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リスト作成
カワニナに寄生していた吸虫の幼虫は、形態が未成熟であるため種同定ができませんでした。そこで、DNA解析を行って、同じ塩基配列を持つ吸虫の成虫を探すという方針に転換しました。オヤニラミに寄生するCoitocoecum plagiorchisの塩基配列はすでに分かっていたので.カワニナの寄生虫のDNA解析を続けていれば、いずれみつけられるのではないかと期待していました。
寄生虫研究(分類学)の課題
同じ塩基配列をもつ吸虫の成虫を探すという方法には1つ問題がありました。カワニナに寄生している吸虫の幼虫から得られた塩基配列は、C. plagiorchisと異なるだけではなく、未知の塩基配列をもつ吸虫ばかりでした。なんとなく予想はしていたのですが、吸虫の塩基配列はほとんど解明されていません。吸虫は動物の体内に寄生しているため分かりにくい(発見されていない)のに加えて、種同定に専門的な知識や技術が必要とされるため、DNA解析も含めた体系的な分類学的な研究が行なわれていないことがあげられます。そこで、カワニナに寄生する吸虫の幼虫だけではなく魚などに寄生する成虫のDNA解析も同時に進めることにしました。
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わからないことだらけ
私が細かい作業が苦手ということもあり、カワニナの寄生虫からDNAを抽出するのは苦労しました。2ヶ月間の調査で得られたカワニナの寄生虫のDNA解析をおこなった結果、3種類の寄生虫がいることが分かりました。また、この3種の寄生虫のDNAは*Genbankにも登録されていませんでした。この3種のDNAを*BLASTにかけたところ、コウモリやネズミや猛禽類に寄生している吸虫のDNAと類似していることが分かりました。残念ながら魚の吸虫と類似した塩基配列は見つけられませんでした。その後も調査を続けたのですが、得られたDNAは鳥類やヘビなどの吸虫のDNAでした。この調査で、多くの吸虫が小さな川に生息するカワニナを中間宿主としていることがわかりました。また、この調査で発見したほぼ全てのDNAが未知のものでした。
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ついに発見!?
このように、カワニナの寄生虫のDNA解析を行い、類似したDNAを持つ吸虫を調べてリストを作っていきました。このリスト作成をはじめて8ヶ月ほどたった時、ある有名な魚の吸虫とよくにたDNAをもつ吸虫の幼虫を発見しました。後に魚から成虫を採集し、DNAを解析したところ塩基配列が一致しました。ついに生活環の一部が明らかにすることができました。
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参考文献
湖と川の寄生虫たち 浦部美佐子 サンライズ出版
注釈
GenBankは、米国生物工学情報センター(NCBI; National Center for Biotechnology Information)が提供している、塩基配列データを蓄積・提供している世界的な公共の塩基配列データベースである。
BLASTは,DNAやタンパク質の配列をアライメントに基づいて比較し,データベース (DB) 検索を高速に行うソフトウェアのこと。研究や実験で塩基配列を得たとき、その配列とよく似た塩基配列を検索することができる。