当然、尾行などをする現場の調査員がいるのだが、そのほかにも契約を司る営業マンもいるし、写真や動画を編集する部署もある。そしてそれを報告書の形に編集する担当者も別に居て、入金を確認する経理部隊もある。そう、探偵社といっても、普通の会社なのである。対象者の行動を調査するというサービスを売っている、会社なのである。マッサージ店や美容院、塗装業者と何ら変わりはない、「調査」というサービスを売るイチ業態なのだ。ただ、取り扱うものが人のプライバシーであるという点が、特殊なだけで。
探偵社は昔から存在した。かつて固定電話しか連絡手段がなかった時代にはタウンページにその電話番号を掲載し、人の目に触れる駅や街中にポスターを貼った。インターネットが普及した今ではネット広告が主力となり、さらに最近ではSNSでの発信もある。
探偵というサービスは、基本的に反響営業、インサイドセールスである。売る側が積極的に営業して案件獲得するものではなく、消費者の側がサービスを求めて探し出してくる形態の商売だ。そのため、いかに発見してもらうか?問い合わせをしてもらうか?が重要なポイントとなる。探偵業の生命線と言ってもいいだろう。そのため探偵社は以前から、多額の広告費を注ぎ込んできた。万人が必須とするサービスではないので、その成約率はとても低い。そのため数で勝負せざるを得ない。月に何千万円もかけて広告を打つ。そうして依頼者(クライアント)を獲得して、ようやく探偵社の仕事が始まっていく。
探偵社は、「調査」というサービスの提供が業務である。ここは留意が必要だ。
依頼者は多くの場合、「自分が望む証拠を取ってくること」が業務であり、それに対価を支払うのだと勘違いしがちだ。しかし探偵社はあくまでも「調査」というサービスを提供し、その対価を頂くとしている。そこにクライアントが望む成果を入手できるか?というのは実は関係がない。成績アップを目的として学習塾に入って授業を受けても、望む成績まで達成するかどうかはまた別の話であるのと同じことだ。塾は「授業」というサービスを提供することは約束するが、そこから先の成績アップに関しては請け負わない。正確には、請け負えない。探偵社もこれと同じ構造をしている。
探偵社にとっての戦いは「有効な証拠を最短の手順で入手する」のように思える。が、実はそうではない。彼らの戦いは「いかに多くの調査費用をクライアントに支払っていただくか?」である。もちろんクライアントが望む証拠の入手も戦いの一つではある。クライアントはそれが欲しくて探偵社に問い合わせたのだから。そして探偵社は「努力します、できる限りのことをします」という。しかしながら、そこに成果(=証拠の確保)への請負が無いのは先述の通りだ。ただ、決まった単位の時間や人員を投入して、指示のあった場所で調査という名目の作業をする。それが空振りに終わっても、うまく証拠が取れても、実は探偵社には報酬が増えるわけでもないーーいや、むしろ、証拠を確保してしまったらクライアントは満足して「お世話になりました。ありがとう」と去ってしまうだろう。これはクライアントにとっては良いことなのだが、探偵社にとっては微妙なところだ。そう、実は探偵社とクライアントには利益背反の関係性があるのだ。
「浮気調査が良いところまで行ったけれど、あと一歩のところで見失いました。」
「次こそは必ず…あ、もう契約した時間パックが残っていない…ぜひ追加調査パックの検討を…」
これが探偵社のジャスティスであるし、違法なことは全くない。探偵社はサービスを提供して、その中身に満足する/しないのレベルの話である。先ほどの例の場合、もちろんクライアントは怒って良い。なぜ失敗するんだ、とか余計な費用がかかりすぎる、とか、怒って良い。そして怒って立ち去って、もう使わなければ良い。別の探偵社を探しても良い。もしこれが他の一般的なサービス、たとえば美容院であればその腕前が気に入らなかったら、もう行かないということが当然かと思う。
しかし探偵の場合は、そうもいかない。
なるべくならば誰にも言いたくもない秘密を打ち明けて、対象者に内密に調査をし、幾ばくかの情報が断片的にでも手に入っていたら、もう後には退けなくなる。また、別のところにイチからお願いする苦労も脳裏をよぎる。そのため、追加費用を支払って、継続をする。これは探偵というサービスが持つ特殊性だ。また、探偵を使うという時点でクライアントは大変困っており、藁をも縋る思いでネット検索して辿り着いた探偵社に、もはや頼り切る他ない。これを探偵社も、わかっている。
探偵社にとってはクライアントの依頼内容を、なるべく延ばし延ばしにして、支払える限りで搾り取ることが最適解となる。言い方は悪いが、食い物にしてしまう。これは善悪を別にしたら、ビジネスモデルとしては大変有効であると言える。違法でもない。顧客の弱みを知り尽くしているが故の、計算されたビジネスモデルだ。何よりも、クライアントが弱っている状態で正常な判断が難しい商材であるというところが難しい。
今では独立し、私立探偵して活動している小沢さんも駆け出しの頃は探偵社に所属していた。その中で、探偵社というもののビジネスモデルの実態を知った。上述のように、弱って困っているクライアントの生き血を、細く長く吸い続けることが一種の最適解である探偵社というビジネスモデルがまかり通っているこの現状に、ただひとり抗ってみようと思い独立した。
困っている依頼者を、ひとりのヒトとして助けたい。自分の能力を最大限に活かして、貢献をしたい。そのような「俠」の心意気でもって依頼を請ける。クライアントと一心同体で取り組む。依頼者と利益背反をしたくない。職業人として「探偵」をしたい。
そこには「生業」のひとつのカタチがあった。
つづく
ヤコバシ著
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