みんな美味しいカサゴ
私が釣りを始めたきっかけは、大学院の研究対象がメバルであったため、自分で釣る必要があったからでした。当時住んでいた広島では、メバルは簡単に釣れますが、地元の兵庫などではなかなか難しく、カサゴの方がよく釣れていました。ただ、釣れにくいメバルよりも、カサゴの方が肉厚で美味しいというのが本音です。
和名:カサゴ
学名:Sebastiscus marmoratus (Cuvier, 1829)
分類:スズキ目、メバル科、カサゴ属
生息: 北海道〜九州南岸の大平洋沿岸、[鹿児島県種子島]、北海道〜九州南岸の日本海・東シナ海、瀬戸内海、八丈島
解説
日本全国で獲れる魚だと思いますが、瀬戸内や九州の府県で人気があると思っています。というのも、「ガシラ」「ボッコウ」「アカメバル」など中国や九州地方での地方名をよく聞くためです。胴付仕掛けや穴釣りで容易に釣ることができますが、結構な高級魚らしいです。言われてみれば、スーパーやよく行く漁港の市場では見かけません。数年前に明石の料亭でカサゴの煮付けをいただきましたが、信じられないくらい美味しかったです。出汁がよく出ていて、味が染み込んでいて柔らかいというのを通り越して、飲める感じでした。そんなカサゴは私たち人間以外にとっても美味しいようです。
私は水産学部をでていることもあり、魚病の授業を受けることがありました。また、大学院の指導教官も魚病学研究室の出身でした。魚の病気には、細菌が原因の穴あき病やカビが原因のわたかぶり病など多様な生物が魚に寄生することで発生します。その中には、私が専門にしている扁形動物単生類が原因のものもあります。単生類は魚のエラに寄生して血液を吸ったり、体表に寄生して皮膚の粘液を食べます。少しくらい寄生するのには問題ないのですが、“密”になってしまう養殖場では大量に繁殖し、貧血や皮膚病の原因になります。
ああ夏休み!
カサゴに寄生する魚病の原因になる単生類の1つが、マハタハダムシ(Benedenia epinepheli (Yamaguti, 1937) Meserve, 1938)です。この単生類は、名前の通り体表に寄生して、体表の粘液を食べるため、養殖場ではときおり問題になります。私もカサゴを解剖した時に何度か見つけたことがあるのですが、7、8月にしか見つけられませんでした。地域的なものかわかりませんが、水温が上昇すると単生類のような外部寄生虫が増える例はあるので、夏休みになったときの小学生のようにスイッチが入って増えるのかもしれません。あと、この単生類は25種の魚類から見つかっています。単生類は特定の魚類にしか寄生しないことで有名なので、珍しい例です。
悪いのはどっち?
もう1つの魚病の原因になる単生類が、コガタツカミムシです。魚病の教科書には、「ミクロコチレ症」の原因の寄生虫と書かれていますが、これはコガタツカミムシを学名でMicrocotyleと呼ぶためです。この単生類は、魚のエラに寄生して血液を吸うため、養殖場などの“密”な環境下では大量発生して、魚に貧血を起こさせます。ちなみに、貧血を起こすと真っ白になってしまうため、売り物になりません。魚病の教科書には、Microcotyle sebastisciが病原と書かれていますが、この名前の単生類はもういません。この単生類は、1958年にカサゴのエラから見つかったとされたため、カサゴの単生類として認識されてきました。要は、「カサゴから単生類が出てきた=Microcotyle sebastisci」となっていました。しかし、2020年にこの単生類は、1894年にメバルから見つかったMicrocotyle caudataと体のつくりも、DNAも同じであったことがわかりました。そのため、今はMicrocotyle sebastisciはMicrocotyle caudataとすることになりました。
これで終われば、ミクロコチレ症の原因はMicrocotyle caudataとなるのですが、2020年の研究ではカサゴにMicrocotyle kasagoという新種が寄生していたことが報告されています。そのため、現在カサゴにはMicrocotyle caudataとMicrocotyle kasagoが寄生することがわかっており、どちらが原因かはわかっていません。
みんな美味しい?
カサゴはとても美味しい魚ですが、それは人間にとってだけではないようです。カサゴを解剖すると先述した寄生虫以外にもいろんな寄生虫を見つけることができます。代表的なものには、食中毒の原因となるアニサキスもいました。ただ、カサゴは大きいものでも20〜30cmくらいなので刺身にすることはないと思うので、アニサキスにあたる心配はないでしょう。消化器官の中にも吸虫や条虫(サナダムシの仲間)がいます。興味がありましたら、釣って食べる前に注意深く観察してみてください。最後に、先週Twitterで「#寄生虫動画祭」が行われており、私が投稿した中で一番人気があった胆嚢吸虫の動画をあげて終わりにします。
参考文献
https://www.zukan-bouz.com/syu/%E3%82%AB%E3%82%B5%E3%82%B4
Ogawa, K., Bondad-Reantaso, M. G. and Wakabayashi, H. (1995a). Redescription of Benedenia epinepheli (Yamaguti, 1937) Meserve, 1938 (Monogenea: Capsalidae) from cultured and aquarium marine fishes of Japan. Canadian Journal of Fisheries and Aquatic Sciences 52: 62–70.
Yamaguti, S (1958). Studies on the helminth fauna of Japan. Part 53.
Trematodes of fishes, XII. Publications of the Seto Marine Biological Laboratory 7: 53–88, 2 pls.
畑井喜司雄・小川七郎・塚島康生 (1982). 養殖カサゴの鰓に寄生する Microcotyle sebastisci の駆除. 長崎県水産試験場研究報告 8: 41–46. (Hatai,
K. Ogawa, S. and Tsukashima, Y. (1982). Control of Microcotyle sebastisci parasitizing the gills of cultured rockfish, Sebasticus marmoratus. Bulletin of Nagasaki Prefectural Institute of Fisheries 8: 41–46. [In Japanese with English title])
Ono, N., Matsumoto, R., Nitta, M. and Kamio, Y. (2020). Taxonomic revision of Microcotyle caudata Goto, 1894 parasitic on gills of sebastids (Perciformes), with a description of Microcotyle kasago n. sp. from Japan. Systematic Parasitology 97: online first. DOI: 10.1007/s11230-020-09925-5
新版 魚病学概論 小川和夫・飯田貴次 恒星社厚生閣
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