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クビナガ鉤頭虫

ここでは、私がこれまでに見つけた動物を気まぐれで紹介していきます。今回はマダイやクロダイに寄生している寄生虫です。見慣れないかもしれませんが、結構有名な寄生虫です。

和名:クビナガ鉤頭虫
学名:Longicollum pagrosomi Yamaguti, 1935
分類:鉤頭動物門、古鉤頭虫綱、鉤頭虫目
生息:マダイ, トラフグなどの腸管内

まずは自己紹介

そもそも、鉤頭虫は「コウトウチュウ」と読みます。体の前方に大きな吻が飛び出しています。この吻には多数のとげがかえしのようについています。これを、魚類や鳥類など脊椎動物の腸壁に突き刺しています。消化器官はなく、体表から直接養分を吸収します。体内にあるのは生殖器くらいで、雌雄異体です。詳しい鉤頭虫の体の構造を知りたい方には、目黒寄生虫館のサヨリの鉤頭虫のTシャツの購入をお勧めします。

苦い思い出

個人的な思い出なのですが、この寄生虫はとても取りにくいです。吻のとげがかえしになっているので、引っ張っても外れません。力を入れたら取れるのですが、吻を残して胴体だけがとれてしまいます。しかも、吻のとげの数が種同定に重要であることから、腸壁を少しずつ引き剥がして取る必要があります。大学院生の時に、初めてこの寄生虫を見つけて、胴体だけを引っこ抜いてシャーレに並べていたら、教授にしこたま怒られました。

魚病の原因

このクビナガ鉤頭虫は、マダイをはじめ私たちが食用としている魚種の腸管に寄生します。クビナガ鉤頭虫症とよばれる魚病の病原です。魚の直接の死因になることはありませんが、大量に発生することで成長の低下や免疫の低下などを引き起こします。養殖場では、ヒトには害を与えないものの、魚の成長が悪くなることから、対策が必要とされています。
クビナガ鉤頭虫の生活環は少し複雑です。マダイなどの魚の腸管でクビナガ鉤頭虫は産卵します。クビナガ鉤頭虫の卵は排泄物と一緒に海中に放出されます。卵は海中をただよい、ワレカラという端脚目(ヨコエビの仲間)の動物に食べられます。このワレカラの体内で、クビナガ鉤頭虫は成長し、魚がクビナガ鉤頭虫の幼虫に寄生されているワレカラを食べることで感染します。
養殖場では、餌を人工物にするなどして予防しているのですが、ワレカラは船着場のロープなどにいくらでもいる動物であることから、完全に予防するのは難しいようです。私の情報はとても古いので、今は革新的な解決策があるのかもしれません。ただ、クビナガ鉤頭虫の予防のためには、クビナガ鉤頭虫が一年のいつ頃発生するのか?ワレカラはどこにすんでいるのか?など、フィールドワークも行う必要があります。寄生虫を理解するには、寄生虫のことはもちろん、宿主である魚類や感染経路の無脊椎動物のことを知らなければなりません。このようなことがあるため、寄生虫研究は総合学問と言われることがあります。

参考文献

Yasumoto, S. and K. Nagasawa (1996): Possible life cycle of Longicollum pagrosomi and acanthocephalan parasite of cultured red sea bream. Fish Pathol., 31, 235-236.
水産研究部だより 三重県科学技術振興センター 平成20年3月

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