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新たな課題

調査地点としていた姫路市を流れる川に生息するカワニナから、Genarchopsis属吸虫と同じ塩基配列の寄生虫を発見しました。そのため、目標の魚種をオヤニラミからヨシノボリもしくはドンコに変更しました。これらの魚からGenarchopsis属吸虫と同じ塩基配列をもつ吸虫が見つかれば、当初の目標とは異なりますが、吸虫の生活環の一部を明らかにしたことになります。

調査河川で採集したドンコ

ヨシノボリって?

ヨシノボリは、アジアの温帯·熱帯地域の淡水や汽水に生息するハゼ科ヨシノボリ属の総称です。とても種が多様な魚類であることから、種同定の困難な魚類の1つです。私たちが調査地点としている兵庫県でヨシノボリをつかまえた場合、だいたいカワヨシノボリではないかと思われます。流れのゆるやかな所であれば、山の渓流から街の用水路まで多くの場所に生息するとても身近な魚です。そのため、兵庫県では准絶滅危惧種に指定されているオヤニラミと異なり容易に入手することができました。

腸管に寄生するGenarchopsis属吸虫

成虫発見

Genarchopsis属吸虫の成虫もすぐに入手できました。難しかったことといえば、ヨシノボリが小さかったことでしょうか?DNA解析の結果、データベースに登録されている中部日本のGenarchopsis goppoの塩基配列と同じであったことから、中部日本型のG. goppoと結論づけました。本来であれば、形態観察も加えるべきだったのですが、採集した吸虫も小型(未成熟)であったため種同定はできませんでした。しかし、改めて文献調査を行ったところ、中部日本型とされていたG. goppoは、雄性生殖器の形状からG. chubunesisと記載されていました。私達が見つけたGenarchopsis属吸虫もG. chubunesisの可能性が高いと思われます。

2mmに満たないGenarchopsis属吸虫。黄色いのは卵。染色すれば内部構造がよくわかるようになるが、このサイズではおそらくまだ未熟だと思われる。

新たな課題

私達が発見したGenarchopsis属吸虫がG. chubunesisかどうかを形態学的に調べることは大変重要です。もしかすると、すでに報告されているG. goppoとは異なる生活環を持っている可能性があるためです。また、この私達が見つけたGenarchopsis属吸虫がG. chubunesisの可能性が高いというのは、そこそこ重要な初記録です。というのも、大阪府, 兵庫県, 岡山県からGenarchopsis属吸虫の報告がありません。これは、G. goppoとG. chubunesisの分布境界線が大阪府, 兵庫県, 岡山県のどこかにあるらしいことがわかっていましたが、誰も調べていなかったことでした。
ここ3年は、新型コロナウイルスにより活動が制限されたことからこの川の調査は行っていませんでした。しかし、分布境界線を判明させることは進化や地質学的な分野の知見となると考えられます。少しずつでも進めていきたいと思っています。

【参考文献】

T. Shimazu,2015. Digeneans Parasitic in Freshwater Fishes (Osteichthyes) of Japan. Ⅳ. Derogenidae. Bulletin of the National Science Museum. Series A, (Zoology) 41(2):77-103
M. Urabe, T. Nishimura, T. Shimazu, 2013. Taxonomic revision of three species of the genus Genarchopsis (Digenea: Hemiuroidae: Derogenidae) in Japan by molecular phylogenetic analyses. International Parasitology, 61: 554-560

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